第92話 怪しさ大爆発
リューク「少し間が開いてしまったのでおさらいのあらすじを述べよう」
アンセル「お任せください我が君。―――主人公はルゼ、アマゾネスと魔道王リュークの記憶を持ち、魔物街道をまっしぐらに進む愛らしい娘である」
リューク「おい?」
アンセル「その娘が出会ったのはシャルと言う名の竜王。彼はルゼを番にし、婚約をして本来ならばウハウハの所、持ち上がった問題『反魔法勢力』とルゼの前世の周りの者達に施された『記憶消去』。それらの裏にはエルフがいると情報を得て、エルフに会いに来たけれど、出会ったのはドワーフのようなエルフ(?)。彼等曰く、世界樹にルゼの顔をした花が咲いていることで、世界に災いがもたらされるというのです」
リューク「うむ。ルゼは災いの種と呼ばれたのだ」
アンセル「そして、その問題を私の転生体オリビアが解決していくという話ですね」
リューク「そんな事実はないっ。ゴホンッ、あ~、とにかく、戦闘は回避し、災いの種…世界樹の花についての話し合いに入ったところから物語は始まる」
アンセル「チェキラッ」
リューク「お前、そんなキャラだったか!?(汗)」
アンセル「冗談です。では、お楽しみください」
確かに外観が損なわれて、災厄というより最悪だが…。それが自分の顔となるとあまりに複雑すぎて言葉が出ない。
「これがあるからルゼは狙われるのだね…。しかし、この花が咲いたとして、どういう影響が出る物なのかな?」
フラウの質問に私達全員がうんうんと頷く。
花が咲いたから世界が滅ぶというわけでは無いだろう。現にリュークの時は一生を終えている。
私の命を奪わねばならないような、どんな恐ろしい事態が起きるのかと緊張しながら自称エルフを見れば、彼はカッと目を見開き、叫んだ。
「我等の背が縮み、ドワーフのようになった!」
それのどこが私の影響なんだ!?
「殴っていいかな?」
「我が君、気持ちはわかりますが、彼等の背がさらに縮むかと思われますのでやめておきましょう」
どうどうと馬をなだめるようにオリビアに宥められ、拳を握って震わせていた私は、ゼーハーと息を吐き出して気持ちを落ち着かせる。吐き出しすぎて咽たけど。
「エルフにとっては死活問題なのだっ」
涙目で訴えられても、それで命を狙われるのは納得いかんと言いたい。
「どこかでドワーフの血が混ざっただけとか、そう言うことではないのですか?」
オリビアは私が暴れ出しやしないかと、チラチラとこちらを見ながら自称エルフに尋ねた。
普通に考えるならばその推理が妥当だろう。
他に考えるとしたら、森の民エルフといえど長い年月の変化には耐えられず、姿が変貌したとか…。
人間だって猿から進化した生き物なのだ。エルフだって進化(または変化?)することだってあり得るだろう。
といってもこの世界に進化論は無いので、進化なんて地球では当たり前だった知識を披露しても、受け入れられることはあまり無いのだけれど…。
そう思うと、昔の学者は世界に広めるために頑張ったんだなぁ…としみじみ思ってしまった。
思考が横にそれたところで、自称エルフがバシンとテーブルを叩く。
「我等にドワーフの血は混ざっておらぬ! 世界樹は文字通り世界を支える樹。それに憑りついた災いの種は、その力であらゆるものを歪ませるという具体例を出したのだ!」
ぼんやりと考え事をしていると、自称エルフがびしりと私を指さした。
「それが影響と言うことか? だが、ルゼがどうそれを為す?」
シャルが尋ねると、自称エルフは口を尖らせ、拗ねたような様子でぼそりと答えた。
「大方、その娘が『エルフなんて縮んで毛むくじゃらになっちゃえ~っ』などと考えたのだろう!?」
毛むくじゃらな見た目ドワーフな自称エルフが、椅子の上に立ち上がり、拳を尖らせた口元に当て、お尻をふりふりと振りながら、甘ったるい高音の声で奇妙なセリフを口にした。
ドン引きだ…。
あ、引いている場合ではない。ここは大事なところだ!
