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トリスター家のあれこれ

僕が見るこの景色

作者: 月鳴

Q.何故今更続編を書いたのか。

A.二番目の兄さんが私の頭の中で囁いたから。(降りてきたってやつです)


【補足説明】

トリスター家の兄弟構成→長男次男長女次女三女三男四女の7人兄弟。


今回は次男と三女(彼は私を愛さない主人公)の話。他の姉妹の名前もちょろっと出ます。

 

 一番結婚とは縁遠そうな三番目の妹が結婚した。それも優良物件の相手(ヴァイス家の長男)とだ。


 ──この時僕は、すごく不安に思った。


 彼女、ナターシャは頭のいい子だった。すぐ下の一番目の妹リュドネも頭のいい子ではあったけど彼女たちのタイプは全然違う。感情や心の機微を察するのに長けたリュドネとどちらかといえば男性的な合理主義で物事を捉えるナターシャ。そんな彼女らの賢さを比べるのは元より同じ土台に並べるのは少し無理があるだろう。

 いずれにせよ、僕にとっては可愛い妹であることには違いないのだけど。

 僕たちきょうだいの中で一番に結婚したのはリュドネだ。彼女の結婚相手は王弟のご子息である。王弟殿下はともかくご子息自体は王位継承権も低く特に政治的なパワーは持たないけれど、王家の者と縁繋ぎをするのは我が家を確固たるものにするのに必要で、父の悲願だった。

 たまたま適齢期に入り相手を探し始めたご子息と、姉妹の中で最も美しいとされ(僕にとってはみんな等しく美しい妹たちだよ)内面も穏やかで聡く優しいリュドネは見た目を含む資質も家柄も相応しく(もちろん父の手も入っているけど)よって婚姻を結ぶ運びとなったのだった。

 トリスター家は野心溢れる一家だと言われていて、確かに王宮内で発言力を持ち豊かな土地や財産を得ている我が家は自治国にもなれてしまう可能性があることは否定しない。けれど反旗を翻す気も独立する気も今代当主の父にはなかった。またそれを継ぐ兄にもだ。……まあ数代前ならあったかもしれないが。そのころではまだ今ほど力もなかったのでやっぱり同じ結論になっただろうけれど。だからこそ今があるわけで。

 王家もそんな我が家のことをよく理解しており、友好的に事が済むのであればうちから嫁取りするも良しと考えたようだ。うちは利用価値も高いしね。

 話は逸れたが、とにかく簡単にまとめると王家と我が家の利害が一致したので、二人は結婚したのだ。細かい話はまた機会があればすることもあるだろう。


 リュドネが結婚した時、僕に不安は一切なかった。さっきも言ったけど彼女は優しく聡い。その上トリスターの教育を受けているのだ。政治面でも、感情面でも、問題が起きればうまく納められる器量があった。些細なことから多少の大事にもきちんと対応できると思ったし実際そうであった。

 また相手の方も温厚で慈愛深い人であるのは有名な方だ。きっと彼は政略といえど妹を尊重し大切にしてくれるだろう。その人に直接会った父や兄もそのように言っていたから上手くいくだろう確信を得られて僕に不安は本当になかった。

 ところが、だ。三女のナターシャはどうだろうか。あの子は学者肌というか研究者質だった。トリスターの女としては異質でも自分に似ているあの子を多分一番可愛がったのは僕だ。だからあの子のことはよくわかる。どんなことを感じて、どんなことを考えるかも。

 ナターシャは頭の回転が速く勤勉で真面目だったけれど、問題を挙げるならば、……どうにも感情面が疎かった。

 人嫌いを自称している僕も偉そうに言えるわけじゃないが、彼女はとっても鈍感だった。自分の心にも、相手の心にも。そして頑固…というか柔軟さが欠けていた。

 第一印象を崩すことはほとんどないし、自分の移ろいゆく感情にも誰かからの促しなく自覚することはまずない。

 そういう四角四面な性質と相手がぴたりハマれば問題はなかった。ナターシャも、それはそれは真面目すぎるほどにトリスターの教育を頭に染み込ませていたし、本質的に懐広く寛容な子だから大抵のことは受け入れただろう。

 しかし。……少しばかり相手が悪かった。彼女が結婚したのは王家に最も近く最も忠誠を誓ったヴァイス家の嫡男ロメリオだ。

 よりにもよってうちを一番敵視しているところの嫡男とナターシャが婚姻を結ぶだなんて!

