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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
孤児院編
9/97

第9話 予感

 始めに感じたのは不規則な心臓の音。

 どくどくと脈打つ心臓が示しているのは予感だろうか…?


「陛下、陛下!」


 叫ぶような声にはっと顔を上げれば、細身の老人が心配そうにこちらを窺っていた。

 どうやら何度も呼ばれていたらしい。


「すまない。考え事をしていた。何かあったか?」


 老人は我が侍従であり、その長を長年務める。

 この人間は、我等竜族を恐れることなく付き合ってくれる長年の友でもある。

 もう60を過ぎているので侍従長の任を解いてやるべきだが、竜人に脅えない、意見が言えると言った人間はほとんどおらず、後任が育たないのが私とこの侍従長の悩みの種だ。


「イマネア様がまた勝手に部屋を飛び出したようで」


「あれは竜とアマゾネスの血が濃いからな」


 竜が持つ聡明で理知的な性質よりも、アマゾネスの血によって引き出される獰猛(どうもう)奔放(ほんぽう)な性質の方が強い。

 それゆえにこの城に、純粋な竜である我が元に預けられたのだが…。

 

「礼儀作法は窮屈だったか」

「でしょうな。今はイマネア様付きの騎士が気配を追っておりますが、何も言わずに抜けだすのは…」

 

 困ったものだ。

 さて、皆に迷惑をかけたことは謝らせねばなるまい。

 執務机の前から立ち上がると、軽く腰を折って礼をする侍従長の前を通って廊下へと出る。侍従長は当然のようにその後に続く。

 

 キンッと辺りに探索の魔法を張り巡らせれば、あのおてんば娘はどうやら城門前でお目付けの騎士に見つかったようだ。


「見つかりましたか?」

「あぁ、城門前に…」


 いるから捕まえて連れてきてくれと命じるはずが、この時心臓がドクリと何かを訴えた。

 

 なんだ?


 先ほども感じた予感めいたもの。

 竜の勘は常に鋭く、ほとんどはずれたことはない。となれば、この予感に従う方が得策だ。


 足を城門へ向けて歩き出すと、侍従長はほんの少し眉を上げて(いぶか)しく感じた様だが、すぐにその表情もおさめて後に続いた。




_____________



 城門に近づくと何やら騒がしい。

 

「何事だ?」

「…急病人でしょうか。医師がおります。陛下はお下がりください。うつるとことですゆえ」

「竜に人間の病はうつらぬ」


 侍従長の意見は一蹴し、何かに急き立てられるように早足で近づくと、そこには細い枯れ木のような人の腕をとり、声をかけるイマネアと、我の視界を遮り、イマネアが手を取る誰かを診る医師の姿があった。


「何事だ?」


 声をかけると、イマネアが顔を上げ、「へっ」と叫びかけて口を閉ざす。

 周りを見れば、部外者らしき子供がいたので、彼等に正体をばらさぬよう配慮したのだろう。

 暗殺防止のためにむやみやたらに貴人の正体をばらさないのはどの国も同じだが、元々の姿が竜である我が正体がばれたところで問題はないのだが…。

 ほんの一瞬苦笑いを浮かべるとイマネアは言い直した。


「急病人です」


 イマネアが心配そうに見下ろす細い腕をたどり、医師の横に回って覗きこめば、白目を剥いて泡を吹いた細身の少女が倒れていた。

 

 どくんっ


 少女を見るなり胸が大きく跳ねる。

 

 なんだ?


「もうちょっとしたら戻ってくるよ」

「いつものことだし」

「いつものこと~」


 騒ぐ大人達の横で、3人の子供達がのんびりと告げた。

 どう見てもこの少女は死にかけているのではないかと思うのだが、3人は我が視線に首を横に振って肩をすくめた。


 手を上げて医師を下がらせ、少女の傍らに膝を着いて手を差し伸べると、少女の体は思った以上に軽く、抱き上げると羽の様にふわりと浮かぶ。

 これは…食べているのか?

 

 思わず眉根を寄せて少女を見下ろすと、意識が無いと思えた少女はカッと色の戻った赤い目を開き、その枯れ木のような手で我が胸ぐらを掴んで口を開いた。


「・・・・どういう意味だ?」


 声は出ていなかったが、少女は我を見て叫んだのだ。


(オス)だ!』


と。

 意味が分からず首を傾げれば、少女は次の瞬間にはすぅっと緩やかな呼吸を繰り返し、すりりと胸に頬を寄せてきた。


 再びドクリと心臓が跳ね上がり、なぜか少女をそっと抱きしめていた。

 

「いかがされました?」


 侍従長に声をかけられ、はっと我に返ると、その場をごまかすために少女に癒しの魔法をかける。


「これで少しは良くなろう」


 告げるなり立ち上がり、イマネアのお目付けである騎士に少女を差し出す。

 その際もなぜか腕が少女を渡すことに抵抗を見せたが、騎士に不審がられる前にと何とか渡せたと思う。


「家まで送り届けてやれ」


 我が! と何かが胸の奥で叫んだが、それを押し殺して騎士を見ると、彼は一瞬戸惑ったものの、腰を折って礼をとった。

 後は驚くほど重い脚を動かし、城に戻る。


「…陛下、いかがなさいました? 陛下!?」


 城に戻るなり我は侍従長の問いかけも無視して走り出し、臣下の者達を驚かせながら私室に駆け込むと、そのまま鍵をかけてドアの前にずるずると座り込んで呆然と窓を見つめた。


「…くっ」


 心臓がどくどくと早鐘を打つ。

 胸の鼓動と、本能の叫びがガンガンと頭の中に響き渡る。


(我を呼べ! その声で! 我が名を!)


「何の冗談だっ」


 吐き捨てるように言うと、我はその場に小さく蹲った。

 

 予感は的中した。

 本能は少女を見て、一目でその答えを出した。

 

 

 あれは・・・・我が(つがい)であると。

 


 



「雄だ!」

…飢えた女の心の叫びw


「何の冗談だ!」

…6歳児に魅かれた男の叫びw

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