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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
エルフ暗躍? 編
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第88話 シニヨン救出

「ア~アア~! が基本だぞシニヨン!」


 私が叫ぶと、ブランコのように何度も往復を繰り返すシニヨンは、青い顔をしながらもキッと目を吊り上げた。

 

「助けようという気はないのか! ああぁぁ~!」

「それでもやってくれる君が好きさ~」

「これは悲鳴だ!」


 悲鳴を上げながら抗議できるとは器用な…。


 再び私の頭上を通り過ぎて行ったシニヨンは叫んで抗議したが、やはり再び振り子のごとく振られて去って行った。


「オリビア」

「ちょっと待った」


 私が振り返るとオリビアはコクリと頷いた。しかし、それを止めたのは、今現在足が止まったことでこっくりこっくりと舟をこぎ始めた…と思っていたユメトラであった。

 スイカに見えなくもない黄緑色に濃緑の小さなトラは、ふわぁぁぁと大きな欠伸をした後、眠そうに細くなっている目をしぱしぱしながら頭上を見上げた。


「ここは上にも竜避けに魔法が張り巡らされてる。木を登ってとか、空中に跳んでとかいうのは道に迷うよ」

「じゃあどうすれば?」

「投げる」


「「「「投げる??」」」」


 私達が揃って尋ねると、ユメトラは頷いた。

 

 頭上では何度も往復を繰り返すシニヨンが「あ~!」「ああ~っ」「あ~…」と段階別に弱って行っているが、私達はそれを無視して作戦会議だ。


 ユメトラが言うには、この魔法は物には反応しない様になっているらしい。

 シニヨンは見た所足を縛られて逆さづりにされ、両手両足をがっちりと縄で縛られているため、物として揺られているという状態だ。

 その状態だと複雑な魔法の糸はたわみはするが、絡んで人を外に出す…ということは無いらしい。

 これを自分達にも当てはめる。


「つまり、剣を振るという動きは駄目…と」


 オリビアが尋ね、ユメトラはコクリと頷く。


「剣を構えた状態で、あの縄を目指して垂直に飛ばされること。その間飛ばされている人は動くの禁止」


 恐ろしい話だ。

 要するに、剣を構えた状態で動かず、下から誰かに垂直に投げてもらい、シニヨンが吊るされている縄を切る。失敗した時は何度も繰り返すことになるのだ。


 ここは体重が軽い人間を選ばねば…。

 となると、やはりオリビアか…いや、それよりも…。

 私が考え事から顔を上げると、なぜか全員の顔がこちらを向いていた。


「な…何かなその顔は?」

 

 嫌な予感にごくりと喉を鳴らすと、シャルがすまなそうな顔を向けて私を見上げた。

 上目遣いはやめてください…。


「ルゼ、頼む…」

「そんな色っぽい顔されたらいやだとは…なんて言うと思ったか! そこ! 明らかに私を飛ばす気で準備するな! ここに小さな力持ちがいるでしょうが!」


 私はせっせとかつての人間大砲の方法を耳打ちするオリビアに向かって指をさして止めた後、続いてがくっ、がくっと頭を落としかけるユメトラを指さした。

 

「「「あぁ、なるほど」」」


 オリビア、イグニス、フラウがポンッと手を打つ。

 私は腕を組むと、満足げに頷いた。

 ユメトラは話の内容を聞いていなかったようで全く反応していなかったけど…。




 そして…



「どうしてこうなった…」

 

 結論を言おう。


 二人を飛ばせば縄を切る確率も上がる。

 ということで、ユメトラと私、一人計6回は飛ばされた…。


「病人に何させる…」

「案内人に何させるんだ…」


 奴らは鬼畜軍団か…。


 私はシャルに抱っこされているが、もう体を支える力も無くて、ぐてんぐてんになっている。ユメトラは地面に突っ伏してピクリとも動かず、助け出されたシニヨンは、一応準備されていた落下防止の布に落ちた時、布を支える紐が切れて背中を強かに打ったらしく、縛られたまま悶絶していた。

 お約束だな…。

 

 シニヨンが悶絶でひとしきり大暴れし、長い金糸の髪を振り乱し、荒く息を吐きながら碧い瞳をこちらに向けて睨みつけてくると…女性的な顔立ちのせいか、まるで般若のようである。

 

 ふ・・・化け物シリーズに仲間ができたよ…。

 

「いま、余計なこと考えたよなルゼ」


 さすがは共に育った男。素晴らしいタイミングで私に突っ込んできた。

 

「何も考えてませーんっ。と、そんなことよりもー。なんでこんなところにいるの?」

「その台詞はまともな体勢で言ってくれ」


 シニヨンは縄をほどいてもらって、服や顔に付いた砂埃を払いつつ溜息を吐いた。

 私はそんな彼をシャルに支えてもらった状態で、ぐいーんと反り返りながら会話していたのだ。

 

 この体勢の方が疲れる? 

 わかっておりますとも。しかし、元に戻る腹筋がありません…。


「で、なんでー?」

「まったく、血が下がるぞ…。俺がここに来たのは、たまたま旅先が一緒になった旅芸人の一座と一緒に旅をしていたせいだ」


 シニヨンが言うには、その旅芸人の一座の御者が、近道をしようと迷いの森と知らず森に突っ込んでいったらしい。

 驚くことに一座の物は誰もそのことに気が付かず、気が付いた時にはアマゾネスの村についていたのだそうだ。


「え? 迷わなかったの?」


 私の疑問にシニヨンは頷く。


「どうも団長の母親が、随分昔に通行手形みたいなのを貰っていたらしくて、団長自体はそれが何か知らずに馬車に飾っていたらしい」


 それのおかげで辿り着いた…ということだそうだ。

 旅芸人が来たということでアマゾネス達は喜んだらしいのだが、なぜか翌日目覚めた旅一座とシニヨン一行は、エルフに取り囲まれ、護衛で腕の立つシニヨンは吊るされて森に放たれたのだそうだ。


「エルフがアマゾネスの村に?」

「あぁ、大勢いた」

「大勢…。エルフはそんなに頻繁にアマゾネスと交流をしているのか?」


 シャルの呟きにフラウが首を横に振る。


「そんな話は無いよ」

「一座を狙ったか?」


 イグニスの言葉にシニヨンが答える。


「別の何かを待っている感じだったな…」


「「「別の…」」」


 私達は同時に呟き、私はにやりと微笑んだ。


「敵が待っているというなら行ってやろうじゃないか」

「さすがは我が君」

「他に方法がないしな」


「…て言うか、そう言うセリフはその埴輪の微笑みみたいなのをやめてから言ってくれ」


 相変わらずダラーンと反り返りながら、白目を剥きつつにやりと微笑む私に、シニヨンは呆れるようにそう告げた。

 


 化け物シリーズ…突然微妙に路線変更で…埴輪になりました!

 なんでだー!


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