第45話 ばれたら敵が来る?
「リューク?」
シャルは訝しげに私を見た後、もう一度リュークを見つめる…、というのを数度繰り返す。
何度見てもリュークの顔と私の顔は同じではないのだが。
シャルだけでなく、周りも確認すると、やはりぽかんとした表情の騎士達の姿がある。
まぁ、普通信じられるものではないだろう。
この気まずさをどうしてくれるんだっっ、リューク。
ちらっとリュークを見やれば、その表情は真面目ぶっているが、目が明らかに面白がっており、キラキラと輝いているのがわかる。
奴も私も元は同じ。人を驚かすの好きですともっ。えぇ、本質はそれですよ。
くっと涙を飲んで他にできることも無いので堂々と胸を張ってみた。
すると、視界の片隅で何かがゆらりと揺れる。
「と…いうことは、リュークの記憶があるということれすか!」
誰もが唖然として動かない中、一番に飛びついてきたのは、なんと、先程棍棒でぶっとばされたルドの父親であある。
それも、鼻血をだらだらとこぼした状態で駆け寄ってくるではないか!
自分も同じようなことした記憶が山ほどあるけど、これは…これは確かに引くわ!
「その叡智をわたくひにもっっ」
「そこまで」
今にも手を取られそうな距離まで迫り、オリビアがはっとして庇うために前に出る…その前に、シャルがルドの父と私の間に入り、腕を広げてルドの父を制した。
彼は振り返り私を見下ろして尋ねる。
「ルゼ、そこの管理人はもう一度本に戻すことは可能か?」
「そんなっっ。まだ何も聞いてはいないではないですかっっ」
シャルの後ろでルドの父が喚いているが、シャルはそれを無視し、私に腕を伸ばすと、そっと抱き上げた。
その状態でルドの父を睨み据え、近づくなとばかりに威嚇するのも忘れない。
ルドの父は何とか私に近づこうとぴょこぴょこ跳ねていたが、さすがに爬虫類のそれに近い竜眼に睨まれて、身を竦ませるとしゅんと項垂れ、さらに妻のルーチェとメイドの黒猫さんによって縄でぐるぐる巻きに縛られた。
だ、大丈夫なのだろうかオブライエン家…?
「ルゼ。戻せるか?」
ぼんやりとしていて流される様に腕抱っこされ、下から覗きこまれた状態でもう一度尋ねられた私は、はっとしてコクコクと肯いた。
「オリビア、本を」
「あ、はい」
オリビアは本の山の下にまだ一部埋もれている本を抜き取ると、それを拾い上げてバシバシと叩く。その叩き方が少々乱暴なのは、リュークの紹介の仕方をいまだに根に持っているせいだろう。
リュークはクッと喉を鳴らして苦笑すると、本の山の上からひらりと降りて私の前に立つ。
いや、正確にはシャルの前にかな。
『どうやらばらしたことに問題がありそうだな?』
「大ありだ」
シャルが今にも舌打ちをしそうな様子で忌々しげに吐き捨て、リュークは苦笑した。
『それは悪かったな。だが、護ってくれるのだろう?』
リュークは面白そうにシャルを見つめ、シャルはそんなリュークに不機嫌そうに眉根を寄せ、私の頭をその肩に
押しつけるようにして強く抱きしめると、私のすぐ耳元ではっきりと告げた。
「誰に言われるまでもない」
おぉっ。なんだかちょっぴりドキリとしたよ。
あ、あれかな、顔が見えないからよけいにどんな顔して言ったのかっていう…緊張のドキドキ?
これで、やさぐれた表情で言ってたとしたら、ちょっとショックだからなぁ。
「我が君、閉じますよ?」
オリビアはおそらく開いた本を持って待機しているのだろう。その声に背後の魔法の気配がふわりと動いたのがわかった。
『では、今は戻ることにしよう。鍵は我が魂であるが、邪な考えのもとに我等に近づくならば、その命、無きものとせよ』
誰に言ったかはわからないが、部屋の中で数人の気配がびくりと震えたのが感じられた。
ルドの父はともかく、やはり邪な心を持った者がいるのか、それとも、ただリュークの気配に脅えたものなのかははっきりしないが、この気配はオリビアも感じ取ったはずなので、今後警戒する人物としてリストアップせねばなるまい。
私の背後でパタンと本が閉じる軽い音が響くと、シャルが大股で歩きだす。
突然の移動に驚き、バランスを崩さないようシャルにしがみ付いた。
「黒猫、子猫隊をまとめて後から追ってくるように。…ルーチェ」
「はい」
シャルが立ち止まったため、ようやく顔を上げることができた私は振り返り、ルーチェがドレスをつまんでお辞儀する姿を見る。
「オブライエン家のあらゆる力を使い、戒厳令を敷くように。いざとなればそなたの夫は」
「問答無用で監禁しておきますわ」
凶悪なにっこり笑顔にオリビアがクラリと貧血を起こしそうになりながらも何とか踏ん張り、大股で歩くシャルの後をついてくる。
「急いで神殿に戻る。理由は…ルゼ、オリビア、反魔法勢力を知っているな?」
外にいる子猫隊や、いまだに呆然としている神殿の少女達を威圧しながらシャルは先へと進み、私達に話しかける。
反魔法勢力は私が王になる前から少しずつ少しずつ増えていくのを見てきた。知らないはずはない。
「世界の浄化のために魔法を根絶させるのだというのが彼等の言い分でしたが、どのような大義を掲げても、やっていることは、魔法が使える者の無差別殺人でしたよ」
オリビアが私達の時代の反魔法勢力の事を口にすれば、シャルはオブライエン家の離れの出口を抜け、扉を閉めたところで再び足を止めた。
「今の反魔法勢力は、そこに幻の帝国を称賛する者、研究をする者、彼等の遺産とも呼べる物を持つ者やそれらを根絶することに力を入れている」
「・・・・それは帝国に限り?」
「帝国に限る」
私の質問にシャルは頷く。
「では、現在の反魔法勢力の敵はリューク。つまり、今ここでばれてしまった私達ということになるのね」
だからシャルは神殿に急いで帰るつもりなのだ。
「またもや戦いですかね」
オリビアはふぅと小さくため息をつくと、リュークの宿る宝物庫の目録を私に差し出した。
「とりあえず、どこに耳があるかわかりませんので、敵が集まったり、襲われる前に神殿に戻りましょう」
善は急げと、一路神殿を目指し、私達は馬を駆るのであった。
それにしても…、
今すぐと言うのは用心でしかないが、これで私達は反魔法勢力に、いずれは目を付けられることになるのだけれど…。
シャルに食べられるのと、反魔法勢力と戦うの、どちらの方が生存率が高いんだろうか?
なんにせよ、14歳までに神殿から抜け出すのはできなくなりそうだなぁ・・。
と、暢気なことを考える私であった。




