第56話 後ろに要注意…
シャルが広場に降り立つと、偽騎士達が怯むのが見えた。
その隙を狙って私は第一級構成魔法を発動する。
「オリビア! そいつらを逃がすなよ!」
「はっ!」
どんっ! と地面が大きく揺れ、それと同時に裏街全てを範囲として、発動した魔法が空の水と地の水を呼び寄せ、天と地の水が噴き出し繋がることによって、裏町には巨大な町を包み込む水の柱が立ちあがった。
これで全て消火するつもりである。
酸素が無くなるのではと思うだろう。だが、この魔法は生命体は避けるようになっている。
でなくては今頃私も溺れている。だからこその第一級構成魔法ともいえた。
グオォォォォ~ン!
シャルの声はその壁の向こうへと響き、飛び火し始めていた表町へ魔法を届ける。
建物の火を真空の魔法で消している気配がする。
広範囲でなく、人もいなければ一番手っ取り早い方法だ。
『イマネア! フィセル!』
咆哮の後、シャルの呼び声に、彼の背から二つの影が飛び出してきた。
「お任せを!」
シャルから飛び降りたのは、騎士服に身を包んだ赤茶色の髪の女性と、ほんの少し億劫そうな表情をした、茶色の髪の青年…。
かつて、孤児院で短い間だが共に修行した竜人のイマネアと、そのお付きのフィセルだ。
この二人は7年経っても姿が変わらない。
懐かしいが、今は再会を喜んでいる場合でもない。
「我等竜人は人間同士の争いには極力不介入であるが…。我が王の番の危機とあらば剣をとる。それでなくとも、彼・・彼女? とにかく、あの子とは友人であるしな!」
イマネアはそう告げると、魔法に驚いて呆然としていた偽騎士達に向かって剣を引き抜く。
鞘走りの音に偽騎士達ははっとした様子で我に返るが、その頃にはすでにオリビアが彼等の懐に入り込んでいる。
「私の出番がありますかね?」
フィセルはオリビア、エヴァン、イマネアの活躍を見ながら呟き、シャルの尻尾に叩かれてようよう飛び出した。
人よりもずっと戦闘能力の高い竜人が加わることで、形勢が逆転し、偽騎士達が逃げる素振りを見せだしている。
だが、逃がす気はないぞ。
周りの火がほとんど消えたのを見計らって、水の柱を広場に集めた。
出口全てを水で塞ぎ、彼等を広場に閉じこめ外に出さないようにしたのだ。
『ルゼ』
「今話しかけないでシャル。そろそろ限界が来るから」
『ならば下がっていろ。後は我等で何とかする』
我等…と言っても、シャルは竜体な為、こんな狭い場所では暴れられない。
そう思ってシャルを見上げれば、その体が光に包まれ、縮んで行くところだった。
「あ…」
私が声を上げると、シャルの動きに気が付いたイマネアのお付きフィセルが足を止め、「あちゃー」とばかりに顔に手を当てた。
光が消え去ったその場所から出てきたのは、いつものシャルの人型の姿…。
しかし、それは…。
「きゃー!! すっぽんぽん! 何!? この人裸自慢!? こんな時なのに変態!? 変態なの!?」
サーシャがシャルの人型を見て、悲鳴を上げて顔に手を当てたが、その指の隙間から目を輝かせて観察している。
お約束だねサーシャ…。
そしてシャル、前を隠そうか。
竜だから気にならないかもしれないけど…まぁ、私も前世がこれだし、今は姿もこれだから大丈夫…。
なんていうわけないでしょー!!
「シャル! 服を着てー!!」
私は顔を真っ赤にして叫ぶ。
あまりの衝撃に、危うく水の魔法が崩れるところだ!
いや、もう、連戦と魔法連発と怪我と、今のショックで崩壊寸前!
「我が王! 服は!?」
バタバタとフィセルが駆け寄り、マントを着せる。
…日本で稀に現れる前見せおじさんの様じゃないか!
「忘れたな…。それよりも先に敵を捕えよ!」
「先に女の敵を捕まえてよエヴァン!」
「俺に言うなよ!」
なんだかどたばたしていると、傷のせいか、この状況のせいか、くらくらとしてくる。
その瞬間、視界の端で偽騎士が一人動き出し、私ははっとした。
アレは魔道士だ!
「イマネア! その男だ!」
シャルが私より先に飛び出し、男を追うためにイマネアにも声をかけたが、男はにやりと笑みを浮かべると私の魔法を炎で破り、数人の偽騎士と共に逃げ出していった。
私の魔法も限界なために水はばしゃんと崩れ、ぜぇぜぇと息を吐いた。
「逃げられた! ルゼ! あっちは孤児院の方角よ!」
サーシャの言葉に、私は頷くともうひと踏ん張り! と体を起こし、馬に飛び乗った。
その後ろにシャルが飛び乗り、同じようにオリビアの後ろにイマネアが乗ると、倒した兵の捕縛のためにフィセルを残し、私達は孤児院へと急いだのだった。
う、後ろは見たらダメよルゼ~!
と自分に言い聞かせながら・・・・。
グラハム「…陛下、服を忘れていかれましたな…」
ルド 「…それじゃあ役立たずで終わるか、変態で終わるかだよね…」
ナハル 「・・・・・それでも竜王だ」
ルド 「いや…まぁ、そうなんだけど…いいのかな…」
よくありません。
陛下は服を忘れて…大惨事。




