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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
孤児院編
4/97

第4話 ミイラは殺意を覚えたっ

 私達孤児院の子供達は、皆で話し合い、


 皆様にご迷惑はかけません

 自分でできることを探します

 身の丈にあったことをします

 協力は惜しみません 

 盗みはいたしません


 この五箇条を徹底して守るようにしている。

 そのせいか、我が孤児院の子供は、比較的町の皆さんの印象が良いようである。

 

 他の孤児院? 

 そうだなぁ、中には小説の様に飢えた子供達が盗みをしたり、横暴な院長が虐待したりと、そんなこともあったりする。その点、私達の住むが孤児院は恵まれている方だ。努力の賜物と言ってもいい。

 他の孤児を助けないのか? という意見には、今はまだ無理と言っておこう。


 それはともかく、そう言った理由で、私を始め我が孤児院の子供達は、ちいさなお手伝いをしてお駄賃をもらおうと東奔西走。ちっさな子供から年長さんまで、本当ならば10歳以上の子供しか働いてはいけないという院の言いつけを破り、マザーの隙を見て仕事に出かけているのだ。


 大抵は、子供達が自由に遊べる時間に皆仕事に出ることにしていた。

 そして、今日も私達はお小遣い稼ぎに何か仕事はないかと街へ繰り出すのである。



 

「肉屋の爺さんの所はこの間行ったしなぁ」

 

 少し軽薄そうな印象の少年が頭の後ろで腕を組みながら呟く。

 ガラガラガラガラ…


「今日は南地区まで行ってみる?」


 栗毛の少年はう~んと唸りながら尋ねる。

 ガラガラガラガラ…


「あ、兵士のおじちゃんだ」


 ふいに、小さな少女がそう言って前方を指さした。


 ガラガラガラガラ…と音を立て、石畳の道を進むのは世に言う台車だ。家電売り場なんかでよく貸してもらえるあの重い荷物を運ぶ車輪の付いた台である。

 そこに、木綿の白いワンピース(コレを着てるとよくオバケと間違われる)を纏った私が乗り、道行く人をぎょっとさせながら、孤児仲間である2つ年上の、栗毛に緑の瞳の少年エヴァンに運ばれている。

 ちなみにこれが私のいつもの移動手段だ。


 そして、私達の視界に入ってきたのは我等孤児の憧れの人。

 なんと! 孤児から兵士になった孤児院期待の星、現在26歳の青年、優男風ながらやるときはやる…はず? のブリオッシュさんだ。


「ぶーりーさーん」


 魚のぶりを思い出しながら私が手を振ると、なぜか地面に這いつくばっていたブリオッシュが体を起こし、私達を視界にとらえて一瞬ぎょっと目を丸くした。


「あ…あぁ、ルゼかぁ、一瞬ミイラが乗ってるのかと思ったよ」


「誰がミイラかっ」


 即座に反論しておく。

 せめてオバケにしておいてほしいわっ。


「何してるのさ、ブリさん」


 軽薄そうな印象の少年。髪と瞳はヴァイマール国に多い金髪碧眼の孤児院仲間、2つ年上のシニヨンが頭の後ろで組んでいた腕を解いて今度は胸の前で組み、首を傾げた。

 

 彼は髪を伸ばしていることもあり、時々少女のように見える。

 声変わりもしておらず、子供で線も細いため、時々大人が彼を少女と間違えるが、彼はそれをうまく利用していたりする。

 事実、首を傾げるその姿は私よりうんと可愛らしい…。


「おぉ、ちょっと探し物をしてるんだ」


 ブリオッシュは応えると、チラチラと辺りに目を配った。


「探し物ー?」


 こてっと首を傾げたのは私と同じ6歳の少女。ちょっとだけくせっ毛な赤茶色の髪に、つり目がちな青い目の勝気そうな顔立ちの彼女はサーシャだ。

 

「それが、ウィンダム子爵令嬢が馬車から耳飾りを落とされたらしくて」


 ウィンダム子爵令嬢というと、ブリオッシュに一目惚れしたちょっとふくよかで可愛らしい貴族の娘さんだ。

 その彼女が耳飾りを落とした…。うん、話しかける口実だね。


 私がちらりと視線をシニヨンに向けると、彼は組んだ腕を解いて肩を竦める仕草をした。やはり話しかける口実だと思ったのだろう。彼は色恋沙汰に詳しい。…8歳だけど。


「落とすにしたって、こんな裏町を子爵令嬢の馬車が通ったりしないだろ?」


 色恋沙汰については全く気が付いていないエヴァンは、実に当り前のことを告げ、ブリオッシュは首を傾げた。


「そうだよなぁ…。でも、この辺に落としたって言うんだよ」


 令嬢…ブリさんに話したくて、でもいざ話しかけたら焦りすぎて変なこと言ったんだろうなぁ。

 そして、話を聞くブリさんもああですか、こうですかと話を聞きながら、貴族が通らない道を口にして…子爵令嬢が「そこですっ」と思わず言っている場面がなぜか想像できる。

 何だろう、これは初々しいと言うべきだろうか。普通の会話しろよ、と突っ込むべきだろうか。

 

 とりあえず、こんな貴族が通らない場所を探しても時間の無駄である。


「ひょっとしたら通りを言い間違えたかもしれないし、もう一度聞きに行きましょうっ!」


 それがいいとばかりに、私はきっと焦って嘘をついてしまった子爵令嬢の為、軌道修正をかけるべく気負って立ち上がり、その瞬間いつものように立ちくらみを起こし、さらに、エヴァンが台車から手を離していたという不幸が重なって…台車がガラッと後ろに動いた…。


「あ…」


 ズガンッ!


 皆が声を出した時には、私は石畳にものすごい勢いで顔面ダイブしていた。

 

「うぐぉぉぉぉぉっ」


 思わず鼻を押さえて呻くと、やはりと言うか、当然というか、鼻を押さえた手の隙間から、鼻血がボタボタと零れ落ちた。

 いまなら「なんじゃこりゃああっ」と叫んでコントができそうだが、痛みでのた打ち回るのに必死だ。


「女の子の呻き声じゃないよね」

「いきなり立ったら倒れるのはいつもの事だろ」

「あら~。今日も派手ね~」


 シニヨン、エヴァン、サーシャが言いたいことを言ってくれる。

 サーシャなんて近所のおばちゃんの真似だ。

 子供は真似するんだから気をつけてよ、近所のおばちゃんっっ。


「ルゼ、大丈夫か?」


 さすがは大人。ブリオッシュは慌てて私の肩に手を置き、起きあがるのを優しく手伝ってくれて…。


「うわ、コワッ」


 血だらけの私の顔を見るなり、一歩引いた。


 前言撤回。

 沈めるぞ、小僧。

 

 思わずギラリと目を輝かせてしまったのは仕方がない。

 仕方がないでしょう!


 とりあえず、鼻血を押さえつつ、私達はウィンダム子爵令嬢が待っているという城門詰所へと向かうことにした。

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