第57話 目が覚めたら…
若干後ろの気配にびくびくしつつ、ようやく辿り着いた孤児院は、今まさに敵の襲撃を受けて攻防を繰り広げていた!
…のだが、なんだか違和感が…。
「あぁ! 屋根に火が!」
サーシャが悲鳴を上げ、馬から飛び降りて水魔法を使おうと動く。
しかし、サーシャの水魔法と言えば、裏町の入り口で使用した際、思いっきり壁をぶち抜いていたので、同じ使用方法では孤児院の壁がぶち抜かれてしまう!
孤児院に残っていたらしい子供達は水魔法を使っているが、彼等はまだ幼い為か、火消しに丁度良いぐらいの威力しか出ていない。
そちらは良しとして、、サーシャの水魔法は何とかしなければ。
「サーシャ! それをまっすぐ放つのではなく、あ~、上に、そうだな、上に放て」
「なるほど!」
サーシャは頷くと空に向かって水の塊を放ち…。
「きゃああああ!」
放った水魔法はそのまま落ちてきた…。
おかげで私もサーシャもずぶ濡れだ。
「サーシャ…」
「上に放てって言ったじゃない!」
「誰が頭上に放てと言ったんだ! 屋根の上!」
びしりと屋根の上を指さすと、その屋根の上に動く影がある。
「ん?」
私とサーシャはそちらに目をやり、屋根の上で動く者を目を細めてじっと見つめ、ぎょっと目を丸くした。
燃える炎の傍で、小さなネズミの群れがバケツリレーをしていた…。
孤児院に辿り着いた時の違和感はこれか!?
チラリとその屋根から下を見れば、先程逃げた偽騎士達と、エヴァン、イマネア、オリビア、シャルが戦っている。
しかし、もう一度屋根に目をやれば、そこではネズミ達が消火活動を…。おまけに小さな纏(時代劇などの火事場の屋根でクルクルと回す棒)をバッサバッサと回している。
か…可愛いんだが…。
「ミスマッチね…」
サーシャがぽつりと呟くのに私は同意して頷いた。
と、そんなことに驚いている場合ではない!
疲れのせいか現実逃避していた自分を叱咤して敵に目をやれば、孤児院の子供達も手伝って、人海戦術で次々と敵が捕らわれていく。
この孤児院を襲おうということ自体無謀だったようである。
だが、これだけ容易に倒せるのは、次々と捕らわれていく敵の中にあの魔道士の姿が無いせいだ。
辺りを確認しても気配を感じ無いことから、完全に逃げられたことを悟った。
当然オリビアもシャルも気が付いているのだろう。
残念だが仕方がない。
それに、正直助かった。気力体力限界だ。
「ルゼの体では限界が近くていかんな…」
ひと段落ついたと悟った私は、後は大丈夫だとその場に座り込むと、大きく息を吐いて目を閉じた。
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孤児院の火を消し止めたり、偽騎士の残党を捕えたりと子供達が大暴れしている中、ある程度の見切りをつけてオリビアとシャルが私を回収した。
その頃には気が緩んだせいもあって意識が朦朧としていたが、何とか馬に乗って(乗せられて)、神殿前で禁呪を解くと、体を形成していた土人形が2体その場に崩れて残り、精神は体に戻った。
体に戻っても気力体力が尽きた後なので動くことができず、ようやく意識が浮上したのは周りが騒がしくなってからだった。
「おぉ、目が覚めたか」
この声は!
ばちっと目を覚ますと、目の前にはたぷたぷと緑色の液体が揺れる器が差し出されており、私は心の中で悲鳴を上げた。
これは間違いなくヘル爺の薬湯ー!
間違いない。
なぜなら、目の前には白髪に青い目、髭もじゃのヘル爺ことヘルムンド本人がいるのだから。
「なんでヘルじっ、ぐぼっ」
口を開けた瞬間に飲まされた。
ベットの上を汚すわけにもいかず、気合で飲み干したが、その後は心の中でのた打ち回り、体はしばらくピクリとも動けなくなってしまった。
「状況をご説明いたしますと、ルゼ様のいらした孤児院は敵方に狙われていること、また、孤児院の屋根が燃えてしまい、修繕が必要なことから、こちらの神殿にしばらくの間移っていただくことになりました。師匠のお薬があればルゼ様も安心ですしね」
黒猫さんが傍にいるのか、状況説明をしてくれる。
「んがーっ、ぐふーっ、ぶはーっ」
うつ伏せで抗議するが、先程の薬のせいで言葉にはならなかった。
「よしよし、嬉しいんだなルゼ。わしもお前さんを治療できて嬉しいぞ」
治療=実験、に聞こえるのは気のせいか!?
蒼褪めながらも、ようやく指先がピクリと動き、私はのそのそと体を起こす。
こういう時油断していると第二段の薬湯が来るのだ、早く起きなければっ。
腕を立てた瞬間びりっと右腕に痛みが走り、見れば精神体の時に受けた傷が包帯をうっすらと血に染めている。
体を起こすのに失敗してばふっと枕に顔を沈めた。
リュークには気にならない程度の傷だったが、怪我をしたことがほとんどないルゼには少し深い傷だったようだ。
「治癒魔法を使いましたが、なぜか薄皮一枚分しか治療できませんでした。申し訳ありません」
チラリと横を見た私の前で、スッと頭を下げる黒猫さんに、私は首を横に振る。
「これも禁呪の副作用だから。アレを使った後はいかなる魔法も打ち消すって。薄皮一枚でも治療できる黒猫さんの魔力がすごいくらいだよ」
「恐れ入ります。ですが、またキズが開いてしまいましたね、すぐに治療を」
黒猫さんが近づき、私は彼女の手を借りて上半身を起こすと、ふぅと息を吐いた。
そのとき、ふとベッドの向かいの姿見を視界に捕えてぎょっとした。
「なんですとー!?」
「あ。可愛いでしょう? 私と裏子猫隊の皆様で、クローゼットの中のルゼ様をお着替えさせていただきましたわ。本日のコンセプトは、イチゴでスウィート悩殺ファッションです」
慌てて私がばっと上掛けをめくると、そこにはイチゴのパンツが!
「うふふふふふ」
黒猫さんはうっとりとした様子で微笑み、私はがっくりと肩を落とした。
イチゴでスウィート悩殺ファッション…それは、イチゴのパンツとイチゴのブラを着た…ベビードール姿でございました。
可愛いけど! 可愛いけど!
全部見ましたよねー!?
ルゼ 「…お、お嫁にいけない…」
黒猫さん「その心配はございません。うふふふふふ」
ルゼ(え? 黒猫さんが貰ってくれる気とか!? それはそれで…いやいや、リュークに引っ張られるな! 私は今乙女だ~!)
ルゼ、禁呪の影響が少し残っておりました…。
黒猫さん「ルゼ様、ご乱心。ふふふふふ」
ルゼ 「心を読まれた!?」




