第75話 消えゆくモノ
「アマゾネスと言えば、その能力は竜の群れをも落とすと言われる武を極めた種族ですね。我が君もその能力には何度も助けられております」
オリビアが淡々とアマゾネスで思い出せる知識を上げていくが、これと言った情報は無い。種族について学んだ時に聞くようなざっとした情報だけである。
アマゾネスがどんな時代でも謎に包まれているせいだ。
私もその生態について、披露することも無かったからな…。
「ルゼもアマゾネスの能力が使えるのだったね。それも、イリューゼと同じ技を」
フラウの言葉にぎくりとした。
別にばれたからどうということは無いが、なんとなく気まずいではないかっ。元旦那様だし…。
とりあえず、すでに彼の孫であるイマネアには技の事を知られているし、その話がフラウにも伝わっているであろうから頷いておく。
「彼女は、アマゾネスの中でも群を抜いて強かった。その能力を使って彼女の村を消滅させてしまったけれど…」
「その、消滅させたって…、村の人を皆殺した…なんてことじゃ」
優しいフラウしか知らない私は、彼がその手を血で染める想像ができず、恐る恐る尋ねた。
フラウはそんな私ににこりと微笑むと、首を横に振った。
私はほっと胸をなでおろした。
「片っ端から勝負を仕掛けてプライドをずたずたにしたくらいだよ。だが…全てが終わり、ほんの少し村を離れた瞬間に、村は襲われ、文字通り消滅したんだ。私が与えたダメージが残った彼等が何者かの襲撃に抵抗しきれなかったのかもしれない。だから、消滅は私のせいだろうね」
ほんの少しの後悔をにじませる瞳を見つめ、私はなんとなく首を横に振った。
「イリューゼのせいにすればよかったのに…」
「しないよ。それに、彼女は…、彼女の存在は、本当にかき消されていたから」
かき消されていた?
なかったことにされたということならなんとなくわかる気がする。
アマゾネスは勝負に負けた者には容赦しない。あんな間抜けな死に方をした私の事を、皆がなかったように振る舞ったというのならわかるのだが、かき消されていた…となると、奇妙な言い回しだ。
「どういうこと?」
意味が分からないので首を傾げる。
「私が追っているのはその彼女なのです」
ここで突然イグニスが口を挟んだ。
私が彼に問うような視線を向ければ、彼は説明を始めた。
「イリューゼと言う名のアマゾネスはある日、親友のアマゾネスに崖から突き落とされ亡くなったそうです。その亡骸は間違いなくフラウが確認している」
チラリとフラウを見れば、フラウはコクリと頷く。
「ピクニックに行ったのに、彼女が戻ってこなくて探しに行ったんだ。彼女の親友と共に。そして、彼女の亡骸を見つけた時、彼女の親友は確かに自分が殺したと言ったのだが、翌日にその親友の家を訪ねると、そんな友人は知らないと言っていた」
「知らない?」
私の疑問に大きく肯き、イグニスが再び続ける。
「イリューゼと言う名の少女の存在自体が、一日、いえ、半日ほどで抹消されたようです」
「「抹消!?」」
私とオリビアの驚きの声が響き、その声の大きさにも驚いて、自ら手で口を押えた。
思わず辺りをきょろきょろと見回してしまう。
幸いバルコニーには他に人はいないし、会場内ではルドとその臣下となる者達の紹介が続いているため、拍手が鳴り響いていて聞こえなかったろう。
私は大丈夫なことを確認して、口から手を離し、声を潜めて尋ねた。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味です。フラウが言うには、村の人間全てがイリューゼと言う少女の事を記憶しておらず、村には彼女の住む家があったが、旅人であったフラウの家だと言われたのだそうです」
村人全員が記憶していなかった!?
「そしてまた、フラウが埋めたはずのイリューゼの亡骸も、墓から忽然と消え去っていたそうです」
怪奇現象!?
私は蒼褪めながらそんなことを思った。
現在の自分がよくホラーな存在に例えられるが、あの頃の自分が、そんな怪奇現象を死んだ後に起こしていたとは知らなかったっっ。
「違いますよ」
イグニスが私に向かって告げたため、私はぎょっと目を丸くした。
「心を読んだっっ?」
「声に出てましたよ我が君」
オリビアに指摘され、私は照れて俯く。
「ですが、怪奇現象と言ってもいいかもしれませんね。私以外、彼女に関係する者も、道具も、全て無くなったのですから」
「形見も残らなかった?」
「何も…」
尋ねる私に、痛みを堪えるかのように、寂しそうな眼をしたフラウは首を横に振った。
そうか…。
私が獲った竜の牙とか、エルフの髪のかつらとか、沼の魔物ナマズラーの髭とか…残らなかったんだ…。
半日以上戦って苦労して手に入れたものだけに、残らなかったのは悲しい…。
がっくりと項垂れていると、イグニスが気が付かずに続けた。
「同様に、リューク王の遺体や国、遺品も少しずつ消されつつあるのです」
はい?
私は顔を上げ、オリビアはあんぐりと口を開く。
「まさか…」
「えぇ、リュークほどの人間の場合、全てを消し去ることはできなかったようですが、国は消され、現在も彼に関する物が消されつつあるのです。イリューゼと彼にどんな共通点があるのかはわかりませんが、その謎を追っている最中でして」
イグニスの言葉に、私はがたんっと席を立った。
「ルゼ?」
「我が君?」
「共通点…」
共通点ならある!
胸を押さえ、私は蒼白になって佇むのであった。




