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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
エルフ暗躍? 編
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第87話 通りすがりの野性児…?

「始めましてイリューゼさん。私はアマゾネス・アンナといいます」


 服を着替え、コートを羽織り、ネギを取り払われてようやく自由になった…はずの私は、雪の降る外でシャルのコートの中にぎゅぎゅっと抱きしめるように包まれ、再び動きが取れ無い状態でアンナと顔を合わせていた。

 

 あの後、私は大急ぎで着替え、黒猫さんと鼻血が止まらないシャルに説明され、アマゾネスの村に向けてすぐに出立することになったのだ。


 オリビアや黒猫さんの話では、すぐに館を出発し、森の入り口からアマゾネスの村まで半日程度は歩くと言うので、あわただしく準備を終え、そこに現れたアンナとの対面となったのである。

 老体には堪えるであろう外での挨拶だったが、かつてのクレーマー人種であるアマゾネスでありながら、寛容に許しを頂いて…おどろいてしった。


 早朝から降り出したという雪は、地面をうっすらと白く染め、吐く息は白く、指先は凍りつきそうである。

 そんな中、アマゾネス・アンナは姿勢を正し、私の手を取り、彼女の額に当てた。


 アマゾネス流の敬礼だ。

 私も同じ様に返すと、互いに微笑みあう。


 昔のアマゾネスと随分違って奥ゆかしく見えるが、彼女に限ったなのかどうかはわからない。

 礼の仕方や体運びは、アマゾネスによく見られる特徴が出ているが。


「族長であった我が父は、数年前に亡くなりましたが、現在は我が弟が族長についております。まだまだ族長としてはひよっこな弟ですので、もしもエルフへ至る道をごねるようでしたら、どうぞ実力で捻じ伏せて下さいね」


 思考は間違いなくアマゾネスだ。


「本当は昔の旦那様の事や、アマゾネスの事もいろいろお聞きしたかったのですが…、帰ってきてからの楽しみにしますわね。ユメトラちゃん、皆さんをよろしくね」


 アンナさんは新緑色の地に濃緑の縞模様の小さな虎型をとっているユメトラを見ると、眠そうにボーっとしている彼をぎゅうううっと抱きしめ、ついでにキスをした。

 

 突然そんなことをされたユメトラはバチッと音がしそうな勢いで目を見開いて毛を逆立てていたが…。


「嫉妬で、彼を非常食にしてしまう前に出発しようか・・・」


 フラウがそんなことを呟き、ユメトラをアンナから引きはがす様に取り上げて、オリビアに向かって投げた。

 ユメトラは弧を描きながら逆さま状態でオリビアにキャッチされ、半眼になりながらむすりと呟く。


「ボクのせいじゃないのにー」


 しかし、その苦情はフラウの笑顔にかき消されたようである…。



 


 さて、やはり風邪をひいている人間に無理させてはいけないということで、ハズかしながらも私はシャルの腕に座り抱っこの状態で運ばれることになった。

 動かない方が寒いのだが、そこは厚手だが軽い毛布を渡され、それにくるまって寒さを(しの)ぐことにした。


 案内人はユメトラだ。

 彼はアマゾネスの村を何度か花火師の獣人のトラと共に訪れているらしく、そこまでの道のりならば案内できるというので、スイカ柄の小さなトラの後を、私を抱えたシャル、杖を突きながら歩くフラウ、オリビア、フラウの友人のイグニスさんの順に続いた。


「時々魔物が出るから気を付けて。ボクは戦闘は苦手だから出たら何とかしてくださいね」


 ユメトラが忠告した森は馬が入ることができないため、入り口までは馬車で送ってもらった。

 館からは約1時間という所だろうか。帰りはシャルに乗っていくこともできるので気にしていないが、問題はここからだ。


「この森が迷いの森と呼ばれる理由は、入ったら出られないのではなく、入ると出てしまうことからなんだよ」


 私はシャルの肩に軽くしがみ付いて振動に耐え、彼の肩越しにフラウの顔を見ながら説明を聞く。


「入ると出る? 空間を曲げる魔法みたいですね、それ」


 フラウの言葉に告げたのはオリビアだ。

 

