第60話 竜王登場!
「妻になって欲しい、ルゼ」
目が点になった私は、手を取られ、懇願された瞬間、ドバッと冷や汗を吹き出した。
ついに…というより、予定より早く戦いの時がやってきた~!?
となると、竜体相手に戦う術を用意し、組み合わせを入念チェックして、どれほどの効果を出せるか考慮し、さらに失敗した時のことも考えて、いくつか作戦を立てねばなるまい…。
シャルにはリュークになった姿を見られているので、彼もおそらくリューク対策をしてくるだろう。
やるなら…アマゾネスの縄技の一つ、玉括りで竜体の急所を縛るとか…。
男の時は避けたい痛い荒業だったが、女性に生まれ変わった今ならできると思う…。
「我が君、何やらぐるぐると不穏なことを考えていそうですが、妻問いの返事はどうなさいますか?」
私がぶつぶつつぶやきながら計画を立てていく姿を見つめ、オリビアが尋ねた。
妻問い…要するに、戦うか、戦わないか、ということね。
「受けて立とう!」
「感謝するルゼ!」
胸を張って答えると、シャルが満面の笑顔を浮かべて私に抱き着いてきた。
思わずその笑顔に胸が撃ち抜かれ、バクバクと動悸、息切れ、めまいが襲ってくる。
は、早まった!?
こんなに喜ぶってことは、ものすごい自信があるってこと!?
そして私は今にも倒れそうだ!
顔を真っ赤にし、治まらぬ動悸とめまいにくらくらしながらシャルにしがみ付いていると、彼は体を離し、改まった様に柔らかく溶けるような笑みを受かべて告げる。
「すぐに竜王を呼び集める。式は早くても2週間後になるかもしれない。竜王の中には怠惰な奴らが…いや、そうだな、我自ら奴らを呼んでこよう。遅刻などさせん。忙しくなるぞ」
何やら興奮気味に言うシャルは立ち上がると、どういった流れで戦いの儀式を始めるのかわからない私は、彼の姿をずっと目で追った。
自然、下から見上げる形になる。
すると、シャルはその視線を受けてピタリと止まり、ベッドに片膝を乗せると、私の頬に右手で触れながら、唇に軽く触れるキスを落とした。
「共に永久に」
竜が番に誓う愛の言葉を言ったなどとはつゆ知らず、私は蕩けそうな微笑を浮かべるシャルの、熱い眼差しを受け止め、オーバーヒートで寝込んでしまうのだった…。
そして3日後、ヴァイマール王国首都ルーヴェンの空を、巨大な生き物の影が覆った。
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「竜王がやって来たにゃー」
すっかり体力が回復した私は、幼児メイド達と共に空を覆う何頭もの竜を見上げ、その着地地点であり、つい最近入ることを許された城の中庭へと走った。
ついに竜王と対面だ!
私の想像する竜王は、黒髪の黒竜である。
どんな竜なのか、いや、それよりもまずはお礼を言いたい。
幼い頃の私を助けてくれてありがとうと…。
はやる気持ちを押さえつつ、中庭をぐるりと囲む回廊に出る。
中庭は、もともと竜王の竜体の着地場所になっているため、花や木が無く、柔らかな芝生だけが広がっている。
そこに、バサリと翼を鳴らしてまず最初に降り立ったのは、3体の巨大な竜である。
1体はシャルで、見慣れた紅の体躯に、黄金色の瞳をしている。
戦闘特化しているためか、他の竜より筋肉質に見える。
もう2体は太ってはいないし、締まりもあるが、シャル程筋肉質には見えない。
色は白と黒。
白竜と、竜王という名にふさわしい黒竜が目の前に!
ドキドキと期待に高鳴る胸を押さえつつ見つめる私の前で、3体の竜は光を放った。
某映画の登場シーンと共に流れる音楽が頭の中で廻ったのは私だけだろうか…。
そこには、3人の白、黒、赤の髪を持つ男達が地面に片膝を付き、ゆっくりと立ち上がる姿があったのだ。
ただし…全裸で…。
三人は立ち上がると、そのまま互いに肩を抱き合い、何やらにこやかに話し始める。
あまりに自然体すぎて、人間はいまだ裸で生きているのかと本気で思ってしまったくらいだ。
「相変わらず竜の思考はダメダメにゃー」
幼児メイド達は呆れたようにため息を吐き、グラハム、黒猫さんが3人にマントを着せに行く姿を見つめていた。
私はそこで呆然自失していたことに気が付き、はっとした。
「「「きゃああああ!!」」」
3人の肩にマントがかかると、城中から女性達の悲鳴が響き渡った。
驚いて周りを見回せば、神殿では見かけない侍女やメイド達が回廊に立ち、目を爛々とさせてシャル達を見つめていた。
彼女達も私と同じで、彼等の裸を堪能してしまってから、裸という事実に気が付いて悲鳴を上げたのだろう。
ムカッ…
ムカ??
一瞬浮かんだ嫌な気分に私は首を傾げつつ、目は赤い髪を視界に捕えながら、黒髪の竜の男を追っていた。
あれが…竜王陛下かぁ…。
かっ…カッコイイかも…。
その時の私は、全員竜王陛下だなどとは知らず暢気に彼等にドキドキし、興奮していた。
知っていれば、あんなことにはならなかったのに…と未来の何処かで嘆くことになる。
それはともかく…、
今は服を着ようか、裸族達よ…。




