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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
巫女編
41/97

第41話 危険な人

「シャルはお下がりください」


 ナハルジークは剣を引き抜き、正面から私に向き合う。


 リュークとしてばれたのかと思ったのだけど、どうも様子が違う。

 剣を向けられたということは、ひょっとして何か疑われているのかもしれないなぁ。


 暢気にそんなことを考えながら、ちらりとシャルを見やれば、彼は再び溜息をついた。


「ナハル、やめないか」


 どうやらシャルはナハルとは違う意見のようで、剣を構えたナハルを止めようと手を伸ばした。だが、彼の手がナハルの肩に触れるよりも前に、廊下が騒がしくなってきた。

 オリビアを引き留める声と、剣の音が響いてくる。


「やはりスパイか!」


 スパイ容疑の方ですか!

 

 ナハルが横薙ぎした剣を後方に跳んで避けると、足元にはなぜか一枚の紙がひらりと滑り落ちてきて…。


「うげ!」


 着地と同時にそれを踏みつけ、さらに滑って前方に勢いよく倒れた!

 

 べしん!


 が…顔面から行ったよ…。

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」


 久しぶりのこの痛み! 神殿の外ではよく歩いたり走ったりしていたから何度も経験したけれど、神殿に入ってからは走るのは厳禁、歩いてこけてもオリビアが救ってくれたから、しばらくこの痛みとは無縁だったのに!


「ルゼ、無事か?」


 シャルが歩み寄ろうとするのをナハルが片手で制し、シャルが眉を吊り上げたその時!


「我が君! お迎えに…」


 廊下で大騒ぎしていたオリビアが現れた。

 なぜか腰に差している剣ではなく、騎士達に支給される剣をぶんどった様子で、それを片手に部屋に飛び込み、倒れた私を見て一瞬固まった。


「…死んでないよ…」


 ムクリと起き上がった私は、高価そうな絨毯にパタパタと血をこぼし、それを見たオリビアがほっと息を吐いて駆け寄り、私を小脇に、オリビアとは前後ろ逆に抱えた。

 

「ピンチですね」


 そう告げるオリビアの声が弾んでいる。

 

 やる気満々か? 

 思わず遠い目になると、お尻の方でギィィン! と剣のぶつかり合う音が響く。

 

「ぎゃああ! お尻斬らないでよ!」

「私が斬らせるはずないじゃないですか」

「そう言って昔、斬らせませんが、武器になってくださいとか言って投げただろう!」

「そんな昔の話…」


 忘れもしない、あれはとある国の城塞攻め…、投擲(とうてき)の武器が無くなりました、と告げたアンセルは、こともあろうに、リュークを縛り上げ、騎士達と共に敵に向かって投げたのだ!

 『敵陣で魔法をぶっ放してくださいね』と、爽やかに微笑んだ悪魔を私は忘れてはいないぞ!


 彼…いや、彼女は、戦いの場において楽しくなってくると、少々大胆になり、周りが大迷惑になることをしでかすのである。

 その特性は今世でも継がれている…間違いなく。

 

 それはともかく、何合か剣を打ち合った後、オリビアはナハル達に背を向け、駆け出した。

 見れば、シャルがナハルを止めていた。

 

 彼は私達を信用してくれているようだ。

 あ、違うか、今死なれたら約束を破ることになるから、今は止めてくれてるのかな?


「がっふっ、ごっふっ、げっふぅっ!」


 オリビアが再び廊下に出ることで、子猫隊が飛び掛かってきたのか、それを避ける動きが激しく、私の腹は否応無く衝撃を受け、圧迫される。

 ついでに鼻血も遠慮なく押し出されるので、ただ今顔が悲惨なことになっている。

 手で顔を拭こうにも、そんなことをしようものなら激しい動きに翻弄されて自らの顔を走りと叩きかねないのであきらめた(すでに2・3度やった)。


 オリビアは廊下を駆け抜け、ぐんっと姿勢を低くすると、思い切り跳躍した。

 何がどうなってるのかと下を見れば、空中で体を捻るオリビアの眼下には、驚きの表情を浮かべるルドヴィークと仲間達の姿が…。


「あ、口開けると鼻血が入るよ~!」


 一応忠告。


「あはははは! 楽しいですね、我が君」

「ノリノリですな、我が騎士」


 騎士達の包囲網を抜け、オリビアはそのまま屋敷を出るかと思いきや、出口と反対の方向へと駆けだした。

 あ、この方向はおそらく例の魔法解除がされていない書物のある部屋。


 オリビアは何か考えがあって向かっているかと言えば、実はそうではない。

 

 バン! と扉を開き、中に入ったオリビアは、そのまま勢いよく積み上げられていたらしい書物に突っ込んだらしく、「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。

 ついで、お尻に当たる硬い衝撃。


「青痣になるー!」


 私が叫ぶと同時に、私達は魔法未処理書物の山に押し潰されるのだった。


 実はオリビア、興奮すると方向音痴になるという奇癖の持ち主なんだよね。

 だから、本人はきっとここを出口だと思い、勢いよく突っ込んだのだろう。


 それはともかく…、


「誰か、たぁ~すけてぇぇぇ~」


 本に埋もれた私の声は、埃舞い散る部屋の中で、くぐもって響くのであった。



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