 僕はショックを受けずにはいられなかった。どうして可愛いナターシャをそんな針の筵のようなところに投げ入れるのか。父に抗議しようとして、一瞬思い直す。父は根拠のない進言には耳を傾けない。それに巷で悪魔と噂される父はああ見えて情の深い人だ。分かりにくいけれどなによりも家族を大事にしていることは上三人の兄妹にとって共通の認識事項だ。

 きっと父にも何か思惑があるに違いない。政治的なものだけではなく。



「はあ。あの子ときたら全く…………」


 律儀なナターシャは嫁いでからも定期的に手紙を送ってくる。家族宛と僕宛に。家族宛には息災にしていることとか子供たちのことなど普段の様子が当たり障りなく書かれている。変わって僕の方にはナターシャの個人的な相談だったり疑問だったりが書かれていた。

 これは僕が子供の頃からいろいろ教えいろいろな疑問に答えてきた名残なんじゃないかと思っている。それだけ僕に信頼を置いてくれてる証拠だ。ホントに可愛い妹だよ。


 《──この間、突然に旦那様に謝られたのですが、理由もわからず困っています。私は一体どうしたらよいのでしょうか?》


 けれどこの鈍感さは如何なものか。


 生真面目なナターシャは僕に初夜の日に何があったかをきっちり教えてきた。僕としては家族のそういうアレやコレやなんて出来れば知りたくなかったけど、ま、仕方ない。そういう訳で僕の不安は的中したことを知る。

 ヴァイス家が僕たちを注視していることは知っていた。注視されるような噂があることも、される背景があることも。でも当時の当主殿は割合穏健派だったから、もしかしたら平穏に行くかもしれないと思っていた。思いたかった。

 でもそんな希望的観測は、やっぱり希望的観測でしかなかった。

 ナターシャが嫁いだ彼ロメリオはどうやら強い警戒と敵意をうちに持っていたらしい。それが家にだけ向いていればまだよかったのにロメリオはナターシャにも向けたものだから、さあ大変。二人の関係はこじれて始まってしまった。

 普通の人同士だってこじれたものを直すのには相当な努力が必要なのに、その相手がナターシャときたらその何倍、いや何十倍の努力が必要になることか。何せあの子は鈍感で、心の機微には疎い。その上相手は異性な訳だから察するなんてこと、期待しない方が賢明だ。

 いろいろあってロメリオは改心したようだけれど、はっきり言ってしまえば手遅れだ。理由は言わなくてもわかるだろう。

 ナターシャは向けられた敵意を何疑うことなく受け入れてしまった。そしてそれがずっと続くと思っている。トリスターの女は男に抵抗しないという面も悪い意味で出てしまった。これはかなり詰んでる状態だ。


 ……ただ。兄の僕はこうも思う。

 これをきっかけにナターシャが変わっていければ、と。


 他人にも、そして自分にも必要以上に興味を持てなかったナターシャがこうして僕に相談の手紙を送ってくるのだ。これまでだったら適当に受け流すか無視していただろうに、わざわざ誰かに尋ねて解決しようとしてるということはそこに一縷の望みがあるということ。

 もう結婚しているのにおかしな話かもしれないけど、そこからナターシャがロメリオに心を許し、あわよくば恋を覚えて、実を結び、もっと心豊かに暮らしていければと。

 不肖の兄ながら、僕はそう思うのだ。

 だってナターシャがこんな風になってしまった一端はおそらく僕にあるからね。

 好奇心があって知識欲旺盛な妹に面白がってあれこれ仕込んだのはこの僕だ。そのせいであの子は頭でっかちになって元々の感情への鈍さが増してしまったことは否めない。

 その詫びというか償いというか責任いうか。原因の僕が少しでも協力しないとね。


 あ、もちろん一番は妹の幸せのためだよ。




 今日も我が家に妹からの手紙が届く。やっぱり届いた僕宛を片手にふと思う。


 ──今ならわかる、この結婚はナターシャが一番適任だったのだと。次女のヴィヴィアンは微妙な力関係の両家にうまく橋渡しができるほど知恵は回らない。彼女は気が強いため警戒心の強いロメリオとは対立してしまうことだろう。四女のジュゼットでは年が離れていて幼い子供には重責だ。ロメリオもさすがに子供には当たらないと思うけれど、そのままではうちに対する悪感情が癒える事もないのは自明の理。

 その点ナターシャは政治に明るいし賢く、年も程よい。控えめで落ち着きのあるしかも自分を煩わせないナターシャにロメリオも絆されているようだし……なんだかんだ僕が心配していた以上のことは起きてもいないから、結局僕の杞憂に過ぎなかったのだろう。

 もし、父がここまで見通して結婚させたとしたら。

 我が親ながら恐ろしい人だ。血の繋がった家族でさえそう思うのだから、他人から悪役のように思われるのも致し方ないのかもしれない。


 なんて、僕は答えの出ない問いを考えるのはやめにした。それよりも可愛い妹と義弟になった彼へ、うまく納まるよう良きアドバイスを送るために紙とペンを持った。

 独身貴族のくせに既婚者へアドバイスするなんておかしな話だけれどね。


 ……え?僕は結婚しないのかって?

 あはは、面白い冗談だね。せめて跡取りの兄さんが結婚するまではありえないかな。





 END

ここにきてようやく三女の名前初出しです。今回、視点主の兄さんの名前はクラウス。


【簡単な兄弟紹介】

堅物長男に変人次男、嫁行った長女に未婚次女、で彼は私〜の三女に、ツンデレ三男、我儘姫の末娘四女。長女は母似。長男三女は父似。次男は母寄りで次女は父寄り三男は間くらい四女は誰に似たんだこいつって感じ。


自分のTwitterから引用です。若干設定変わってるけど。

全員ちゃんと名前もあります。

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