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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
孤児院編
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第8話 人間に戻して…

「私の名はイマネアという。ネアと呼んでくれ」


 竜人で女性騎士の格好をしたイマネアは、にこにこ微笑みながら私達についてきた。

 聞けば、彼女は60歳。1万年生きられる者もいる竜人の中にあって、まだ成人すらしていない歳だった。


「あ・・・あの」


 彼女を連れて兵士の詰所に戻るなり、イマネアは無事耳飾りを渡せたウィンダム子爵令嬢にもにこやかにあいさつをした。


 まさか、貴族よりも地位のある竜人に気さくにあいさつをされるとは思ってもいないはずの子爵令嬢はどうしていいかわからず戸惑っている。


「王都に来たのは今日が初めてなんだ。友人になってくれると嬉しい。あ、ブリオッシュ殿は私の師になってくれ」


「「はい?」」


 子爵令嬢は返事をしようとしたが、ブリオッシュと共にそれは驚きの声となって発せられたようだ。


 気さくなイマネアはにこにこしながらさらりとブリオッシュに向けてそんなことを言い出すものだから、ブリオッシュも詰所の兵士もぎょっと目を剥いた。


 どこの世界に人間より遥かに強い種族を弟子にする人間がいるんだ…。


 思わず遠い目で彼等のやり取りを見つめてしまったよ。


「あの技を教えてほしいんだ! 昔祖父があれを使っていてな、子供心にあれを使いたいと常々思っていたのだが、どうやら祖父の奥さんの秘儀だそうで教えてはもらえなかったんだ!」


 秘儀って言うほどの秘儀ではないと思うが…。

 私は首を傾げる。


 あれはアマゾネスの技の一つだが、開発したのは私だ。

 なにしろあの頃の私は転生したばかり。動物を仕留めるなんてできなくて、他のアマゾネスが仕留めそこなった動物をあの技で捕獲して治療していたものだった…。


 たぶん、私を落とした親友辺りが広めたんだろうなぁ。技は見て覚えるのがアマゾネスだから・・。

 う~ん、複雑…。


 昔の思い出に浸っていると、なぜかこちらを見つめるブリオッシュとネア。


「な、何?」


 嫌なよかーん。


「今ブリオッシュからそなたがあれを教えたと聞いた! ゾンビの知識はすごいのだな!」


 がしぃっとネマに手を握られ、私はジト目でブリオッシュを見やった。

 めんどくさいあまりに私を売ったな…ブリさんめ。


 ブリオッシュはさっと私から目を逸らし、子爵令嬢と良い雰囲気に突入しやがりましたよ。

 恋に破れまくった、私へのあてつけかー!?


「ゾンビ殿! ぜひあの技を教えてくれ!」

「ゾンビから離れてください。私の名前はルゼです」


 ブリオッシュを睨む私にイマネアが興奮気味に告げるので、名前をまず訂正する。

 いつ私はゾンビなんて名前になったよ!


「ではルゼ殿! 今すぐ参ろう!」

「何処に?」

「あなたの孤児院だ! 戻る時間なのだろう? 私は孤児院というのも見て見たい」


 ウキウキするイマネアは止まらない。

 60歳というのは好奇心旺盛な小学生のような年齢なのだから仕方がないとして…。

 保護者はどこだ、保護者は!


 ネアはさぁさぁと促すと、私が台車に乗るのも待ちきれず、ひょいっと肩に担いだ。


「ぐほっ」


 み…鳩尾にネアの肩が食い込んで苦しい。

 ナゼ荷物状態で担ぐ!


「子供達! 案内を頼む!」


 エヴァンやシニヨンはあきれ顔だ。


 シニヨンは権力者が嫌いだが、ここまで子供の様に押せ押せで好奇心いっぱいの女性には勝てないと踏んだのか、毒を吐くことも無く苦笑いを浮かべるにとどめ、エヴァンはそんな彼を横目で確認した後、ため息をついてサーシャを台車に乗せて歩き出した。


「ちょっ、案内するの!?」


 顔だけあげて尋ねれば、嫌そうな顔でエヴァンに睨まれた。


「院に殴り込みかけられると院長にばれるし」

 

 う…確かに。お小遣い獲得運動がばれたら大目玉だ。

 

 仕方ないと力を抜くと、さらに鳩尾にネアの肩が食い込む。

 み…身が出る…。


「では行こうか!」


 嬉々として歩き出すイマネア。

 はっ、いかん! ここで何もせずに孤児院へ帰ったらせっかくの働きが無駄になる!


「ブリさ~ん」


 子爵令嬢といい雰囲気で話していたブリオッシュが、こちらを向いた気配がした。

 ちなみに私にわかるのは気配だけだ。

 何故って? もう首が上がりません・・・そして血が下がる~。


「あぁ、ちゃんと今度の休みに持って行くよ」


 さすがは孤児院出身。何も言わずともお駄賃の事に気が付いてくれたらしく、ほっと息を吐く。

 その確認をとるとすぐ、イマネアが大股で歩きだした。そのスピードはエヴァン達が走って追いかけねばならないほどだ。

 ちょっとは落ち着け…。


 イマネアはあっという間に詰所を出て、ついでに城門すらも飛び出す。

 

 案内するエヴァン達は後ろにいるのだが…。


「さ、急ごう!」



「どちらにですかね、お姫様?」


 

 涼しげな声が響いたのはその時だ。

 嫌~んな予感はイマネアが一番感じているだろうが、実は私もだ。

 

 まだまだ子供なイマネアにはやはり保護者が付いていたようで、できるだけ目立ちたくない私は必死で気配を消す。

 私は死体~。私は死体~。…なぜ死体?

 思わず自分に突っ込みながらも息を殺す。


「陛下が心配されておりますよ」


 背後の誰かがそう言うと、背中に強烈な視線を感じた。

 こ…これはいかん!

 

「それから、そのズタ袋は何ですか?」


 今度はズタ袋になった!

 

「ふひっ」


 抗議の声を上げかけた私は、頭にのぼる血と、息を殺して…殺しすぎて呼吸困難に陥り、貧血で白目を剥いたのだった。


 せ…せめて人間にもどしてくれぇぇぇ!

 

 花畑を見た私の、小さな心の叫びは響くことはなかった…。

 

――――完


ルゼ「いや、終わってないから! 花畑見たけど生きてるから!」


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