第46話 謝罪は受けましたが…
神殿には無事に戻れました。
まぁ、まだばれたばかりなので、襲われるのはこれからが本番だろう。
で、外に出ることが厳しくなった私達にできることはおのずと決まってくるのです。
それは、当然味方作り。
「味方を作って、ルドを王様にして、猫を助けて、女の子達を理想に近づけて、反魔法勢力を蹴散らし、健康体になって、シャルに食べられないようにする」
「目標を立てるのはいいことですが、問題が山積みになっただけのような気もしますね」
オリビアは指を追って数える私を見つめ、深くため息をつく。特に最後と最後から二番目の目標は、果てしなく高いハードルになっている気がする。
そんな私は、現在、神殿のベッドの上で顔を赤くしてぜぇはぁ言っていた。
何が起きたか?
神殿に戻り、馬から降りた私は、シャルが駆る馬の前に乗り、全身に風を浴びたせいか、それとも埃を吸って体調を悪くしたのか、それともそれとも、鼻血を噴いた上にオリビアに振り回されたせいか…。
…全部だろうけれど、神殿に返ってほっとした瞬間、バターン! と硬直状態で倒れ、ぴくぴくと痙攣したのだった。
ま、これはいつものことだね。
いつもと違うのは、その後、ここに彼等がいることだ。
「「「申し訳ありませんでした!!」」」
病人の部屋に大勢押しかけるわけにはいかない。
ということで、ルドヴィーク、ナハルジークが隊を代表し、スパイ疑惑をかけたことへの謝罪をしに来た。
のはいいが、そこにもう一人、初めての騎士との合同訓練で突っかかってきたレンが加わり、三人が床に額をこすらんばかりにして土下座している。
そして、その背後では黒猫さんがニコニコと微笑みながら彼等を見下ろしていた。
なんだかわからないけれど、黒猫さんが一番怖い…。
しかし、女性には優しい彼女の剥いてくれたリンゴをかじり、私は頭を下げ続ける三人を見た後、だんだんと面倒臭くなって許すことにした。
「ただの誤解だからいいよ」
そう言った瞬間、なぜか三人の目からは、ドバっとこちらがドン引きするほどの滝のような涙が溢れたが、私は目を逸らし、見なかったことにした。
「ルゼ様は寛大ですね」
三人の騎士はそのままこの部屋を警護すると言い張ったので、とりあえず視界に入らない部屋の外を警護してもらうことにしてようやく落ち着くと、黒猫さんがリンゴを兎剥きし、お見舞いに来ていたアリスの皿に乗せつつそんなことを呟いた。
「ありがとう」
5歳の少女アリスは何をするでもなく、そこにいて林檎を食べているだけだが、和む。
ほんわりしながらアリスを見つめていると、オリビアには寝るようにベッドに押し付けられる。
「寛大かなぁ?」
先程黒猫さんが呟いたことに対して、首を捻りながら布団にもぐると、オリビアも眉根を寄せて少々考え込んだ。
「寛大な人は臣下の作戦に腹を立てて、落とした城塞の城壁に吊るしたりしませんよ」
オリビアの言うのは、私が人間大砲にされた日の逆襲のとある一コマだ。
さすがに主を大砲にする臣下には、反省してもらうつもりで全員城壁から縄で縛って吊るしてやりました。
図太い奴らはその状態でも普通に寝て、翌朝スッキリ顔で目を覚ましてたけどね!
「寛大ですわ。私ならば精神が溶けてなくなるまで…あ、いえ、失言でした」
どんな失言!?
それより精神って溶けるの!?
私とオリビアは思わず黒猫さんを見やるが、彼女は照れたようにはにかんでいて、突っ込めないっっ。
黒猫さんはこう見えて隠密なのだ、きっと人には言えないあんなことやこんなことを知っているのだろう。
リュークがいろいろやってきたように…たぶん…方向はより危険度を増している気がするけれど。
「ん」
アリスはそんな黒猫さんにリンゴをおすそ分けするらしく、黒猫さんの「あ~ん」を待っている。
黒猫さんはそんなアリスを見ると、目をギラッと一瞬輝かせた後、実に幸せそうに「あ~ん」としていた。
このギャップがきっと怖いのだろうな…。
チラリと見れば、部屋に入ってきた騎士レンが、少々蒼褪めた表情をしてこちらを見ていた。
「外の警護をお願いしたと思いましたが」
黒猫さんに静かに問われ、レンは背筋を伸ばす。
「申し訳ありません。寝所を騒がせる気はなかったのですが、騎士達がどうしても謝罪をしたいと詰めかけておりまして」
言われて私は首を傾げ、オリビアは私のかわりに部屋の外を確認して戻ってくる。
戻ってきたその顔には、呆れと、困惑と、何やら慈愛が入り混じったような表情が浮かんでいた。
「何?」
「子猫隊と、訓練でルゼ様が倒した騎士達が外で待っております。謝罪を受けてほしいと」
代表だけの謝罪では満足できなかったようで、結局騎士達が押しかけているらしい。
混乱を避けるため、私はオリビアの手を借りてもう一度ベッドに体を起こすと、部屋の入り口から顔を覗かせたブリオッシュが駆け寄り、私をお姫様抱っこして廊下へと連れて行ってくれた。
で…外に出た私が見たモノは・・・・。
「「「「申し訳ありませんでした!!」」」」
廊下を埋め尽くす騎士の土下座だった…。
「いや、もう大丈夫だから」
そう言って引き攣りながらも許しを与えれば、やはり彼等も顔を上げ、滝のような涙を流した。
私はその姿に『どこまでやったの黒猫さん!?』と突っ込みたかったが、とりあえず笑みを返すにとどめた。
が、その笑みがどう彼等に響いたのか、翌日から、騎士達による花のプレゼント攻撃が始まり、私達は再び困惑の渦に落とされるのであった。




