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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
反魔法勢力編
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第66話 大きな勘違い 2

「酔っぱらってないか?」

「え? そう? そんな感じはしないけど」


 暗い路地から表通りに出て、私達は店を冷やかしつつ歩く。

 優花時代は普通にショッピング大好きっ子だったのだ。こういう一般人としてのウィンドウショッピングはとても楽しく、見る物全てが珍しく思えてくる。

 

 リュークの時は買い物は全て臣下任せだったからなぁ…。

 戦いと政務に追われ、身近な人の誕生日プレゼントですら、自分で選んで買うことができなかった頃もあったくらいだ。あちこち見て回れる今がどれほど楽しいか…。

 

 それはともかく、そんなショッピングを楽しんでいる最中に、なぜかシャルは心配そうに私を覗き込んできた。


 酔っぱらってると言うが、そんな兆候はない…と自分では思う。


 たとえ私の後ろでいろんな商品が空を飛び、護衛のカイザー、オリビア、ついでにくっついてきたカレンと騎士達が大騒ぎしながらそれをキャッチして商品を守るなどと言う戦いを繰り広げていたとしても…。


 私はピタッと立ち止まり、後ろを振り返ると、彼等もピタリと動きが止まる。

 そんな彼等に向かって人差し指を唇に当てると、私はにっこりと告げた。


「デート中はお静かに」


 なぜか全員にものすごい形相で睨まれた…。

 なんでだ?


 首を傾げ、再びシャルの手を取り歩き出すと、後ろがまた騒ぎ出す。

 まったくもって気が利かない主従達だ。


「なるほど…魔力が溢れだすタイプなのか」


 シャルは何やら納得したようで、私の頭をふわふわと撫でた。

 その手から、ほんの少し魔力が流れ、干渉された感じがしたが、それよりも私の気持ちの方がフワフワしてくる。

 

「や、やっと治まったわ…」


 何やら背後でほっと息を吐く気配がしたが、私はシャルだけを見つめ続けた。

 シャルに微笑まれ、優しく触れられると、まるで真綿で包まれているようだ。

 

「あの頃と大違いだなぁ…」


 ぽつりと呟いてしまう。


「リュークの頃か?」

「それとその前かな。いっつも何かと戦ってたから」


 よく考えたら、私の戦いの歴史はこの世界に生まれ落ちた時から始まっているようなものだ。

 それこそアマゾネス・イリューゼの時は獣、竜、竜人、魔物、さらには友人知人と死闘を繰り広げた。

 そしてリュークは、近隣諸国を統一するべく戦い、ルゼである今世は比較的平和だが、反魔法勢力と戦っていると言っても間違いはないだろう。


 その時、考え事をしているために人とぶつかってしまい、よろけた私を支えようとシャルは手を伸ばした。

 しかし、私はふらりとよたつきながらもそのぶつかってしまった人の腕を掴むと、肩の付け根からねじり、そのままその巨体をふわりと浮かせ、地面にその背を叩き落とした。


「ぐあ!」


 ダン! と鈍い音が響き、周りの者達が何事かと視線を集める。

 私は掴んでいる相手の腕をさらにぐっと捩じりあげて地面に縫い止めた。


「盗みはいかんな…」


 その肩を踏みつけ、うふふふと笑いを浮かべる私が捩じる男の手からは、ポロリと財布が2つ3つ落ちる。

 

破落戸(ごろつき)か…」


 シャルはやれやれと肩を竦める。

 よく見れば、男のズボンの裾に小さな(かんざし)のような髪飾りが刺ささり、ズボンを地面に縫い止めている

 おそらく男を止める為にシャルが投げたのであろうが、全くその動きが見えなかった。

 

 私はその強さ、破落戸を捕えるために駆け寄ってきたカイザーに渡し、シャルを見つめて…衝動的にその胸に飛び込んですり寄った!


「ルゼ…?」

「強い人は好きぃ」


 無駄な肉のない整った体にすりすりと顔を擦りつける。

 素面だったら絶対やらないことだが、私の思考は酒で鈍っていたらしく、甘え放題である。


 シャルはそんな私を抱きしめると、その髪をそっと撫で、私を見下ろす。

 その表情は甘く蕩けそうで、私も思わず笑みを浮かべると、シャルの顔が近づいてくる。

 

 き…キス…とか?

 こんな往来でしちゃってもいいのかな? 良い…かな…。

 こ…婚約者だもんね。

 

「シャ…」





「あれが陛下の婚約者様?」







 ふと耳に届いた町の人々の声に私はピクリと反応し、シャルの胸にポスッと額を当てて咄嗟にキスを回避っした。


 今、なんて言った?

 

「ルゼ?」


 シャルのこちらを訝しむ声が聞こえたが、私の耳は、さらに別の声を拾っていた。


「あれが竜王陛下の婚約者に? じゃああそこのあの男は…?」

「ちょっとっ、指差すのは失礼でしょっ。あれが…」


 チラリと周りを見れば、男が一人、貴族の女性を傍らに立たせ、シャルを指差している。

 

 竜王陛下の婚約者…。

 シャルを訝しむ男…。

 そこから導き出される応え…。


 私は血の気が下がるのを感じ、シャルから少し距離をとると、蒼褪めた表情で尋ねた。


「シャル? 私、竜王陛下の(・・・・・)婚約者になるの?」


 シャルの婚約者ではなく、竜王陛下の?

 緊張しながら尋ねれば、シャルは首を傾げつつ、コクリと頷いた。


「不満か?」


 シャルの不安げな表情に私は首を横に振る。

 不満…不満ではない。

 あの黒い竜王と婚約するのだ。名誉なことだ。恩人でもあるし…。


 でも…。

 でも!


「ルゼ?」


 私はスッと腰を落とすと、はっとしたオリビアが悲鳴を上げた。


「いけません我が君!」


 だが、彼女の制止が届くより早く、私の蹴りと打撃がシャルを襲い、(とど)めに踵落しがクリーンヒットした!




(ルゼ)の初恋だったのにぃぃぃぃ~!」




 私は泣き叫ぶと、そのままアマゾネスの業である筋力増強を使い、風の様な速さで、その場を走り去ったのだった。





 残された者達は、突然の出来事に、ただ茫然とその後ろ姿を見送ることしかできなかったのだった…。




 

「あれが竜王陛下の婚約者に? じゃああそこのあの男は…?」

「ちょっとっ、指差すのは失礼でしょっ。あれが竜王陛下よっ」


オリビアはその事実を耳にし、驚いたために主の動きに追いつけなかった…。

さらには、その主が娘の言葉を最後まで聞いていなかったことも、酔っぱらって冷静な思考を失っていたことも知らず、大いなる勘違い失恋(・・・・・)をしたルゼの背を、呆然と見送ってしまったのだった。


「ナゼ…」


ガクリと地に伏すシャルの姿を横目に見ながら…。

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