第36話 シャル・ウィ・ダンス?
「ということで、神殿に騎士様がつくことになりました」
じゃーんという効果音をルドヴィークことルドが自ら口にして、ゆったりとお茶をする少女達の前に進み出た。
これはマナー的にマイナスなので、その後ろ頭を叩いておく。
「減点」
「兎ちゃん厳しいっっ」
「兎はやめぃっ」
涙目で後ろ頭をさすりながら、ルドはぶぅぶぅと文句を言っているが、誰も取り合わない。
皆スルースキルはバッチリのようである。
「騎士がついたのは丁度良かったですわ。問題が一つ解決しますものね」
つり目で勝気な令嬢カレンは、優雅な所作でティーカップをソーサーの上に置くと、ゆっくりと立ち上がろうとして、なぜか中腰状態でピタリと動きを止めた。
何事? と全員が見つめる中、カレンがキッとルドとナハルジークを睨む。
「騎士たるものが女性が立ち上がる瞬間に椅子も引けないなんてどういうことかしら!?」
「おぉ、なるほど」
私は思わず感心して手をぽんっと打つ。その姿にカレンが呆れたようなため息をついたが、何分こちらは千年以上の貴族ブランクがあるのだから許して欲しい。
慌てて椅子を引きに行こうとしたら、なぜかさらに睨まれた。
「女性がすることではなくってよ!」
そうでした。
私は今、女性でしたよ…。
リュークに似た姿を見たせいで、心までもリュークになりかけていたよ。危ない危ない。
「じゃあ引きまーす」
ルドがすっと椅子を引き、カレンがようやく満足そうに立ち上がった。
「さぁ、午後の時間でしてよ巫女様、それに皆様。騎士様方もみえることですし、これで万事つつがなく事が進められますわね」
どこか気合の入ったカレンの物言いに、少女達はこれと言った反応は示さず、新入りのティナが何が起こるのかとそわそわし、私は首を傾げ、オリビアは深くため息を吐いた。
午後の時間。万事つつがなく…ということは、今まで少々問題があった何かがこれから起きるということで…?
「あぁ!」
思い当って悲鳴のような叫びをあげると、踵を返す前に私の首根っこはカレンに捕まれ、その勢いで思い切り首が締まった。
「ごふっ」
一瞬意識が遠のくが、燃えるカレンは私の襟首を掴み、力なく項垂れる私をそのまま引きずりだす。
「さぁ、ダンスの時間ですわよ皆様! 今日からパートナーも得られましたもの! これでオリビアが男性パートを踊り続ける心配はなくなりましたわ! ほほほほほほっ」
カレンは高らかに笑い声を響かせると、私をそのまま片手で引きずりながら、ダンスホールへと皆を導くのであった。
ちなみに、ダンスの先生はこのカレンさんです。
そして本日も、恐ろしいダンスレッスンの始まり始まり~。
もっと後で帰って来ればよかった!
____________
ダンスが苦手か。
そう聞かれればいいえと答えられる。しかし、私には一つ問題があった。
いや、これは私だけでなくオリビアにもなのだが、私達は、ダンスは踊れる…。踊れるのだ。
た・だ・し!
男性パートのみ…。
男だったのだよ…。女性パートなんぞわかるかい!
といことで、音楽が流れると、ついつい踏んでしまうステップは男性パート。だが、オリビアは神殿に男性がいないことから、男性役として駆り出され、女性のステップを習うことを免除されていた。
しかし、今日からはそうはいかないのだ!
「私は貴族でもありませんので」
かつてはリュークの側近で貴族の中の貴族と言われた人の言うセリフじゃない!
そして目が逃げている! そうはさせんぞ。
「私は習う必要はありません」
「逃がしませんよ、オリビア。私の傍にいるからには完ぺきを求めますっ」
「完璧ほど面白いものはないとおっしゃっていたのはどこのどなたで?」
ああ言えばこう言う。
意地でもダンスを習わないつもりのオリビアの態度だったが、カレンはそんなオリビアの腕をがっしりと掴み、ついでに子猫隊の連絡係、私を迎えにきた金糸の髪に青い瞳の長身の騎士、ランセルの腕も掴む。
「「は?」」
目を丸くするランセルとオリビアに、カレンはにっこりと微笑みかけると、二人の手を重ね合わせて胸を張った。
「あなた方がパートナーよ。次! 巫女! あなたはそちらの方と組んで頂戴!」
様が抜けてるよカレン。だんだん化けの皮が騎士達にばれていくのだがいいのだろうか?
私は熱血カレン先生に唖然としながらも、指名された相手を見てぽふっと顔を赤くした。
「あら? あなたああいうのが好みなのかしら?」
余計なことは言わんでくださいカレン。
私の相手は、かつてのアンセルにそっくりのナハルジークに決まり、私は思わずもじもじしてしまった。
あぁ、かつての青春がここに!
ここはお姉さん、張り切ってしまいます。
さぁ! めくるめくダンスの世界へ!




