第91話 災厄の…
「まずは、災厄の種についてだが…」
オリビアと共にイグニスはテキパキと指示を飛ばし、客間の一室にイスとテーブルを用意させ、私はベッドへ、他の全員は用意された椅子に座り、ようやく落ち着いた。
椅子に腰かけているのはフラウ、自称エルフ。アマゾネスの中からは、最もフリルの多いワンピースを身にまとったツインテールの美女、それから…見知らぬもやし男が一人
。
イグニスとオリビアは何かあった時にいつでも対処できるよう席には座らず、フラウの両脇に控え、シャルは・・といえば、私の傍に腰掛けて様子を見ている。
それにしても、気になるのは見知らぬもやし男だ。
私がチラチラと視線を向けると、フラウと目があった。
「イグニス、話しの前に彼の紹介をしてもいいかな。ルゼが困惑しているし」
フラウが一度止めると、見知らぬもやし男の方を向いて告げた。
「彼は我が妻アンナの弟で、アマゾネスの族長だ」
「よろしく…お願い…します」
消え入りそうな声であいさつするのは、ふんわりとした金糸の髪に、青の瞳をした…肌の白い、ひょろりとした細身の男性である。
アマゾネスの村で村長になれる男なのだから、てっきり屈強な戦士のような風体の男を想像していたのに、蓋を開ければ、腰の細さは女性を上まわる驚きの細さのもやしっ子である。
そして、この席に着くまでのやり取りを思い出せば、アマゾネスの女性は乙女化していたものの、基本的な能力は有していた。
そんな彼女達の夫は皆揃ってこの村長に似たひょろっとしたもやし男達であったことを思い出す。
「細身の男性が流行ってるの?」
常に屈強、頑強を求めていたアマゾネスに…まさかの細身…と思ったが、一応尋ねてみる。
アマゾネスが乙女なのだから、その旦那様がひょろっとしていても不思議ではない。
…というか、もう驚かないぞ、と構えてみた。
「歴史はむごい…」
何故かぽつりとイグニスが呟いた。
わけがわからずフラウを見やれば、彼は少々目を泳がせていた。
「うん・・・。実は、彼はこれでもアマゾネスの血が最も濃い家に生まれているんだよ」
「つまり?」
「血が濃くなった弊害なのか…、昔はアマゾネスの男達も屈強な男だったのに、今ではこんなもやしに…」
ががーんっ!
そんな効果音が脳内で響いた気がした。
つまり、血が濃くなった結果が…まさかの弱体化ということだ。
かつてのアマゾネスの男は、子供の頃から強くなければ村に住むことすら許されなかったほどだったのに…。
今やモヤシとは…確かに歴史はむごい…。
ショックのあまり、呆然とする私を確認した後、イグニスは「よし」と呟いて立ち上がった。
「では、災厄の種について聞かせてもらおう」
私・・・・・放置されました・・・。
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「では説明しよう。災厄の種とは、世界に広く影響を及ぼした後、必ずその存在が消えていく魂のことを言う」
エルフの切り出しに私達はうぅむ…と唸る。
「リュークはともかく、イリューゼは何の影響も及ぼしたりはしていないと思う」
一アマゾネスが世界に影響を及ぼせるかと言うと、誰もが首を傾げてしまうだろう。
何より、花の盛り…はちょっと過ぎていたが、イリューゼは早くして亡くなったのだし。
「そうではない。魂がその時代にあることが問題なのだ」
「そう言われても…?」
私も周りの皆もよくわからなくて首を傾げる。
「一体何を根拠にその魂が災厄だと言うんだ?」
イグニスは老眼なのか、眼鏡を掛け、メモを取っている。その彼のメモ帳はかなり使い込まれていて、文字がびっしり詰まっていた。
内容は、歴史好きというだけあって遺跡や歴史上の人物に纏わる何かが書かれているようだ。
「簡単だ。我等エルフには、その存在が生まれた時、すぐにそのことを知ることができるようになる『あるもの』が存在している。それが反応するのだ」
そう言うと、自称エルフはどこからか、人の顔ぐらいの大きさの鏡らしきものを取り出した。
そこに映っているのは…?
美しいエルフの入浴シーン…。
「うおぉっ、お前っっ! エルフって言ったらこれだろう!」
驚くことに、イグニスが食いついた!
椅子から身を乗り出し、ガッと鏡らしきものを掴んで凝視する。
その姿に、鏡の内容がおかしなことに気が付いたのか、エルフは鏡の中を覗き込んでぎょっと目を剥いた。
「いや、これは違うっっ! こっちだ!」
自称エルフの男は耳まで真っ赤になりながら映像を変えた。
もう遅いがな…。
微妙な沈黙が流れる…。
「うぉっほんっ」
イグニスは咳払いしながら何事も無かったかのような、とぼけた態度で席に付き、再び写し出された映像を見て驚いた表情を浮かべた。
「これは…」
鏡の中を見つめながら、だんだん眉根が寄り、表情が険しくなっていく。
しかし…先程のエロっぷりを見たらその真剣さが嘘っぽいですよイグニスさん。
なんて、全員が思っていたのか、視線を感じたらしいイグニスが、自称エルフの男と同じようにワタワタと慌てながら鏡を自称エルフからもぎ取って私達に向けて見せた。
そこには…、
薄く緑に輝く巨木の枝に、黒に近い紫の巨大な花が咲いている…。
「エグイな…」
シニヨンがぽつりと呟いたのに、私達は思わず頷きたくなった。
幻想的な景色の中、異質さを醸し出すその花の中央には…なぜか、私の顔部分だけが付いていたのだ!
「これが世界樹と呼ばれる奇跡の樹! そして、それを蝕む災厄の種の正体こそが、そこな娘である!」
自称エルフはそう言うと私をびしりと指差し、オリビアは鏡の中を見て…ぽつりと呟いた。
「世界呪…」
その呟き…、
なんかニュアンス違いませんでしたかー!!?
ルゼ 「種じゃなくて花だ!!」
オリビア「微妙な花ですね」
シニヨン「…植物じゃないだろ…」
ルゼ 「私が悪く言われているような気がするのは気のせいか!?」
世界樹には、ルゼ花が咲いておりました…。




