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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
エルフ暗躍? 編
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第94話 シャルは…

 ガラガラとものすごい音を立てて村の中を台車が走るが、起きてくるアマゾネスはいない。これもまたユメトラの力だと、台車の前を走る小さなネズミ達は教えてくれた。

 

 ちなみに、響くのは台車の音ばかりではなかったりする。

 アマゾネスはいなくとも、アマゾネスとエルフが仕掛けたであろう何かは発動したらしく、そこかしこで魔法の気配がしたかと思うと、その発生源付近から黒い影がいくつも飛び出してきた。


 それは、腐臭をまき散らし、辺りにドロドロとした肉塊をまき散らす…この上なく物理攻撃に弱いけれど、その悪臭で攻撃者が大ダメージを追う厄介な生き物。


「魔物…ではなく、アンデッドの類ですね」


 そう、アンデッドである! 

 もちろん私の仲間などではないと言っておこう。


「いま、魔法は使わない方がいい…エルフにばれるから」


 目の前を走っていた隊長ねずみがそう告げて宙へと飛び上がったかと思うと、くるりと体を回転させ、そのままふわりと人間の子供の姿になって姿を現し、私達と並走する。

 

 メイド服は裏子猫隊のデフォルトですかね? まぁ、可愛いからいいけど。

 

 そんな彼女の白い長い髪はツインテール、鋭い赤い瞳はアンデッドを見据えてスッと細まり、その手には鋭く輝く巨大な鎌が現れ、彼女はそれをぐっと振り上げた。

 

「カマ・ン・ベールの錆となれ…」


 ぶぅんっと振り降ろされた鎌からは風が生まれ、一瞬でアンデッドの群れがスパッと切り裂かれ、雪の上に溶けて消えていく。

 しかし、エルフの罠は念入りで、減らしても減らしてもアンデッドの数は増える一方だ。

 

「多すぎるっ。嫌がらせかっ」


 魔法が使えない私は現在役立たず。オリビアの押す台車にしがみ付き、ただただ文句を言うしかない。

 対して、台車を押すオリビアはすらりと剣を引き抜いたかと思うと、冷静に判断し、私に向かって頷いた。


「ここはお任せください」

 

 片手に剣を構え、立ち止まる…。


 が!


「台車から手を離すなぁぁぁ~!」


 車は急に止まれない!

 台車はオリビアの方手が離れたことで勢いのままぐんっと前に押し出され、そのまま私の悲鳴と共にアンデッドの群れに突っ込んだ!


「あ、忘れてました」


 ワザとかっ、ワザとなのか!


 振り返った私の目には、剣を構え、きょとんとした表情のオリビアが写る。ただし、その距離は少しずつ離れていき、逆に近づいてくるのは腐臭と腐った肉の塊のアンデッド軍団…。

 

「ぎゃあああああ!」


 どうなったか? 

 それは…






「オリビア、アンデッドなんて連れてくるな!」


 ねずみ隊の活躍により、なんとか森の奥に隠れていたシニヨンと合流したのだが、シニヨンが開口一番にそんな可愛いことを言ってくれるので、腐肉塗れの顔を上げ、私はにやりと微笑んでそのままシニヨンの腕の中に飛び込んで、スリスリと顔を擦りつけてやった。


 秘儀、臭いものは道連れだ!


「くさっ! て、これルゼか!?」

「えぇ、我が君です。それより、顏がおかしいですよシニヨン」

「うるさいっ。男心は複雑なんだよ!」

「…あぁ、そういうことですか。心中お察し申し上げます」

「察するなっ!」


 この時、シニヨンはにやけ顔になりかけたと思ったらば、悪臭に顔をしかめるという謎の顔面運動をしていたらしい。

 私はひたすら腐肉を落とそうとしていたので、その時には気が付かなかったが、後からオリビアが教えてくれた。


 シニヨンは、初めて女性に抱き着かれた喜びと、腐肉の臭さで顔がおかしかったと…。

 早く恋人見つけてあげないとね…。




「ありとあらゆる誤解が哀れだなぁ」


 カンッと小さく音を立て、煙管の中の灰を地面に落として呟いたのは、森の茂みの中に隠されるようにして佇んでいた小さな幌馬車の御者台に座った男である。

 彼はぴたりと動きを止めた私と目を合わせ、にやりと笑みを浮かべる。


「先日ぶりだなぁ、お嬢ちゃん」

 

 先日ぶり…。

 口調は確かに知っている誰かに似ているのだが、その姿は先日会った時とわずかに違う。

 確か彼は…ユメトラの義兄で、フラウの友人の花火師であるトラの獣人だ…と思う。


 なんとなく彼ではないか…と曖昧になってしまうのは、先日出会った彼の性別は男か女かわかりづらかったのに、今は男だとはっきりわかるせいだ。

 あの時、私はなぜ彼を性別がわかりにくいと思ったのだ? 

 線はイグニスに比べると幾分細いが、腕の筋肉はしっかりしているし、胸板も厚く、肩幅だって広い。

 

 女性には決して見えない…。


「同じ人?」


 思わず聞けば、彼は笑みを深める。


「同じに見えないかねぇ? まぁ、これもエルフがやらかしたことに繋がっているせいだなぁ」

 

 からからと彼は笑う。


「エルフの? そうだ! シャル!」

 

 置いてきたフラウとシャルの事が気がかりで、二人が戦っている方向を振り返る。

 

「今、竜達は人間の識別も魔力の制御もできやしねぇ」


 ぽつりと花火師が呟き、私達はどういうことかと彼に視線を集めた。

 そもそも、ユメトラに案内役を押し付けた彼が、なぜここにいるかと言うことも気になる。もちろん彼の変化についてもだけど。

 

 一体彼は何者なんだ・・?

  

「俺のことは後回しだなぁ。まずは…竜の事を説明するかい?」


 その問いかけに首を縦に振ると、花火師は「ふぅむ」と呟いて煙管に新しい草を詰め込み、そこにぼっと炎が灯ると、男は一度煙管を口に入れ、煙を吐いて空を見上げた。

 

「竜はエルフ共の策略によって、ただのトカゲに成り下がっちまった…って言ってもわからねぇよなぁ」


 嫌な予感に、私はブルリと震え、シニヨンにしがみ付く。


「つまり?」

「竜王陛下は、嬢ちゃんの事を覚えてないってことになるなぁ」


 それは…つまり!

 つまり!


「婚約までしておいて…まさかの弄ばれ人生ぃぃぃぃ!?」


 私の、心からの大絶叫と共に、シニヨンの腰を締め付け…。


「ごふぅっ」


 ほんの少し、腰にくびれができました…。

 人が傷心なのにナイスバディになっとる場合かー!!

 

シニヨン「どっから出てきたその馬鹿力!」

ルゼ  「三度目のハートブレイク人生送れば出てくるわー!」

オリビア「はーとぶれいく?」

ルゼ  「失恋っ」

オリビア「なるほど…。ご愁傷様です」

ルゼ  「わぁぁぁぁぁん! 認めるなぁぁぁぁぁ!」


ボキボキバキバキ!


シニヨン「ぐあああああ!」


ルゼは、秘儀・失恋の痛み(馬鹿力)を習得したようだ…。


シニヨン「痛いのは俺だー!!」


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