第55 話 広場の攻防
「サーシャ、孤児院はどうなった!?」
「ルゼが男になるのを覚悟したのっていつよ!?」
「それより火を消さないとっっ」
「孤児院にネズミが大発生して!」
パニックになっているのか、孤児院仲間達はそれぞれがそれぞれの話をしていてまとまらない。
ついでに私の出した水の蛇も、性転換発言で受けたショックが大きかったのか、只今、何もない道端で巨大ななめくじのような姿をしながらびったんびったん跳ねていた。
「性転換…」
「我が君、精神的お疲れの所に大打撃はわかりますが、火を消してくださいっ」
至極冷静な声がして私ははっと我に返ると、疲れ切っている精神を立て直し、もう一度町に向けて水の蛇を動かす。
とにかく今は火を消すことが大事だ。
「エヴァン! サーシャ! 孤児院が無事なら火を消すのを手伝え!」
私の叫びに彼等はびくりと反応し、他の孤児院の仲間と共に水の魔法を繰りだす。
しかし、教えた水の魔法は攻撃魔法なので、下手くそな孤児院勢は、その威力押さえることができず、炎で弱っている建物の壁をガスガスとぶち抜いていく。
終いには倒壊するものまで…。
「きゃー!! 皆やり過ぎよ!」
「そう言うサーシャが一番穴開けてるだろ!」
この辺は昔のままらしい。
「ならば、お前達は今にも倒壊しそうな建物を狙え! 火を消すことに専念! そこで見てる裏町の人間はバケツリレー!」
私の激に、先程まで逃げ惑っていた町の人間達がバタバタと動き出す。
この界隈の敵は逃げ去ったので、ここを裏町の人々の脱出口にするのだ。
裏町の人間は根性だけはぴか一なので、敵の姿さえ見えなければ、バタバタと戻ってきてバケツリレーを始める。
「エヴァン、騎士団の応援は!?」
「裏町には手が回せない! 全員駆り出されてるはずだ」
残った騎士達は神殿の警護に当たっている。
あの場所で敵を捕らえる為だ。
そうなると、裏町は裏町の人間でしか護ることはできないが…。
チラリと視線を落とせば、何人もの負傷した人々が地面に転がり、その中にはすでに事切れている者もいる。
さらに町は燃え続け、この先には炎から逃れられずにいる者も…。
「人数が足りん!」
舌打ちしたい気分である。
「陛下、我が君! 人命優先です」
「…だな、オリビア、この先に広場がある、着いて来い!」
「はっ!」
考えるのは後にして、一人でも多く町の物を救う方法をとることにし、私達は馬を駆った。
半ば炎の道と化した場所を水の蛇を伴いながら突っ切っていく。
時折まだ生きている人々が突然消えた炎に呆然としながら顔だけあげるが、立ち上がることはできない様子だ。
そんな人々の救済をすることもできず、歯噛みする思いだが、私とオリビア、それにエヴァンとなぜかサーシャがついてきて、炎に囲まれて炎の柱がうねる広場へと突っ込んだ。
水の蛇を炎の柱にぶつけることで互いに相殺され、その瞬間に出た大量の蒸気が襲いかかる。
とりあえず生命反応のある場所に結界を張ってそれを回避し、広場の中央で馬を降りた。
この炎の中でも走ってくれた軍馬に感謝である。まだまだ危機は脱してはいないけれど…。
見回せば、変わらず炎は辺りを取り巻いており、またいつ火柱が上がるかわからない。
そんな中、私に代わり結界を張り巡らせるのはオリビアだ。
そして、先程散ったはずの敵達の姿も炎の中にちらほら見える。
「読んでたな」
「なかなか賢いようですねぇ」
「あいつら…」
「あー! 孤児院を襲った奴等よ!」
エヴァンが剣を構え、サーシャが角材を構えた。すると、ぼっと音を立ててサーシャの角材に火がついた。
「ぎゃー! あたしの武器が松明に~!」
何というか…サーシャはコント要員に育っている気がする。
こんな時だが、気が抜ける。
「お二人とも、ルゼ様の援護をお願いします。火を消すために」
「了解」
「よくわかんないけど何とかするわ!」
エヴァンとサーシャ、オリビアが偽騎士達に相対する。
私はもう一度気を引き締め、彼等に周りの敵を任せ、第一級構成魔法を立ち上げる。
「天の恵み、地の恵み、その手を取りて…」
しかし、敵も全兵力を投入しているのか、人数が多く、3人では捌ききれない。
私も呪文を呟きながら、攻撃を避け、さらに体術で敵を沈めていくが、周りの炎のせいで酸素が減っているのか、エヴァンとサーシャの動きが目に見えて鈍り、私に飛び交かつてくる敵が増えた。
さすがに躱しきれんか!
ザッと右の二の腕部分に敵の剣が触れ、私は顔をしかめる。
この体は元の体と繋がっているため、すっぱり切れた部分からは血が滲み、袖を濡らした。
「我が君!」
「問題ない!」
無くはないが、前世の記憶からすれば些細な傷だ。
それより心配なのは…。
「オリビア!」
私が叫ぶと、偽騎士達がばっとその場を離れ、炎が私達のいる場所に向かって囲むように迫ってきた!
偽騎士の動きを思えば計算ずくという奴だろう。
「小賢しい!」
オリビアは剣を一閃し、炎を切り裂く。
だが、そのすぐ後方には、炎の塊でできた蛇が真正面から襲いかかってくる。
その抜け目のない作戦に、私もオリビアも口の端を上げて笑みを浮かべた。
(この時代にもこれだけやれる者がいたか!)
共に同じことを思ったろう。
オリビアは私の前に入り込み、蛇と向かい合う。
当然今回は少々痛手を負うのを覚悟した。
その時…
グオォォォォォォ~ン!
咆哮と共に空から降って来た巨体が私達の前に飛び込み、炎の蛇をその口で喰らって散らし、さらに空気をビリビリと震わす咆哮をあげると、広場近くの建物の炎を全て消し去った。
『間に合ったか!?』
その声は、シャルの物であった・・・・。




