美味しいニジマス料理
今日は友人に連れられて、養殖場に来ました。魚料理が無料で食い放題というのに釣られてホイホイついていく。お持ち帰りもオッケーなので空のタッパーも持っていく。
友人の運転する車に乗り助手席から風景を眺める。天気もいいし、景色もいい。ドライブにはいい日和だ。
友人は大学院で研究するインテリ、これから行く養殖場もその大学の研究施設。友人にその施設でTウイルスとか作ってんの?とか聞いたら、そんなもん作ってない。作っても金にならんだろ、と怒られた。
友人がしてるのは養殖の研究。水槽の水温や水質、餌などの工夫でローコストで魚が病気になりにくい環境を作るのがテーマ。
現実的過ぎて、夢がない研究だな、と言ったら、おまえは研究者になにを期待してるんだ、とまたまた怒られた。
いや期待するでしょ、遺伝子実験で足が六本ある鶏とか、食べるとこ増やすためにダックスフンドみたいに胴が長くなった牛とか。牛乳出やすくするためにエサにホルモン剤混ぜて乳牛に与えてたら、その肉を食べてた村の人達もホルモン異常になって女性はみんな巨乳、男性はみんなカマっぽくなってしまった村とか。大量発生を解消するための、クラゲを美味しく食べる調理法の研究とか。
おまえの知識はなんでそんなに偏ってんだ、と友人に突っ込まれつつ目的地に到着しました。
そこら中に養殖用の池のある広い施設。なにも怪しいところは無い。こういうふうに外面を上手く作っているところでこそ、その内部では外に出せないような研究をしてるに違いない。
ごめんなさい、もう馬鹿なこと言いません。ニジマスが元気にビチビチしてる池に落とそうとするのは、やめてください。お願いします。
おとなしくして友人についていく、案内されたのは寮の一部屋、さっそく料理が出される。好きなだけ食ってけ、ということで遠慮なく。がっつり食べるために朝と昼は抜いてきました。まずはイクラ丼、普通のイクラよりも一粒一粒が少し大きくて歯ごたえもあるが新鮮で美味しい。イクラ丼と言いながら、イクラが7、白米が3、イクラが多くて白米が見えません。ニジマスのお刺身、美味い赤身美味ーい。漬けもクリームシチューも上手い。燻製も友人のお手製、燻製のチップにこだわってサクラチップを使ったと、この燻製が絶品。一度こだわりだしたらとことん追及する大学院研究生の徹底した管理と作業で作られた究極の燻製。これ、どこの料亭持っていっても勝てる。美味過ぎる。
これも食ってみてくれ、と刺身が出される。さっきの刺身よりも色が少し暗い。食べてみるとかなり歯ごたえがしっかりしている。味はさっきのニジマスの刺身と同じぐらい。ただ、ハーブ?のような青臭い香りが口に残る。これは?
「ニジマスのエサににお茶っ葉を入れて食べさせてたものだよ」
なんでもお茶っ葉に含まれる成分でこのエサを食べたニジマスは病気になりにくくなる。しかも、さばいたあとの肉は普通のニジマスより腐敗するまで3倍長持ちするという。欠点は色味と香りの変化、肉の固さ。エサだけでずいぶん変わるもんだ。
こっちもどうだ、珍しいぞ、と出された刺身は少し白っぽい。ひとつ食べてみて……さっきの普通のニジマスの刺身と味は変わらないけど?
「そりゃそうだ、アルビノのニジマスで色素が少し違うだけだからな」
なるほど、アルビノって全身真っ白なやつだよね、そりゃ珍しい。
かなりの量を平らげた、さすがにもう食えない。まだあるぞとか言われても、もう無理。こんだけ食って無料でいいの?
「あぁ、実験に使ったあとの残りカスだし、もともとがクローンだからな」
ふーん。クローンのニジマスなんて初めて食べた。美味いもんだな。
「……動じない奴だな、だから呼んだんだけどな」
なんでも養殖の実験なんでサンプルは大量に必要。エサや水温の変化が個体に及ぼす影響を調べるために血液と内蔵を調べるが、身は捨ててしまうとのこと。血液内のNK細胞が云々えーとむずかしい話はパスで。
残った身を捨てるのももったいないのでこうして食べてるのだけど、量が多すぎてここの職員だけでは食べきれずに、捨てる量のほうが多いとのこと。いくら無料でも毎日ニジマスはさすがに飽きる。
残った身を加工して売ればいいんじゃね?
「この養殖場は国の施設だからな、勝手に売買するのは犯罪になるんだよ」
それはもったいない話だ。廃棄するのは良くても売っちゃいけないとか。……俺が食うのはいいの?
「おまえから金とってないし、職員とその友人が廃棄物、勝手に食べるのはギリオッケー」
そんなら、燻製とイクラをタッパーに詰めて持って帰る。いやぁ久しぶりに魚をいっぱい食えて満足満足。
クローンとか美味しく食べられれば問題無い。むずかしいことワカランし。
終