第54話 裏町炎上
残酷描写が少しだけありますご注意ください。
馬を駆り、城の門から飛び出すと、すぐに漂ってきたのは何かが燃える臭い。
そして、裏町周辺の空は夜空であるというのに赤く明るく輝いていた。
「どれだけ燃えてるんだ?」
エヴァンがぞっとしたように呟く。
「オリビア、帰りは頼むぞ」
「心得ております」
裏町から遠く離れた王城の出入り口からでもその炎の規模が知れるのだ、かなりの魔法を使うことは目に見えており、私は魔法を行使することによる体力と精神力の限界を覚悟して、オリビアに頼むと即座に水の魔法を発動させた。
貴族街では、裏町の状況や、シャル達による取り締まりで目が覚めたのであろう貴族や、使用人達が怯えた様子で建物から出ていたり、家の窓から外を覗いていたりする。
貴族街でこれなのだ、おそらく平民街の住人は道に溢れていることだろう。
炎の近くで魔法を使うのが一番魔力が少なくて済むが、この様子ではやはり近づくのに時間が掛かりそうだ。
ゆえに、先に水の魔法を飛ばしたが…。被害を押さえられるかはわからない。
「どれほど集められるか…」
空を見れば、裏町上空辺りに発動した巨大な魔法陣が浮かび上がり、それが雲を集めているのが目に見えてわかる。
だが、最近は晴れて乾燥しており、雨を呼ぶには分が悪い。
「ルゼ、こっちだ!」
エヴァンが知り尽くした町の道を先導する。
多少遠回りになっても、人通りさえ少なければこちらは馬に乗っているのだから何とかなる。
私達はそうして細い道を何度も曲がり、裏町へと抜けることができたのは、普段ならば5分で着くであろう道を15分掛けて駆け抜けた時だった。
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魔法の効力で集められた雲により、大雨が降りしきる中、私達はようやく裏町へと飛び込んだ。
ギィィィィン!
「ぎゃあああ!」
「きゃあああ!」
「助けてくれ!」
裏町に出るなり、目に飛び込んできたのは消火作業ではない。
騎士…に似た衣装を着た男達が、燃え盛る建物から逃げ出した住民達を、まるで狩りでもするかのように斬っていく風景だ。
そして、あちこちで何とか生き延びようと、クワなどの農具、もしくは包丁などの調理用具で応戦する町の住人の姿がある。
「エヴァン! オリビア!」
私が叫ぶと同時にエヴァンが飛び出し、オリビアがそれに続く。
「全員ぶっとばしてやる!」
「町の者の退路の確保をお願いします、我が君!」
頭に血がのぼったエヴァンを止めたいが、状況がそんな余裕をくれないようだ。
彼はオリビアに任せて私は火を消すのに集中する。
雨の勢いは凄まじいが、火の勢いもまた凄まじく、衰える様子を見せない。
住民はいやでも偽騎士達の待ち構える方向へ走るしかない。
「この火は不自然だな」
エヴァンとオリビアが偽騎士達を減らしていく後ろで、私は町を走る水路に目を向け、パチリと指をならす。
すると、水路の水がごぼりと持ち上がり、まるで蛇のようにうねって立ち上がった。
「何・・・だ」
偽騎士の誰かが呆然と呟いたのを皮切りに、誰かが「魔道師だ」と叫ぶ。
「魔道師だと何かあるのか?」
馬上でにやりと微笑んでやる。
掛かってこい。
そのつもりで挑発したが、偽騎士達は意外にもこちらにはかかってこず、それどころかこちらを避けるかのように逃走を始めた。
ただし、町への火付けをしながら。
「冷静な指揮官がいるものだ。だが、これ以上好きにさせるか阿呆共」
ひゅっと手を前方に向けて薙ぐと、先程立ち上がった水の蛇が一気に燃える建物と火種、それに何人かの偽騎士に襲いかかる。
じゅっと音を立てて一部の水が蒸発しても、水は道に落ちた雨水からも補充される。水の蛇が消え去ることは無い。
偽騎士達の一部はその体内で溺れ、気を失ったところを排出される。
禁呪と、空の魔法陣と、水の蛇。
さすがにあれもこれもと発動すると、ルゼの体が悲鳴を上げているようだ。
精神体だが、ルゼの体に呼応して脂汗が浮かんだ。
「エヴァン!」
一瞬意識をとられそうになってはっと我に返ると、戦うエヴァンに青年と少女が駆けてきていた。
皆各々武器を持っているが、やはり木切れであったり、包丁であったりする。
「サーシャ!? 孤児院は!」
サーシャ!? 幼い時いつも一緒に行動していたあのサーシャ!?
私も驚いて馬を近づけると、彼等に思い切り警戒されてしまったようだ。
あ…姿がリュークだからか。
「魔法を使ってるがルゼだ。大丈夫」
「ルゼ!? ほんとに!? あんた…健康になるために…性転換しちゃったのー!!?」
なぜそうなる…。
かつての孤児院仲間、サーシャの叫びに、私は思わず水の蛇の魔法を解きそうになったのだった…。




