第42話 トラウマとお仕置き
「一体お前達は何を始めたんだ!」
子猫隊のルゼ達に対する理不尽な態度に怒りを募らせ、ルドヴィークを睨めば、彼はしゅんと項垂れた。
「反省は後にしろ。で、何がどうしてあの二人に剣を突き付けることになった?」
厳しく問いただす。
先程から、我の項の辺りがピリピリとしている。ルゼに何かあった…という反応ではなく、これは魔力の強い者が傍にいるという反応だ。
怒りで漏れ出る魔力に、我の体が反応しているのだろう。
ルゼ・・・ではない。だとすると、もっと問題のある人物である。
ルドとナハルジークのこの先が見えた気がするが、まぁ、今は黙っておく。
「剣を突き付けたのはあの二人だけです。あの二人には魔法も剣の腕もありますので、いざという時の為に初めから抜刀いたしました」
ナハルが答えるが、それは理由にはならん!
取って付けたような理由でもある。ぎろりと睨めば、ルドが小さく呟くようにして話し始めた。
「ランセルに任せて、神殿にいる女性の素性を全て洗っておいたんだ」
女性達の素性についてはこちらですでに洗い出している。
他国では、誰かを竜の巫女とした場合、その女性と、周りの人間の素性を全て調べ上げるのはその国の高官達の仕事である。だが、この国は少々荒れているため、我の指示の元それらを行った。
なので、今更? というのが我が本音だ。
「全員それなりに癖があるのはわかったけど、あの二人は明らかにおかしすぎるんだよ」
おかしすぎる…というのは、おそらくルゼの魔法についてを言っているのだろう。
こちらでも徹底的に調べたが、ルゼの周りには魔法を教えられる者は一人もおらず、かといってルゼが孤児院を出た時期があるかと言えばそれも無かった。
ではあの魔法はどこから来たのか? ルドもそれを不審に思ったのであろう。
「ルゼの魔法は独学で生み出すにしては大きすぎるよね。と言っても、そんな大きな魔法を使ったのは一度きりだったけど…」
6歳の時の月食の事を調べたのだな…。
「オリビアは12歳までずっと旅をしていた。冒険者登録もしてあったから間違いない。ルゼとの接点がどこにもないんだ。なのに、再会の言葉を口にしたって言ってたよね? ひょっとしたら、とある組織があの魔法を合図にして落ち合うようにしたとか、そう言う可能性だってあるんだよ」
「…再会の言葉と言っても、子供達がやるリュークごっこだ。お前達もしょっちゅうやっていたろう? 暗号でもなんでもなかったし、6年共にいたが、怪し動きは無かった」
オリビアとの接点だが、冒険者の中には見知らぬ街の見知らぬ誰かと文通をする者もいる。
冒険者協会で推奨している文通システムで、表向き国や人との交流を図るために、裏では大人達が国同士の内情を探るために、かなりの人数が見知らぬ人々と文通している。
ルゼとオリビアの接点もそこかもしれない。
文通についての確認はとれなかったが、黒猫は「大丈夫です」と太鼓判を押していた。
あれはああ見えて情報収集はかなりのものだからな。信用に値する。
たまにおかしな情報をどこからか掴んで来るのがタマにキズだが…。
「それから、二人はリュークとアンセルについて詳し過ぎる」
あぁ、なるほど。一番警戒したのはそこか。
「確かにあの小箱を開いたのは驚いたが、偶然ということもあるぞ」
「いえ、あの二人はリュークとアンセルの事を知っております」
ナハルが答え、我はため息をついた。
「だからか?」
二人を睨みつければ、ルドはびくりと震え、ナハルはぐっと腰の剣の柄を強く掴んだ。
6年外に出したが、いまだトラウマか…。
我はもう一度溜息をつくと、二人を従えて歩き出す。
「6年前、お前達はリュークとアンセルに似すぎているという理由で殺されかけて瀕死の重傷を負った。反魔法勢力に憧れた馬鹿な高官の仕業だったわけだが、ルゼ達がその反魔法勢力関係の人間だと? 魔法を使うのに?」
「魔法を使う反魔法勢力もおります。それに、あの二人は幼さを感じません。不自然です」
「シャルにも近過ぎて危険だと思ったんだ」
まだまだこの二人は子供だったらしい。
6年前に王都から放り出したが、放り出した場所にいたのは優秀な保護者だったからな、育つべき見極めの能力が、あまり成長しなかったのかもしれない。
なんにせよ…。
「まずは本人に確認すべきだったな」
子猫隊の騎士達が警戒する方向へ進み、魔法未処理の書物部屋の前へ辿り着くと、扉の前には無表情で立つメイドの黒猫の姿があった。
「黒猫ちゃん?」
ルドは首を傾げ、我はびりびりと感じる魔力に苦笑いを浮かべた。
「許可する。我が番に手を出したのだ。それ相応のお仕置きをして構わんぞ」
「許可が無ければ屋敷ごと爆破するまでです」
黒猫はうっすらと微笑を浮かべると、「ひっ」と息を飲んだルドとナハルを一瞬で昏倒させ、首根っこを掴み、ずるずると引きずって行った。
「裏庭なら空き地になっている」
念のために忠告すれば、黒猫は二人を連れて消え去る前ににこりと微笑んだ。
「確認済みです。この屋敷の旦那様が埋められておりましたので。では、失礼します」
黒猫の姿が消え、子猫隊の男達がごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「ふむ…。ルドの父は裏に埋められていたのか。道理で姿がないと…。まぁ、いい。ランセル」
「はいぃぃ!」
バタバタと金糸の髪に青い瞳の青年が駆け寄ってくる。
「手伝え」
「…何を?」
尋ねるランセルに、我は部屋の扉を開けてその惨状を見せた。
「たぁぁぁ~すけてぇぇぇぇ~」
もうもうと舞い上がる埃、崩れた書物、その下の方から響くルゼのくぐもった声に、我もランセルも顔を引きつらせるのであった。
こちらは何がどうしてこうなったのだ…。
ランセル「あの二人…大丈夫ですか?」
シャル 「反魔法勢力に対するトラウマは黒猫に対するトラウマにとってかわるだろうよ」
ランセル「それはいいのですか?!」
シャル 「いいんじゃないか? トラウマが克服できるのだからな」
ランセル「それは克服とは言わない気が…」
二人は裏庭でお仕置きです。




