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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
反魔法勢力編
69/97

第69話 まだまだ…

 き…キスってこんなものだったっ!?


 リューク時代に挨拶以外では全くキスと無縁の生活をしていたせいか、久しぶりの激しい恋人キスに翻弄され、すでに息も絶え絶えであと少しで窒息する! と覚悟を決めたその時、ぐんっと体が後ろに引っ張られ、シャルの体が引きはがされて、そのままシャルは腹に蹴りをくらって壁に激突した。


 今にも(くずお)れそうな私の腕を掴み、引っ張り上げてくれているのはフラウだ。

 息を整えながら見上げると、なぜか怒っているようで、その怒りの形相が恐ろしい…。


「シャル、公衆の面前で竜としての本能をさらけ出すとは何事かな」

 

 公衆の面前で…。


 その言葉に、ここがどこだったかを思い出し、シャキリと立って背筋を伸ばし、周りを見れば、ほんのり顔を赤くした若い人や、自分達の青春時代を思い出してか、うんうんと頷き合う老夫婦が視界に入り、私は顔を真っ赤に染めた。


 な、何をやってるんだ私は!

 正確に言えばシャルに不意打ちされた形だが、これは恥ずかしすぎる!


「フラウ? なぜここに?」


 シャルは我に返ったらしく、目を丸くして何度も瞬きを繰り返し、目の前に立つ杖を突いた男をじっと見つめていた。


「ナゼ? 君が(つがい)を見つけて結婚するというから、祝いに来たに決まっている。しかし、随分と誤解が多いようだね? お互いを知る時間はとったのかい?」


 そう言われると、シャルは常に公務に追われ、私は私で騎士や少女達に特訓をし、互いにゆっくりと話し合ったことがないことに気が付く。

 シャルは、うぐっと言葉を詰まらせ、私もどきりとした。


 フラウは…、かつての夫は、そう言う所が完璧だった。

 まぁ、イリューゼの頃は優花の意識も大きかったのもあって、普通にお付き合いし、プロポーズを受け、結婚するという流れをとれたのだが、よくよく考えれば、今現在の私は…。


 恋愛観がひん曲がってる気がする…。


 相手とデートもせず、知ろうともせず、ただひたすらに逃げるか、いかに勝つかの戦略を練っていた!


 シャルへの恋心も昨日今日気が付いたというのに、失恋だなんて大きな顔して言えるのか! 

 ま、まぁ…あの激しいキスを思い出したら、愛されているかもってことだし? ・・・どこかに誤解があったみたいなのだけど…。


 蒼褪めたり、赤くなったりして百面相していると、そんな私をオリビアが呆れたように見下ろしていた。


「我が君、思考が明後日に飛んでますよ。頭に花咲かせてる場合ですか」


 オリビアに指摘され、私ははっと我に返った。

 

「え、えぇと、シャル。さっきは殴ってごめんなさい。何か誤解があったみたいなのだけれど、シャルは…」


 私の事が好き?


 思わず口からポロリとそんな恥ずかしいセリフが出そうになり、私は慌てて廊下の壁に頭突きをかます。

 恥ずかしすぎる! 私の思考は13歳か!

 13歳だけど! 

 

 がすっごすっと、ものすごい音を立てて頭突きをかますと、額と壁の間にスッと手が入って止められた。

 フラウだ。


「時間も時間だし、ルゼも襲われたからね、一度城に帰ろうか」


「「「襲われた!?」」」


 フラウの言葉にシャル、オリビア、カイザーが反応し、すぐにカイザーが騎士の配置を変える。


「襲われたけど、たぶんここに治療に来ていた人だと思う。偶然会って襲われただけだから、仲間はいないと思うよ。仲間を呼びに行く暇も与えられず回収されたし」


 事の顛末を説明すると、ケガがなかったことにシャルはほっと息を吐き、それでも危険かもしれないと、私を馬車に押し込み、騎士達に連れてきた馬を任せて自分も馬車に乗り込んだ。

 隣にはフラウとオリビアが乗る。

 フラウの従者は御者台に乗ったようだ。







「ルゼ様、誤解についてなのですが」


 元・夫とシャルを前に、ガチガチに緊張している私に、オリビアが話題を向けてくる。

 そうだ。誤解が…。


 そろりと顔を上げれば、にこやかに微笑むフラウと、不安げに瞳を揺らすシャルが目に入ってくる。

 心臓に悪い組み合わせだ…。


「オリビア、それは我から説明を。…ルゼ、そなたには謝らねば。我が説明不足だったために一時でも不安な気持ちにさせてすまない」


 私は首を傾げる。確かに私とシャルの間には誤解が横たわっているのだが、それが何かわからないのでシャルの謝罪もどう受け取っていいのかわからないのだ。


「その・・・。結婚相手についてだが」


 言い淀むシャルの態度に、私はどきりとする。


 やはり、求婚は全て竜王陛下の名代だったという説明だろうか? しかし、あれだけ激しいキスをされて、そんな説明を受けてもどう返せばいいのだろう。

 

 弄んだわねー! とか?


「自分で言うと恥ずかしいが、我がこの国の、ヴァイマールの竜王だ」

「はぁ…」


 どう返そうか悩んでいたため、何とも気の抜けた返答になってしまった。

 そして、シャルと見つめあう事数秒…。


「はぁ!? シャルが竜王なの!?」

「…その驚きは我が竜王であったことへの驚きか? それとも、我が竜王には見合わぬのにと言う驚きか?」

「いや…だって…竜王って普段はぐーたらしてるって」


 一般的な竜王像を告げる。

 竜王は魔物避けのトカゲ。魔物退治以外に能が無く、常に自由に過ごし、国の政治に介入してこない。と言うのが世間での竜王評価だ。

 だからこそ、シャルの様に国の為に動く竜は、人間好きの配下の竜だと思ったのだ。


 呆然としながらシャルを上から下へ、下から上へと見つめた後、私はこてっと首を傾げた。

 竜王…?


「ぶっ」


 シャルの隣でフラウが噴出し、シャルは不機嫌そうに眉根を寄せる。

 

「ルゼ、そう言うわけで、我がそなたを妻にと望んだのだ。まだ幼いゆえに子作りはできぬだろうが・・」

「こっ…ここここここここっ」

「ニワトリの真似か?」


 どもる私にシャルが首を傾げ、オリビアが首を横に振る。


「いえ、おそらくは子作り云々に関わる様々なことを考えたのでしょう。我が君はそれなりにスケベですので」

「オリビア!」

「スケベなのか…」

「あはははははははは!」


 ついにフラウは腹を抱えて笑い出し、シャルはうぅむと唸り、オリビアは違いますか? とばかりに私を見つめた。

 

 いや…間違っていませんよ…。

 私は、恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤にした後、いろいろ想像してしまい、興奮しすぎて鼻血を豪快に吹き、気を失うのだった。


 とにもかくにも、(ルゼ)の初恋は叶うようで…。

 あ…でも、まだ告白して無かった。


 

 前途は多難のようである。

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