第80話 宝物庫
ゆで卵に咽た朝食の後、なぜか黒猫さんがヘル爺の健康ドリンクを手に現れ、シャルと私に強引に飲ませ、朝から共に虫の息になりかけた…。
「ルゼ様には効き難いですね。竜族の皆さんに出した原液状態の健康ドリンクでは、彼等を竜体で暴れさせるほどの効果が得られたのですが…」
黒猫さんが健康ジュースの実験結果をさらりと告げると、シャルの眉間に皺が寄った。
「何をしているんだ黒猫…。竜に暴れさせたら離宮が破壊されるだろう! うぅ…かく言う我も元気が湧き出て破壊行動に出たい気分だが…」
「破壊行動を起こしてもいいように、竜の皆様は外に出してあります。陛下はいかがいたしましょう?」
客を放り出すメイド…。良いのだろうか?
「我は大丈夫だ。ルゼがいればなんとか耐えられる。だが、他の者は?」
「ふふふ。とても強いメイドさんが二人付いておりますので暴れても大丈夫です」
シャルは一瞬ブルリと体を震わせた。
「誰、とは聞かないでおく」
良いんだ…。
しかも、話の流れ的に、メイドさん二人が竜体を攻撃することもありうるのに…良いのか…。
唖然とする私とオリビアの前で、二人はあっさりとその話を終えてしまい、私は一抹の不安を覚えながらも「誰も怪我しないといいね・・」とだけ告げた。
そんな朝食の後、動き回ると体力が減るからという理由で、私はベッドの上で例の目録からリュークを呼び出すことになった。
始めからこの本にはリュークがいると知っているので、魔力を加減しつつ触れれば、本はふんわりと輝き、漏れ出た光からリュークが形成された。
なぜか、シャルの頭上で…。
「ん? また随分と高い場所に出たな…」
具現化したリュークは腕を組み、不思議そうに辺りを見回してから、彼の視線の随分下に私達がいることに気が付いたようで、すっとしゃがんだ。
その姿は、シャルの頭を床にして、長身の男がヤンキー座りという何とも奇妙な光景だ。
「そこは床じゃないから」
私が告げると、リュークは足元で震えるシャルに気が付き、「おぉ」と声を出してふわりと床に降り立った。
「あれもルゼ様ですよ」
黒猫さんが震えるシャルにそう耳打ちすると、シャルは「ぐぬっ」と妙な声を出して拳を握った後、何かに耐えること数十秒…、わずかに引き攣った笑みを浮かべて見せた。
昔の私がスミマセン。
私は心の中で謝っておいた。
「で、何の用だ?」
リュークは、シャルの頭を踏んづけていた事に気が付いているだろうに、気にもかけずに首を傾げる。
まぁ、踏んづけると言っても幻なので踏んでる方も踏まれている方もその感触は無く、互いにその状況を確認しなければ気が付かないため、リュークの申し訳ないという感情は希薄なのかもしれない。
「お久しぶりです我が君」
オリビアはいつものように腕を胸の前において騎士の敬礼をする。
それにリュークは頷いて応えた後、「それで?」とばかりに私に視線を向けた。
「反魔法勢力についての資料をできる限り出して欲しいのと、一人の人間が死と同時に存在を抹消されるような事件に心当たりはない?」
リュークは私が話している間にひょいひょいとベッドの上に古ぼけた紙の束や、どこの誰が集めたかもわからないような本を乗せていく。
この目録は、目録としての本から物を指定して取り出すことも可能だが、こうしてリュークを介して物を探してもらうことが可能なのだ。
それもこれも、滅びた国の宝物庫が無事でなくてはできないことだが…。
「やはり宝物庫は無事のようですね」
オリビアが同じことを思ったのか、ぽつりと呟き、シャルがぎょっと目を丸くする。
「宝物庫が無事っ!? あの魔道王国のか?」
私はベッドの上に広がる、今では神語と呼ばれる文字で書かれた書物や紙の束をオリビアとお手伝いを買って出てくれた黒猫さんとで選り分けながら頷く。
「宝物庫は城には無いし、地下に造った訳でもないから、見つからなければ無事だと思ってはいたのだけど。こうして目録機能が使えるなら無事なんだと思うよ」
「ルゼ、それはとんでもない話だぞ。彼の王は数々の魔法書や今では失われた武器等を数多く所有し、その秘された宝物庫一つで、国が3つ4つ買えると言われているくらいだ」
いや…その彼の王って今目の前にいるリュークで、かつての私だよね…。
シャルは興奮気味で私と目の前のリュークが、件の『彼の人』と同じだという認識を失っているようだ。
「価値は知らないけれど、宝物庫には私の書いた魔法書もあるよ」
「ルゼ、いやっ、リュークのか!?」
私は淡々と書物と紙束を分けながら身を乗り出すシャルに頷き、オリビアが同じように分けながら呟く。
「捜そうと思ったら遭難しないといけませんけどね」
「遭難??」
私とオリビアは手を止めて遠い目をし、リュークはその手に新たに本を一冊取り出し、困惑するシャルの表情を見て苦笑を浮かべた。
「宝物庫などと言えば聞こえがいいが、要は物を突っ込むだけの物置だ。一歩その空間に入れば、目的の物を見つける前に崩れる本に埋もれて遭難するだろうな」
「遭難・・」
「そうなんだ」
しみじみと頷くリュークに、私は顔を赤くし、オリビアはやれやれと溜息をついた。
「ダジャレを言うより手を動かしてください我が君」
オリビアの一言に、新旧の彼女の主である私達は、揃ってしゅんと項垂れるのだった。
進展なしで次話へ続きます。




