帰ってきたイケメン妖怪ハンターリックの冒険
帰ってきたリックです。
リックは古今無双のスケベ妖怪ハンターです。
今日も、美人幼な妻の遊魔と共に妖怪を探して旅をしています。
(お腹減ったにゃん。もう一週間も何も食べていないにゃん)
ここのところ、賞金首の懸かった妖怪を退治していないので、一文無しなのです。
「お前様、あの宿屋で給仕を募っていますよ」
遊魔が言いました。
「うう、背に腹は代えられないにゃん。行ってみるにゃん」
二人は完全な人間の姿に変化して、その宿屋に行きました。
「申し訳ないけど、募っているのは若い女の子だけで、むさいオヤジは必要ないんだよね」
応対した給仕頭の樽のように太った女性が横柄な態度で言いました。
「むさいオヤジじゃないにゃん、イケメンにゃん!」
抗議するリックですが、鏡を見せられ、仰天しました。
やつれて無精髭が生えたその顔は、どこからどう見ても痛風持ちの中年アル中オヤジでした。
(お腹が減り過ぎて、今はこれが精一杯)
万国旗も出せないほど弱っているリックです。
「私が二人分働きますから、この人にも食べさせてください」
遊魔が目をウルウルさせて懇願しました。すると何故か給仕頭は顔を赤らめて、
「いいだろう。その代わり、寝る間も惜しんで働くんだよ」
「はい、橋田先生」
遊魔はボケではなく、本気で言いました。
「誰が大根飯だ!」
給仕頭は切れました。リックは唖然としました。
そして、遊魔はその宿屋の衣裳に着替えました。
「お前様、どうですか、似合っていますか?」
与えられた部屋でぐったりしていたリックに遊魔が衣裳を見せに来ました。
「え?」
リックは目を見開きました。それはどう見ても「遊女」の衣裳だったのです。
(ここはそういう店だったのかにゃん!?)
リックは遊魔が弄ばれてしまうと思いましたが、クウウッと鳴るすきっ腹には勝てません。
「に、似合ってるにゃん、遊魔。すごく、可愛いにゃん」
リックは心を鬼にして微笑みました。
「そうなんですか」
遊魔は笑顔全開で応じました。
「お客様だよ、遊魔さん」
給仕頭が告げました。
「はあい」
真相を全く理解していない遊魔は嬉しそうに返事をし、部屋を出て行きました。
(遊魔が心配にゃん)
リックは這いずるようにして部屋を出て、遊魔の所に向かいました。
「むほほ、これはまた飛び切り可愛い子じゃな」
遊魔がついたのは、ハゲデブの金持ちジイさんでした。
リックの将来のような姿をしています。
「僕はあんなにブサイクで太ったりしないにゃん!」
天井裏から覗いていたリックは心ない発言をした地の文に切れました。
「むむ?」
リックの妖怪探知能力が発動しました。
(あのジイさん、妖怪かにゃん? 様子を見て、退治するにゃん)
リックは途中で見つけた賄い飯を食べながら思いました。
ところが、ジイさんは嫌らしい目つきで遊魔を見たり、下ネタを言ったりしますが、触ったりはしません。
結局、ジイさんは食事をして帰ってしまいました。
(お触り厳禁なのかにゃん?)
少しホッとしたリックです。
「ありがとうごさいました」
遊魔はじいさんを見送りました。すると給仕頭が来て、
「さあ、次のお客様だよ」
休む間もなく次の部屋に行く遊魔です。リックは賄い飯を全部口に押し込んで、天井裏を移動しました。
ところが、遊魔は次々に接客をしましたが、どの客もお触りはせず、帰っていきました。
(結構、しっかりしたお店みたいにゃん)
リックはホッとしましたが、妖怪探知能力は発動したままです。
(おかしいにゃん。お腹が減り過ぎて、力がおかしくなったのかにゃん?)
おかしいのは昔からだと思う地の文です。
「うるさいにゃん!」
チャチャを入れた地の文に切れるリックです。
「遊魔さん、これで最後のお客様だよ」
給仕頭が告げました。
「どうも」
そこに現れたのは、何とリックの幼馴染のガックでした。
(うおお、ガック! お前、無事だったのかにゃん!?)
以前、ガックは恋人と妹を捨てて逃げて、ボコボコにされたはずなのです。
「遊魔ちゃん、こんな所で再会するなんて、嬉しいよ」
いきなり遊魔の肩を抱くガックです。
(ガック、それ以上何かしたら、許さないにゃん!)
歯軋りして堪えるリックです。
「おや?」
さっきより妖怪の気配が強くなりました。リックは首を傾げました。
(もしかして、ガックだったのかにゃん?)
すると、ガックが今度は遊魔の胸に手を入れました。
「ガック!」
リックが激怒して飛び出そうとした時です。
「お客様、掟に背いたので、お仕置きです」
どこからか、声が聞こえました。
「は?」
それでも遊魔の胸に手を入れたままのガックです。次の瞬間、ガックの背後から大きな手が出て来て、ガックを鷲掴みにすると、消えてしまいました。
「な、何だにゃん、今のは?」
唖然とするリックです。
「大丈夫だったかい、遊魔さん?」
給仕頭が慌てた様子で部屋に飛び込んできました。
「大丈夫です、橋田先生」
遊魔がまたボケたので、
「誰が渡鬼だ!」
給仕頭はまた切れました。
落ち着いたところで、リックは給仕頭から事情を聞きました。
お店は健全な食事処で、お触り厳禁なのですが、時々、ガックのように掟を破る不届き者がいるので、妖怪を雇ってお仕置きしているのだそうです。
「そうなんですか」
思わず遊魔とあのお師匠様の口癖で応じてしまうリックです。
「遊魔さんはこのお店の稼ぎ頭になれるよ。ずっと働かないかい?」
妙に顔を赤らめて尋ねる給仕頭を見て、
(このおばさん、もしかして、遊魔を狙っているのかにゃん?)
危機感を抱いたリックは、
「旅を急ぐので、今日で辞めさせていただきますにゃん」
大急ぎで遊魔を連れ、宿屋を出ました。
「ああん、残念」
給仕頭は涙目で呟きました。
「お、俺は一体?」
宿屋の裏でボコられて倒れているガックです。
めでたし、めでたし。
第二弾、あるかも知れません。