第44話 宝物庫の管理人
にこにこと微笑むリュークに、私とオリビアは戦々恐々としている。
ナゼだかわからないが、彼に口を開かれるとまずいことがあるような、無いような、そんな気分がして二人身を寄せ合い、じっとリュークを見つめた。
『・・・そんなに脅えなくてもいいだろうに』
やれやれとため息を吐きつつ、ふんわりと宙に浮かんだ彼は、そのまま足を組んで書物の山の上へと腰かけた。
幻だから何の害も無いとはいえ、見た目的には教育に悪いぞリューク。
『さて、見た所、竜と、騎士と、魔女らしきメイドと、ぼろ雑巾二つと一般人、という所か…。襲われているならば助けてやるが、どちらだ?』
私とオリビアに視線を向け、首を傾げるリューク。
私達は小さな部屋に集まった騎士と少女達、いつの間にか戻ってきたメイドの黒猫さん、その両手に引きずられたズタボロのルドヴィークとナハルジーク、それにルドの母ルーチェと、彼女に引きずられているちょび髭の男を確認した。
「誤解はありますが、味方です」
オリビアが答えると、リュークは『そうか』と呟いて頷く。その瞬間、呆然と立ち尽くしていた騎士達がびくっと体を動かしたので、どうやらリュークの幻が彼等の動きを縫い止めていたのだと知った。
あ、魔法の気配とか全く探ってなかったよ。平和ボケかな。
「そなたは何者だ?」
シャルは騎士達が解放されたのを見て体の力を抜くと、リュークをまっすぐ見据えて尋ねる。
その姿をリュークはじっと見定めるかのように見つめていたが、すぐにふっと柔らかく笑みを浮かべた後、ちらりと私の姿を確認した。
『転生すると細かな記憶が抜け落ちる事がよくあるのだが、さすがにもう思い出しているだろう。そこに立つもう一人の俺に聞くがいい』
「もう一人の俺?」
うわぁぁぁぁ、余計なお鉢が回ってきたよ。
内心だらだらと汗を流しながら、シャルと見つめあい、えへ、と笑顔を浮かべてみる。
『今世の俺はなかなかに可愛いではないかっ…胸は無いのか…?』
「喜ぶなっ! そして胸は余計じゃ! まだ成長期!」
思わず反論してしまったよ…。しかも自虐ネタだね、これは。
一部、現実逃避とも言うか…。
じぃっとシャルに見つめ続けられ、私はしばらく目を逸らして無言を貫いたが、全員の視線を浴びて耐え切れなくなり、降参の意味もかねて片手を上げ、先程のシャルの質問の答えを口にした。
「そこにいるのはリューク・イル・ゼルディアが写しをとった彼の記憶であり、魔法。その実態は…」
「『宝物庫の管理人』だよ」
私とリュークが同じ答えを告げ、リュークはにやりと笑みを浮かべる。
正体を明かしたところで、私は、はて? と首を傾げた。
そう言えば、彼は確かに私が残した宝物庫の管理人だが、ここは宝物庫でもなければゼルディアでもない。そもそも、ゼルディア自体が滅んでいる。
だが、宝物庫は確か…。
「宝物庫! ゼルディアの宝物庫!?」
私の思考はその声に打ち破られ、視線を動かせば、宝物庫と聞いて目を輝かせているのはちょび髭の男性だ。
金糸の髪に緑の瞳の、ちょっとだけリュークに似た顔立ちをした男性だが、どこか軟弱そうな…げふんげふん、失礼、どこか草食系な男性で、今も『宝物庫』に喰い付いた後、ルドの母ルーチェに棍棒でふっとばされていた。
隣で、オリビアがうちひしがれている。
そのうちオリビアの記憶の中のルーチェが、ルドの母と同じモノになりやしないかと不安になってしまうよ。
私達が怖々とルーチェを見れば、リュークがそちらに目を向けた。
『ん? おぉ? ルーチェじゃないか』
リュークが声をかけると、ルドの母ルーチェはぽっと頬を染めて、手に持っていた棍棒をすぐさま離し、身をくねらせた。
「は、はい。ルーチェですわ。リューク様に知っていてもらえるなんて光栄です」
まず聞きたい。その棍棒どこから出した?
私は棍棒を見つめた後、飛ばされた男を見やった。
とりあえず生きてる…と思う…。
リュークはくねくねと動くルーチェを見つめて首を傾げた。
『ちょっと違うか?』
「ちょっとじゃないと思うけど…」
オリビアが哀れに思えてきて突っ込むと、リュークは少々考え込んだ。
アレ? 私の記憶、ひょっとして改竄されてるとか? 実はルーチェはあんな性格だったとか?
彼が『そうだな』と呟くまで、ちょっとドキドキしてしまったよ。
「ルーチェ、下がっていてくれないか。話がややこしくなる」
額に手をやり、ため息をついたシャルが、目をキラキラさせて乙女ビームを出しているルーチェを下がらせ、リュークの前に立った。すると、リュークが面白いとばかりにシャルを見つめる。
確か、宝物庫の目録を作った時にこの写しも作ったはずだけど、あの頃は丁度戦乱の世の終わりが見えてきた頃で、初対面の人間に挑発的だった気がする。
その名残か、リュークは偉そうにふんぞり返っている。
我ながら失礼な男だなぁ…。
『何が知りたい? と言っても俺にわかるのは、そこにいるもう一人の俺が拭きこんだ役目についてだけだがな』
リュークが私を指さすと、シャルはむっと眉を寄せて厳しい表情を浮かべながら、ちらりと私を見た後にもう一度リュークを見た。
シャルのその表情は硬く、あまり見ない表情だ。
「ルゼとオリビアはあなたに関係あるのか。リューク・イル・ゼルディア」
おや? という表情を浮かべたリュークだったが、次の瞬間にはその表情が王としてのものに変わり、オリビアがそれに反応してすっと胸の前に腕を置いて敬礼し、周りの騎士達がびくりとして硬直した。
リュークはしばらくシャルと睨み合っていたが、ふっとその表情を緩めると、私達を指さして告げた。
『我は生まれ変わったその魂を鍵として顕現した。ゆえに、そこの娘は我が魂の持ち主であり、我である。あ~、そこの横のはアレだな、アンセルだ』
「その取って付けたような説明はどういうことですか我が君!?」
リュークの説明にオリビアがむっと声を上げ、なぜか私を見るのだった。
えぇぇ~? 今の、私が悪いのか?




