第38話 銀色の…
「許可が出ましたよ」
それは騎士を加えた地獄のダンスレッスンももう5回目になろうかという日の朝、突然メイドの黒猫さんに告げられ、魔法の勉強をしていた私達はぴたりと手を止めて顔を上げた。
「あ…」
私が小さく声を上げると、ぼふんっと音が響いて、ぽっちゃりさんなメディーナとロアンナ、それとその二人に付きそって…というより、付きまとっていたルドヴィークの顔が、煤のようなモノでまっ黒になった。
魔法が失敗したようである。
「いかなる時も集中、が魔法の基礎でしてよ」
カレンが胸を張って告げるが、それは魔法の講師である私が言ったセリフだ。
それに、カレンもほんの少し失敗して指先がまっ黒になっている。
「うぅ、ひどい…」
ルド達三人が顔を拭いている間に、私はそれぞれの机の上で蠢く怪しげな魔法を、片手を薙ぐように動かして消し去った。
今日はそれぞれの身を護るための魔法石作りに挑戦したのだが、あまりうまくはいかなかったようだ。
メディーナとロアンナの机には黒炭が出来上がっているしね…。
それはともかく、と黒猫さんを見れば、にっこり微笑む黒猫さんの後ろからシャルが顔を出した。
「あ、おはようシャル」
「おはよう。体の調子はどうだ?」
「今日は平気。最近シャルは姿を見せなかったけれど忙しかったの?」
私が尋ねれば、シャルはなぜかちらりと黒猫さんを見つめ、しかし、すぐに目を逸らして溜息を吐いた。
「少々もぎ取られそうになっていてな」
「もぎ取る?」
首を傾げれば、黒猫さんが柔らかな微笑を浮かべる。
「はい。竜のオスと引き換えに、渋る陛下から外出の許可を頂きました」
竜のオスと引き換え? 黒猫さんが竜のオスでも捕まえてきたのだろうか?
悪さをする竜を捕まえる代わりに外出をさせてほしいとか、そんな頼みごとを? だとしたら黒猫さんの実力はアマゾネス並だ。
「あ、わかった。我が屋敷に皆を招待しても良いということだねシャル」
顔をふきふきルドが確認する。
彼の顔は拭けば拭くほどに黒い光沢を増している気がするのだが、あれは大丈夫だろうか?
ひょっとして爆発時に変な魔法がかかったのではないだろうかと思うが、誰も彼の顔について指摘しないので黙っておくことにする。
シャルはルドの問いかけに渋々頷き、私の頭を撫でた。
「交換条件で我も着いて行くがな」
「うげっ」
シャルの着いて行く宣言になぜかルドが呻き、私達は首を傾げたのだった。
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リュークのコレクターでルドヴィークの実家…というと、何故か変人が住む様な草だらけであるとか、幽霊屋敷のようなボロボロの屋敷だとか、はたまた門前でレーザーに撃たれるような屋敷かと予想していたのだけれど…。
全く何の変哲もない大きくて綺麗なお屋敷でした。
どころか、家も庭も可愛らしい。
淡いクリーム色の壁の可愛らしいお屋敷の前庭は、薔薇や小さな白い花が咲き乱れる美しい庭が広がっていたのだが、その間を馬車が進み、屋敷の扉の少し手前で停まった。
馬車から降り、花の匂いに庭を眺めていると、何かおかしな感じがして首を捻る。
「ん?」
既視感だろうか?
庭を見つめていると、オリビアも何か感じたのか立ち止まり、「なるほど」と小さく呟いた。
「王女の庭ですね」
王女の庭・・・。
「よくわかったな」
なぜか私を撫でながらシャルがオリビアを褒める。
私は、庭を見回しながら王女の庭とはなんであったかと考え込み、ふとよぎった銀色の髪の女性にはっとした。
「「おちびさん」」
私とオリビアの声が重なり、風が舞い上がって強く吹き抜けた。
庭の花の中から、白いドレスに身を包んだ銀の髪の少女が立ち上がる。
後にアンセルの妻となった敵国の、廃嫡の王女。
廃嫡されてもなお民を思い、国のために敵国の王であるリュークの元へ助けを乞いに来た優しい娘。
『お義兄様…』
涼やかな声に柔らかな微笑…。
が…
「やっと来たわねシャルー!」
あれ?
過去の記憶と今の世界がごっちゃになっていたが、銀色の髪の少女が花々をかき分け、髪を振り乱し、勢いよくシャルに向かって飛んだ!
しかも、かなり手前から・・・・。
シャルは銀の髪の少女を無情にもさっと避け、少女はべシャリと顔面から地面に落ちたのだった。
だ…ダレですか?




