第70話 機能低下中…
神殿に帰ると、そこには黒猫さんとグラハムが静かに待っていた。
無表情で。
そう。無表情でだ。
にこりともせず、ただ静かに待っていたのだ。
ちょっと怖い…。
「何かあったか?」
この状況で何かあったか、などと当たり前のことを聞けるシャルがすごい。
私は二人の無表情にドキドキしながら馬車を降りた。
鼻血を拭いた後、意識は戻ったものの、顔色は悪く、服の全面は血で汚れてしまっている。
「それはこちらのセリフかと思われますが…」
グラハムが私の姿を見て呆然と見つめてくるので、ゾンビのようにカクカクと動き、いつものことで、何でもないと示すために手を振っておいた。
なぜか余計に怖がらせたようだが…。
それはともかく、何が起きたのかシャルがもう一度尋ねると、グラハムは頷いて答えた。
「実は陛下、ただ今城内稼働率が著しく低下しておりまして、いい加減どうにかしていただきたいと思い、お帰りを今か今かとお待ちしていたのです」
「どういう意味だ? 襲撃を受けた・・のでなければ、裏子猫隊が籠城でもしたのか?」
黒猫さんは変わらず静かに佇んでいる。
メイドの鏡ともいえるその姿に、シャルは一瞬たじろいだ。
「冗談だ…。殺気立てるな」
殺気!?
私はオリビアに確認をとると、オリビアはぶんぶんと首を横に振る。
私達には何も感じられないというのに、シャルは黒猫さんが発する殺気を感じたという。これはシャルの能力が高いのか、それとも黒猫さんがシャルにのみ殺気を飛ばしたのか…。
オリビアの目が挑戦したそうに煌めく。
だが、今はそれどころではないようだよオリビア…。
「で、何があった?」
シャルが茶化すのをやめて尋ねれば、グラハムとオリビアがふぅとため息を吐いて共にじっと床を見つめた。
「行けばわかります」
その言葉に、私達全員が首を傾げて、グラハムと黒猫さんの後に続いた。
__________________
そこは…怒号と悲鳴の飛び交う戦場でありました。
「次から次へと! ここは裸族の集会所かにゃー!」
ピコピコ猫耳を動かし、黒い尻尾をボンボンに膨らませてキシャーッと叫びながらマントを敵(?)に被せて回るのは、仔猫幼女メイドだ。
他にも銀色の髪のメイド、クリーム色に毛先は茶色と言う二股猫尻尾のメイド、ねずみの耳を持つ白髪のメイド、今回は鋏ではなくて鉈を振り回すパンダに、恥ずかしさのあまり高速で足元を駆け抜ける小さな猫ぐるみ犬、吹雪の吐息を吹き出す小さな雪だるまを持ったアリス…。
「このファンタジーランドが何だと?」
「現実から目をそむけないでくださいませ陛下」
静かに訴える黒猫さんの胸の谷間から小さなパンダがひょこひょこ顔を出し、、目が合うとにぱっと笑うその姿がこの上なく気になる・・。
確かにシャルの言うとおりファンタジーランドだ。
「裸の男達が逃げ回っていなければ和むのですが・・」
オリビアが的確に今の状況を告げた。
見たくはなかったが、確実に目に入ってくるのは、空から降って来た竜が次々と人間に変化し、素っ裸で歩き出す姿だ。
中には旧友と久しぶりに会うのか、抱き合って感動の再会をしたりしていて…それを見たメイド達が刺激の強さに悶絶している。
そして、大人のメイド達がそんな風だからか、小さなメイド達がマントを着せるのに必死なのだ。
「萌え死にで稼働率低下とか…」
この城ならありえるかもしれないな。
「「「えぇい! そこに直れ破廉恥竜共が~!!」」」
あ…幼女メイド達が切れた…。
「お帰りなさい…」
結局中庭の裸族の集団は幼女メイド隊に任せてきた。なぜなら、竜とメイド隊の戦いのゴングが鳴り響いてしまったからだ。
そうなると、もう竜族を従わせるには実力行使しかなく…、取り合えずアマゾネスではないから玉括りほど過激な攻撃にもでるまいと中庭を後にして、次に辿り着いたのは執務室であった。
そこも死屍累々…。
床を這うゾンビ(文官らしきもの)が重要書類を咥えて机に向かおうとしている。
そして執務机ではぐらんぐらんと頭を揺らしながら、ゾンビ化したルドヴィークが決裁書にハンコを打っていた。
ナハルジークも私達を出迎えたけれど、そのまま立ち尽くして…眠っているようだ。
「これからのこの国をまとめるのはルドであるし、騎士も文官もそれを支えねばならない…と思って仕事を全て任せたのだが・・早かったか?」
なるほど、国の腐った高官を掃除し、その後すぐに政治の中枢を任され、不眠不休で頑張ってきたが限界…。
そこへ来てメイド達が裸族に悶えて仕事を一斉放棄…。
「恙無くパーティーを始める為にも…。竜王陛下、この事態を何とかしてくださいませ」
黒猫さんの訴えに、シャルは大きくため息をついたのだった。




