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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
巫女編
37/97

第37話 コレクター

 小さなダンスホールには優雅にピアノ曲が流れる。

 引き手はなんと、まだ5歳のアリスだ。

 彼女は音楽が大好きで、ピアノとなると目の色を変えて飛んでくる。

 今も、カレンの言うことを聞かず、踊り手が間違えて止まろうとも、問答無用で突っ走り、エンドレスに弾き続けている。

 ちなみに曲は一応ワルツだ。(踊りの種類には合わせてくれる)


 踊り手は5人の少女と、子猫隊の5人の騎士。

 3人はすでにいたが、あとの2人は急いでランセルが呼びに行ってくれたらしい。

 


「ワン・ツー・スリー。ワン・ツー・スリー。あら、まぁまぁうまいですわね」

「枯れても騎士だからね」


 ルドヴィークの微笑みとセリフに、周りで必死に踊る者達は「枯れるなよ…」と突っ込みたくても突っ込めない。

 

 ランセルはともかく、オリビアのダンスはロボットダンスか? と言いたくなるほどカクカクし、時々戦闘時の技が炸裂してランセルが一回転しかけ、 少々体重が重すぎるティナは、すでに息切れを起こし、騎士の足を殺人的力で踏み抜いている。

 二人のぽっちゃりさん。メディーナとロアンナはその体重を利用し、まるで遊園地のコーヒーカップの最高速の様に、グルグルと猛スピードでダンスホールを回っている。


 かくいう私はと言えば…。


 カクーン

 カクーン


「ナハル…。兎ちゃん、それ…生きてるの?」


 青春の喜びと、回転と、疲労とがあいまって、ナハルジークの腕の中で白目を剥きながらくるくる回っていた。

 ナハルの腕に体を仰け反らせた状態で振り回されているので、先程から首がカクーン、カクーンと揺れ動いているのだ。

 

 もちろんすでに気絶しておりますとも…。


「気絶学習って効くかしら…」


 カレンが何やらおっそろしいことを言っていたが、私は知らない…。


 というわけで、私が操り人形のごとく踊っているのを見かねたルドがナハルを止め、ようやく私は椅子へと避難した。

 ここで1曲分過ごせば、ぱっちり目を覚ますのはいつものことである。




「3曲かぁ…」


 本日のダンスも間違えては何度も止まったけれど、それでも3曲踊れた。

 ナハルのダンスはリードすると言うよりも、振り回すという感じなので、時々足が床についていなかったが、踊れていたと思う。

 今のオリビアよりはましかな…。


「くっ…なぜ私にこんなことが必要なのだ…」

「ぬあ! オリビアさん! 手! 手が折れる!」


 馬鹿力め…。


 そんな様子でも、なんとかピアノの音が途切れるまで全員踊り切ったようだが、ルドと途中棄権したナハル以外の騎士は瀕死である。

 約2名、回転の気持ち悪さに必死に耐えているようだが、顔は真っ青だ。


 あ…ついにトイレに駆け込んでいった。

 


「お疲れ様アリス」


 カレンがピアノを弾き終わったアリスを労うと、アリスは小さく「ん」と呟いて頷き、椅子から降りた。

 その様子を見やった後、カレンは大きくため息を吐いた。


「まずは個人練習からする必要がありますわね」


 これだけ躍らせてから言いますか…。

 全員が恨みがましげにカレンを見たが、彼女は気付かずブツブツと呟き続けている。


「今日までの練習の成果が出ないのは、男性パートがまずいのかしら。オリビアの時は結構形になっていたのに」


「あ~、オリビアはすごい数こなしてきたもんねぇ」

「貴方ほどではありませんけどね」


 カレンが今後を考える横で、私達が呟く。

 こっそりそんなやり取りをする傍で、ティナがそろそろとルドに歩み寄って行くのが視界に入る。


「あ、あのっ」


 勇気を出して声をかけるその様子に、何事かと私がワクワクしながら身を乗り出すと、オリビアに「はしたないですよ」と(たしな)められるが、気になるのでじっと見つめてしまう。

 

「なぁに?」

 

 小首を傾げるルドに、ティナは耳まで真っ赤にしながらペンと紙を差し出して告げた。


「あのっ…サインください!」


 ナゼに?

 思わず目が点になりながら、私とオリビアがルドの方を見ていると、ルドはにっこりと微笑んであっさりと応じる。その様子は慣れているようだ。


「どういうこと?」


 首を傾げれば、様子を窺っていたナハルが静かに答える。


「我々が幻の国の王とその騎士によく似ているからですよ」

「ん? その言い方だと、子孫(・・)の二人の家系以外の人間もその姿を知ってるってこと?」


 ナハルは一瞬何かを考え込むように黙ったが、すぐに頷いてルドの元に歩み寄り、何かを手にして戻ってきた。

 彼がすっと差し出した掌の上には、ロケットペンダントが乗せられており、その蓋を開けた中を覗き込んだ私とオリビアは…。


「「ふおぉぉぉぉっっ!」」


 再び二人して悶えた。

 すみませんね、おバカ主従で…。

 

 しかし、そこには、在りし日のリュークと、アンセルが並んで立っていたのだ!

 これが興奮せずにいられようか!


「どうしてっ!? 国が滅んだから絵姿も、いや・・それよりも、千年近く経っているのに、こんなまだ新しい状態で残ってるなんて」


 ペンダントの中身は色褪せても、擦り切れてもいない。新品の状態だ。

 その答えは、サインし終わってご機嫌なルドから返ってきた。


「あ、それね、うちの…、オブライエンの一族が代々元の絵姿を正確に描かせて継いでるんだよ。で、大人向けの小説にはこの二人の絵が載せられてるんだ」


 なんと! 絵が語り継がれ…ではなく、描かれ継がれていたとは!

 

「オブライエンは遥か昔から有名なリュークコレクターだからね。彼の使ったとされる靴下とか、パンツとかも屋敷には残ってるんだよ」


 恐るべしオブライエン一族…。

 パンツとか靴下とか…所蔵してどうする気なのか、怖くて聞けないんだけど…。


「あ、そうそう。面白い物で、愛馬の糞とかもあるよ」


 もうそれ、騙されてる!

 某番組に出てきた方がいいよ! と思わず言いたくなってしまう。


 そんな風に私達が盛り上がる中、カレンはパンッと手を叩き、私達はダンスレッスンの途中だったと我に返った。

 カレンが怒っているかと思いきや、彼女は何やら目を輝かせ、そして宣言した。


「明日はオブライエン家に見学に参りましょう! ダンスにも社会見学が必要ですわ!」

「いやいや…ダンスとオブライエン家は結び付かないんだけど」


 私が告げれば、カレンにギラリと睨まれ、口を閉ざすことになった。

 うん、まぁ、分かったよ…。

 要するに、カレンも二人のファンだってことなのね…。


「黒猫さん」


 姿も形も無いけれど、ため息を吐きつつも声をかければ、何処からともなく黒髪のメイドさんが現れ、にこりと微笑まれた。


「陛下から許可をもぎ取ってまいります」


 そう言うと、一礼して再び消えた。

 

 ん? …言い回し…おかしくなかったですか?

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