 そう言われてみると、よく似ている。

 リュークの宝物庫もそうだ。リュークを媒介に空間を繋げ、宝物庫のある場所から物を取り出す。

 それと同じ魔法が施されているのだとすれば、解くことこともできるかもしれない。

 だが…。


「媒介を探せばその魔法は解けそうだけど」

「道に迷った時はそうしよう。きっと必要があっての魔法だろうからな」

「ん、わかった」


 私が頷くと、シャルはよくできましたとばかりに頭を撫でる。

 気分的に…親子みたいだ。

 



 それからしばらくはたわいない話をして森を進んでいたが、とある場所を過ぎた瞬間、私の首筋にちりりと違和感が走った。


「魔法の範囲内に入ったみたい」

「よくわかるね。ここからはエルフの管轄なんだ。だから気を付けないと弾かれるんだって」


 ユメトラの視線は少し先の獣道を睨みつけている。彼の眼には何か映っているのかもしれない。

 例えば…魔法で隠れた筋肉の集団とか…。

 

 体を動かさなくていい分、魔法の気配を探ると、目に飛び込んでくるのは幾筋もの漂う金の糸。

 蜘蛛の糸のように複雑に張り巡らされ、その中の人が通れる隙間をユメトラは突き進んでいく。

 

 糸が時折ユメトラに反応して広がったりしているように見えるのは、森に張り巡らされた魔法が彼を客人だと認識しているためだろうと思う。


 森全体とは言わなくても、広範囲にわたってこんな複雑な魔法をかけて維持をしようと思うと、複数人の人間が必要になる。

 そして、その誰もが繊細な魔法を構築し、放出し続けているのだ。


「さすがは知恵のエルフ」


「知恵の? 昔はそう呼ばれていたのだろうか?」


 イグニスが興味深げに問いかけてきた。

 彼はイリューゼの事件を追ってくれていた一人だが、それよりも、何より歴史が好きなのだ。今と違う何かを見つけると、どうしても探究せねば気になるらしい。


 私は快く答える。


「リュークの時代はそう呼ばれていました。知恵のエルフ、武力のアマゾネス。まぁ、どちらも隠れ住んでいたので一般の民は彼等を知りませんが、絵本などに載る彼等の姿からその呼び名を付けたようです」


 どちらも間違いではない。

 彼等を見知っている者は他にこう言うが…、と私は遥か昔の彼等の通り名を告げた。


 頭でっかちのエルフ。

 脳筋のアマゾネス。


 ふと背後を歩くオリビア以外の者達の顔を見れば、その表情は微妙にしかめられている。

 ナゼ?


 首を傾げた瞬間、森の木々がざざざざっとざわめいた! 


「ひやああああああ!」


 その時、突然森の何処からか悲鳴が響き渡る。


「敵!?」


 オリビアが剣に手をかけて身構え、イグニスも同様に辺りを鋭い目で見渡す。

 緊張でドキドキと心臓が高鳴る中、一番に気が付いたのは誰だったか…。

 

「あれを!」


 森の木々の間を、まるで某映画の様に蔦で移動する…そんな人間が頭上を通り抜けていった。


 ただし、その人は自分で蔦を持って移動したのではなく、蔦に足を縛られ、吊るされた状態で森の木々の間を揺られて駆け抜けて行ったのだ。


 尾を引く男性の悲鳴が彼の恐怖を語っていた・・・・。



 それよりも・・・、


「今の…大きくなっていたけど…まさか…シニヨン!?」


 顔の造りが大人っぽくなってはいたけれど、孤児院にいた頃の面影をはっきりと残すシニヨンらしき人は、私の頭上を通り過ぎる瞬間だけ、「あ?」という疑問の声を残していた。


 もう孤児院に残れる年じゃないし、裏町の事件の時も出てこなかったから、きっとどこかへ貰われたか出稼ぎに行ったのだと思っていたけど…。


 彼の操作で乗っていた台車を懐かしく思い出しながら、私は彼がここにいる結論を出した。




「まさか、野性児になっていようとは!」



「そんなわけあるかぁぁぁぁぁぁ~!」


 ブランコ状態で戻ってきた男は、そう叫ぶと、再び森の木々の間へと消えて行ったのだった…。


     

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