「そんなこと考えたこともないし。と言うか、それは私の真似なのか!?」
「突っ込むところはそこか!?」
シニヨンのツッコミが入ったが、気になるのだから仕方ないだろうっっ。
見れば、椅子にドカリと座った自称エルフは、私の視線を受けてうんと頷く。
「若い娘とはこういうものだろう?」
「どんな偏見だ…」
脱力した。
自称エルフの中で、若い娘=乙女な行動になっているようだ。
「これがまともなエルフならばまだ美人で見られるのに…。なぜこうなった…」
「…あぁ、乙女なアマゾネスの影響でしょうね」
フラウの答えに、部屋の片隅で物言わず、ソファに腰掛けてつまらなさそうにしている乙女なアマゾネス達を見て私は納得した。
外部とほとんど接触がないということの弊害がこんなところに現れるとはっ。
そんなどうでもいいことを嘆いていると、ツッコミ以外これと言って話に参加せず、じっと壁際で腕を組んで考え込んでいた我が孤児院仲間シニヨンが首を傾げて尋ねた。
「全員は縮んでないだろう? 俺を捕えたエルフはさっき鏡に映ったような長身の美人軍団だったぞ?」
なんと?
私達の視線がシニヨンと自称エルフを行ったり来たりする。
そこから導き出される答えは一つだ。
「「「やっぱりドワー」」」
「エルフだ! その男が見たモノが間違っておるのだ!」
自称エルフの額からはぶわりと汗が噴出している。
そんなものを見て、怪しまない人間がいるだろうか…いや、いるまい。
私達の視線を一身に浴び、自称エルフはだらだらと汗を流して口を開けたり閉じたりを繰り返す。
何か、隠していることがありそうだ。
「俺の間違いでも何でもいいけど、一座の皆は無事なのか?」
どうやらシニヨンはそれがずっと気になっていたらしく、話が災いの種からそれてしまった。
だが、この質問に自称エルフはギクッと体を揺らし、それまでつまらなさそうにしていた乙女アマゾネスが、バサッと何枚もペチコートを重ねたスカートを揺らして立ち上がり、パンッと手を叩いた。
「思い出したわっ。あなた、友好の証を持った一座にいた部外者ね」
「まぁ、確かに部外者だけど、一応護衛をしてたんだが?」
シニヨンは 部外者と言われて不服そうである。
「彼等に危害を加える者かもしれないと思って、私達は貴方を一座から引きはがしたの。一座は…エルフの扮装をした仲間が森の外に送って行ったから大丈夫よ」
アマゾネスは早口でシニヨンが護衛していた一座の無事を告げたけれど…。
目が泳いでおりますよアマゾネスさん。
全員が怪しいと感じたが、あえて口は出さず、シニヨンもここはとりあえず「そうか」と素直に答えた。ヘタにつついてこちらの身動きが制限されるようなことは避けたい。
「それよりっ、ちょっと難しい話に飽きちゃったわ。今日は休んで、明日もう一度お話しするのではダメかしら? ご飯も用意するわ」
アマゾネスが「ね?」と頬に重ねた両手を添えながら首を傾げると、まるでそれに同意するかのように、ぐぐぅ~っとお腹の音が鳴った。
ちなみに、お腹の音の主は私ではない。こういう時、お腹を鳴らすのはやはり私で、顔を赤くして恥じらうなんて言うのがテッパンだが、このお腹の音の主は…。
「確かに腹が減ったかな~」
頬を染め、頬に手を添えてそっと目を逸らしたのは自称エルフであった。
「「お前か…」」
なぜか乙女ポーズをとる自称エルフに、私達はガクリと脱力する。
「じゃあ、決まりね。久しぶりのお客様だもの。腕によりをかけてご飯の準備~」
自作の歌を歌いながら、アマゾネスの娘がそそくさと部屋を出て行き、弾かれたように顔を上げたアマゾネスのモヤシ長は彼女に続いて部屋を飛び出していった。
それに続き、自称エルフももぞもぞした後、椅子から飛び降りて彼等の後を追いかけていくのだった。
「怪しさ大爆発」
私の言葉に、全員がうんと頷いた。
その夜―――
私達は…いや、正確にはシャルとフラウの人外組以外は、アマゾネスの張り切り過ぎて苦くなったらしい料理を楽しみ(?)、心づくしに感動して(?)涙を流したのだった…。
アマゾネスの手料理…
アマゾネス 「滋養強壮、精力も付いて、体にはと~っても良いご飯なの」
アマゾネス長「スミマセン…料理…止められませんでした」
緑色のドロドロのスープを口に含み、私は…悶絶しそうな苦さに耐えて涙を眼に浮かべながらも微笑んだ。微笑んだとも!
ルゼ 「(ヘル爺の薬よりは)美味しいです…」
シャル 「精力…」
ルゼ 「(シャル! 何に反応してるのっっ!?)」
オリビア「最後の晩餐…(ボソリ)」
ルゼ 「(縁起でもないわっ!!)」
これが、その夜の食事の涙の真相であった…。




