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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
巫女編
40/97

第40話 わくわくします

オリビア目線です。

「ナハルがね、面白いことを言うんだよ」


 籠手、頭蓋骨、パンツに靴紐と、誰の物かもわからないようなものを次々と手にしてはこれこそアンセルの物だ、リュークの物だと告げるルドヴィークに、いい加減私も疲れてまいりました。

 ため息交じりに「ハイハイ」と適当に頷いていると、少々特殊なナイフを手に取り、それをじっくりと見つめながらルドが突然話題を変えたことに、私は少々首を傾げる。


「はぁ」

「僕達がリュークとアンセルの子孫だと始めから信じて疑わなかったのは君達が初めてだって」


 暖炉の上の小さな小箱に手を伸ばしかけていた私の手は、そのほんの少し手前でピクリと一瞬止まったが、すぐにその箱を手にする。


「おかしいよね。君達はあの絵も見たことなかったみたいなのに」

「そのようなことを言った覚えはありませんが?」


 にこりと微笑んでみせると、ルドもにっこりとまだ幼さを残した笑みを浮かべるが、瞳の動き、足の動き、それら全てが獲物を仕留めるように隙を探している。


「子孫以外の人も僕らの事を知っているのか? て、ルゼがあのペンダントを見る前に聞いたんだよ。忘れた?」


 さすがは我が主。色々と面倒が起きると言いながら、自ら暴露する詰めの甘さはいまだに変わっていないようです。

 

「魔法の技術や知識といい、リューク達に関する知識と言い、君達は規格外だよね…」


 ふっと風が動き、私がゆっくりと瞬きした瞬間にルドは私の目の前まで詰め寄り、先程まで手元で遊ばせていたナイフを私の首筋に付きつけた。

 

 ここは演技でも焦るべきでしょうね。


「何のことを言っているのかわかりません」

 

 じりじりと下がりながら告げると、微笑んでいたルドの表情が、一気に冷めた無表情に変わる。

 我が君に似ているだけあって、懐かしいとも言える表情ですが…我が陛下の迫力はそんなモノではありませんでしたよ少年。


「男…ではないよね」


 ぐっと胸を掴まれ、私は不快感に顔をしかめる。


 胸がある事忘れていました。ここは恥じらうべきかもしれませんが、私が彼の立場でも同じことをしたでしょうから、まぁ、許容範囲ですね。

 あ、もちろん現在は本物の女性ですのでもげませんよ。


「女スパイってことかな?」

「その話しぶりですと、この国はスパイも暗殺者も多いと?」


 無表情を装ってはいるけれど、ルドの眉が一瞬ピクリとはねた。


 なるほど。猫を護るために高官に盾突いた…という話が本当だとしても、竜王陛下が、人間の王として担ぎ上げたい彼を、6年も地方へ飛ばしたまま戻さなかったのは、暗殺者から彼を守るためでもあったかもしれませんね。

 

 6年もあれば10歳の少年もそこそこの剣の使い手になると…。


「君達も同じだろう? シャルの気を引いたのはすごいけど、竜は人間の事には基本無頓着。スパイだって気に入れば懐に入れてしまうからね。だから、僕達が見定めて処理しないとね」

 

 魔法は極力使わない。その知識もできるだけ生活に活用できるものだけを教える。

 我が君が巫女となった頃そう言っていたのだけれど、こういうことですか…。


「あぁ、そう言えば我が君が言っていましたね」

「我が君…兎ちゃんかな?」


 私は口元に笑みが浮かぶのを止められず、ルドに向けてそれはそれは不敵と取れる笑みを浮かべただろうと思いますが、お許しくださいね、我が君。


「疑われるようなことが起きれば、この国の腐敗は進んでいるのだとあの方はおっしゃっておりましたよ」

「それは…不穏な発言だね!」


 ルドが付きつけていたナイフを持ちかえ、こちらを昏倒させようと体を動かした瞬間、私は手にした暖炉の上にあった小箱を右の掌に乗せ、左手で指をスナップさせた。


 パンッ!


 小気味いい音と共に箱が開き、ルドの目の前で紙ふぶきとそれほど強いものではないが、一瞬視界が白くなるような光が溢れる。

 宴会用の小道具として流行った小さな魔法の小箱の発動に、驚きに一瞬動きが止まった彼の横をするりと抜けると、私は苦笑しつつ呟いた。


「まだまだですよ」

「くそっ」


 あとは主の元へ一直線である。

 彼を倒すのは簡単です。経験が違いますからね。

 しかし、今はアンセルではなくオリビアという少女。速さは昔より上がりましたが、力では押し負ける危険もあります。油断は禁物。


 とにかく、ここは主の身の安全を確保して、指示を仰ぎましょうか。

 

 それにしても…


 主の元へ急ぐ途中、騎士達の妨害を受け、それを素早く躱して廊下を駆け抜けながら私は不謹慎にも笑みが浮かぶのを止めることができませんでした。


「ワクワクしますね」


 楽しくなってまいりましたね、我が君。

 


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