第61話 嫁
「初めまして竜王陛下ー!」
メイドやグラハムを押しのけ、黄色い声を上げて竜王に突進したのは…なんと!
カレン、ティナ、ベアトリス、アリスの神殿組だった!
なるほど、すっかり忘れていたが、ミーハーなる女子パワーはこういう時に発揮されるのであった。
慌ててその後ろに駆け込む私は、便乗派のようである。
だが、便乗してでもあの黒髪の竜王陛下に挨拶をして、お礼を…そう、お礼を言わねば!
「メイドか?」
黒竜は自分達の周りに集まった少女達を見下ろして首を傾げ、白い髪の竜王陛下は苦虫を潰したような表情を浮かべた。
ひょっとして人間嫌いだろうか?
シャルは私達を見て苦笑し、首を横に振る。
「客人だ。それから、こちらが」
およ?
スッと手を取られ、腰にシャルの腕が巻きつき、こめかみに軽くキスされる。
驚いて顔を上げれば、最近馴染みの蕩けるような笑顔!
私はこれに弱くて、顔を真っ赤にして俯いてしまう。
乙女か私は!?
…いや、乙女でいいのだけど、元オッサンとしてはなんだかいたたまれないのだ。
わかるだろうか、この気持ち…。
「あぁ、これが今回の儀式で迎えられる娘か」
白い髪の竜王陛下は自ら答えを出すと、すっと私の頬に手を添えて、あ~んと口を開けると、鼻に齧り付こうとした。
儀式って、ひょっとして竜全員を相手にするとか言わないよね!?
冷や汗がどっと溢れたところで、パチリと軽い音が響き、鼻擦れ擦れで白竜の動きが止まった。
「人の妻に食いつくな」
シャルが不機嫌そうに白竜の額を押し返し、白竜はクスリと笑う。
どうやら冗談だったようだ。
「我は臭いで判断するのだが、魔力が強いようで何よりだ。妻は強くなくてはな」
やはり竜のツマ基準は強さのようだ。
負ければエサなのだ。心せねば。
ぐっと拳を握ったところで、私は自己紹介をしていなかったと気が付き、スカートをほんの少し摘まんで膝を折る。すると、神殿の少女達も慌ててそれに倣って同じように頭を垂れた。
「お初にお目にかかります竜王陛下方。私の名はルゼ・フェアルラータと申します」
ついで、後ろのカレン、ティナ、ベアトリス、アリスが続く。
そう言えば元・ぽっちゃりさんの二人組がいないが…と周りを見回せば、庭を囲む回廊で、何やらメイド達と絵を描いている。
二人は絵を描くのが趣味だと言っていたので、美麗な竜王を描いているのだろう…。
そこで私ははっと気が付く。
現在、目の前には3人の変態さんがいる…。
それを彼女達が書いているとしたら!
マントを着たダビデ像の模写がメイド達に流出する可能性が!
蒼褪めた私を不審に思ったカレンが視線の先を追い、同じように目を丸くした後、何気ない風を装ってその場を離れた。
カレン…なかなか動きがいいじゃないか。
チラリと絵を描く二人を見れば、同じように気が付いて止めに来たのであろう騎士団長カイザーの姿があり、彼に褒められて顔を真っ赤にするカレンが見られた。
やはりあそこはラブなのか…。
思わずにやにやしそうになるのを口元を隠すことで堪えると、じっと白と黒の竜王に見下ろされているのに気が付いた。
挨拶途中だったよ…。恥ずかしい。
肝心の竜王陛下にありがとうも言わなくてはいけないのに。
「ころころと表情の変わる娘だな。私のことは白と呼ぶがいい娘。いや…ルゼ、だったか? ようこそ竜族へ」
白の竜王陛下はくすくすと笑う。
人間嫌い、というわけでもないのだろうか?
「私のことは黒と呼べ。竜族は名を呼ばれることを厭うのでな。真名はもちろんのこと、愛称ですら己の嫁となる番にしか呼ばせぬのが普通であるのに、そこの紅は親しいものにシャルと呼ばせる変わり者ゆえ、竜の常識は他の竜に聞くのが良かろう」
なるほど、シャルは変わり者だったのか…。
チラリといまだ私の腰を放さないシャルを見上げれば、今度は額に口づけが降りてきて…。
ぼふんっと顔に熱が集まり、動悸と眩暈に襲われました…。
「…ふごっ」
ついでに呼吸困難だったらしい。
まともに呼吸しようとしてブタの鳴き声のように鼻を鳴らしてしまった。
「…ふむ、嫁は人間ではなく、豚の一族だったか…」
黒の竜王はうんうんと頷き、私はぎょっと目を剥いた。
このパターンは幼い時に何度もあった化け物シリーズのような、おかしな誤解が続くパターンでは!?
慌てて訂正する。
「私はっっ…て、アレ? 嫁? 誰が嫁? 誰の嫁?」
なんだかおかしなことを言われたぞ、と首を傾げる私に、竜達は三人とも顔を見合わせ、そして私をじっと見降ろした。
嫁…
「ひょっとして…私のこと?」
自分を指さし、尋ねると、3人の竜はこっくりと頷いた。
私…嫁だったのですか!?
いつから、誰の!?
オリビア(ひょっとして、妻と嫁で違う生き物を想像していたのでは…)
オリビア、長年の付き合いゆえの分析。




