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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
反魔法勢力編
71/97

第71話 奥さんは…?

「いきなり全部は無理だよ!」


 ルドヴィークの弱音にシャルはふんっと鼻で笑う。

 それもそのはず。いきなりではないからだ。


「何年かけて教え込んだと思っている」

「たった1年じゃん!」

「1年で覚えられるものだろうが」

「竜族と一緒にすんな~!」


 いきなりでは無いが、期間はとても短かったようだ。

 ルドの絶叫が響き、ゾンビの様に床を這いまわる文官達がガクリと床に突っ伏した。


 で、結局…。


「こうなるわけだ」


 竜王陛下の婚約と、新王のお披露目パーティーの1時間前に、私、オリビア、シャル、フラウがルド達の手伝いに入る。

 リュークの国とは勝手が違うので少し戸惑うが、そこは始めてしまえば長年の勘で何とか片付けることができる。まぁ、重要な案件はこちらに回ってこないからこそ何とかなっているだけかもしれないが。


「そう言えば、あの裸の竜族達は大丈夫でしょうか? 幼女メイドさん達以外のメイドが使い物にならないように見受けられましたが」


 オリビアは中庭の惨状を思い出しながら書類を選り分けていく。


「問題ない。黒猫を向かわせたからな。服嫌いの竜族もあれの言うことなら聞くだろうよ」

「そうですな…。服嫌いで勝手気ままで、言質をとれば恋人を奪っていくような竜族は、黒猫にちょん切られてしまえばよろしいのです」

  

 グラハムが帰らぬ日を見つめるように外を眺めながらぽつりと呟き、その言葉に部屋の中が凍り付いた。


((ちょん切るって何を…??))


 全員が同じ疑問を思ったのは間違いない…。



「そう言えば、グラハムの宿敵の彼は奥方を連れていなかったね」


 フラウはグラハムの危険な言葉を気にせず、凍り付いた空気を溶かすかのように、中庭で見たままのことを告げる。

 どうやら私達があの惨状を見た時、中庭にはグラハムの恋人を奪った竜がいたらしい。

 人数が多すぎて誰が誰やらわからなかったし、全員裸であったため、まともに確認できなかったのでどんな種類の竜かもわからないが…。


「彼女ももう歳ですよ。竜との長旅には耐えられませんでしょう」

「あぁ…そうか。そうだね。人間の命はとても短い」


 溜息を吐くフラウを私はじっと見つめる。

 年数を数えれば、おそらくフラウは1万年近い年月を生きているかなり長寿の竜人だ。それこそ多くの人間を見送り続けてきただろう。

 自分の妻も、もちろんイリューゼも。




「・・・・フラウの奥様はどんな人?」


 


 ふと気になってしまった。

 と、その瞬間、先程のグラハムの発言の時よりも部屋の中がびしりと凍り付いた。

 

「イマネア様の話ですと奥様は確か…アマゾネスでしたか?」


 オリビアの何気ない質問に、フラウの背後でルドがあわあわと意味不明な動きをし、ひたすら何も聞くなと言いたげに口元に指を押し当てていた。

 

 私とオリビアは首を傾げる。

 聞いてはまずかったろうか?


「えぇと…イリューゼの後に娶った人なら…」


「「「イリューゼ?」」」


 ぼそりと私が呟いた言葉に、フラウ以外の全員が首を傾げた。

 私ははっとしてフラウを見やれば、彼は驚いたように口を開け、こちらをじっと見つめた後、何かを確かめるかのように真剣な表情で目を細めて私を見つめた。


 ま…まずいこと言った気がする?


 だらだらと流れる冷や汗、しかし、視線はフラウから逸らすことができず、互いにじっと見つめあう。

 すると、フラウはふっと笑みを浮かべた。

 

 そ…その笑みのするところやいかに?


「ふら…」


 私が口を開くと同時に、部屋の扉がコンコンコンコンコンコンコンと何度叩かれたかはわからないが、せわしなく叩かれたことで、私の口は閉ざされた。




「30分前です!」


 ドカン! と部屋の扉を壊しそうな勢いで黒猫さんが部屋に飛び込んでくる。

 彼女の背後には殺気立った幼女メイド達が控え、それぞれが男性の衣装を捧げ持つように運び込んできた。

 

 時間がないのでこの部屋で着替えさせる・・と言うことらしい。


「お客様は順に会場に集まり始めております。皆様もいそいでお支度を」


 すでにそんな時間らしい。

 客を待たすわけにはいかない為、私達はこの30分で素早く準備をせねばならないようだ。


「黒猫、竜族はどうした?」


 シャルの言葉に黒猫さんはにこりと笑みを浮かべ、周りの幼女メイド達がにやりと微笑む。

 つまり、彼女達の力でどうにかしたらしい…。何をして竜達を従わせたかはわからないが…。


「わかった」


 シャルはとりあえず頷くことにしたらしい。

 何をしたか確認しない所は信頼しているからなのか、それとも余計な被害を受けないための処世術なのか。


「さぁ、ルゼ様もオリビア様もお急ぎくださいませ」


 黒猫さんに急かされ、私達も仕事を一段落させて立ち上がると、部屋から出ようとする。

 そこへフラウがそぅっと近づくと、私の耳元で静かに囁いた。


「彼女のお話を後でいたしましょう」


 驚いた私がフラウを振り返ると、フラウはにっこり微笑んで手を振ったのだった。


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