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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
巫女編
35/97

第35話 全ては猫の為に!

「この国の現状を知っているか?」


 この国の現状と言いますと…。


「政治を担うべき中枢の腐敗ですね。本来ならば竜王は勝手気ままにふるまい、人間達が政治をうまく取り仕切るのがいまの時代の政治の在り方だとお聞きしました」


 私が答えるより先にオリビアが答える。

 まぁ、私の意見も大体そんな所なので頷くだけにする。


 巫女になって現在の政治体制などを聞いてから知ったことだが、この国と他の数ヶ国では、竜を王と崇めながら、彼等には厄介な魔物退治などを任せるだけで、実際の政治は人間が取り仕切っているのだと聞いた。

 竜の能力をそんなことにだけ使うのはとてももったいないと思ったが、それがいまのこの世界の政治らしい。

 

「その政治の在り方が良くないというのは聞きました」

 

 そして、オリビアや黒猫さんに国の現状を聞いたりこっそり調査を頼んだりして知ったことと言えば、この国の現状はあまりよろしく無いという現実だ。

 ちょっとつつくだけでも色々と出てくる。

 しかし、だからと私がしゃしゃり出るわけにもいかないのが国だ。

 

 そこで、私ができることとして、竜王の傍らに立つ王妃を育て上げ、人間側を警戒させようと思っていたのだが、どうやらシャルも何か考えていたらしい。


「竜族もさすがに目を瞑っていられなくなり、いくつか竜王の権限で人を動かした懸案もあった」


 元来奔放な竜が首を突っ込むのだから相当だろう。


「ルゼ様がお生まれになった頃には、災害や流行病が人々を襲い、国が動かぬために個々で何とかしようと、迷信めいた生贄の儀式を行う村までありましたよ」


 グラハムさんの嘆かわしい言いたげなその表情を見つめ、補足された内容に私はピクリと反応する。

 それって、私が目を覚ました時にやっていた儀式の事ではないだろうか? 


「竜人か竜族が儀式を止めに行きました?」


 私が尋ねると、シャルは頷く。

 ということは…。


「小さな村で赤ん坊が生贄にされそうな事件もありました?」

「ありましたねぇ…。あれには陛下が出て行かれて」

「陛下!? あれ陛下だった!?」


 そう言えば私の生れた村は陛下の庇護下に入るとか言われていた! ということは、私を助けてくれたあの男性は陛下ということに…。

 くっ・・・暗かったから顔を思い出せないっっ。命の恩人なのに。


 でもそうか…この国の竜王様が私を助けてくれたのか…。

 

 考え出すと、何故か胸がとくとくと早鐘を打つ。

 ま…まぁ、乙女のピンチに駆けつけるヒーローは総じてかっこいいものですからね、きっと陛下も素敵な人に違いないわけで…。

 

 ちょっと会ってみたい…。


 私が乙女思考を炸裂させている間にも、シャルが話を続ける。


「とにかく、それらの被害も、中央政府の腐敗が原因で抑えきれなかった部分がある。で、我々竜族としては、今の腐敗した者達を一新し、新たな頭を据えたいと思っている」


 そこでシャルがのほほんと話を聞いていたルドに視線を移し、ルドはその視線を受けてゆるゆると自分を指さした。


「僕?」


 なるほど、今の腐った組織を壊し、新しい組織を生み出そうということらしい。方法はどうするかはこれからだろうけれど、その要が私の血筋であるこの少年ということだ。


「それで彼に学ばせるということ?」


 シャルは「そうだ」と答え、ルドは「えぇ?」と不満そうな声を出す。

 

「それは6年前、ルゼがここに来る前に中枢の高官に盾突いて地方に飛ばされた」

「いくつの時?」

「10才」


 10才ならばまだまだ子供だから大人相手にうまく立ち回れなくてもおかしくはないけれど、国を背負って立つのに10才でそんな間抜けなことをしていては能力不足だ。

 今から帝王学を学んで…と考えると、10年ぐらいかかるのではないだろうか?

 

 下剋上するには分が悪そうだ。時間も足りない。それに、私もシャルに食べられない様にあと2年後にはここを逃げ出す予定だし。


「ちなみに何が理由で地方に飛ばされたのですか?」


 オリビアが尋ねると、シャルはため息を吐き、ルドはパッと表情を輝かせてにっこりと笑みを浮かべた。


「それはもちろん子猫さ」


「「子猫??」」


 私とオリビアの声が重なる。

 子猫と言えばルドの率いる隊の名前だけれど、何か意味があるのだろうか。

 国の騎士団の1隊に付けるにしては可愛らしすぎる名前ではある。


「とある高官が猫嫌いで、生まれた子猫達をまとめて処分しようとしたから、思い切りぶっとばした」


 その答えを聞いた瞬間、私の頭の中から2年という言葉が飛んで行った。

 私はがしっとルドの手を握りしめ、真剣な表情で頷いた。


「下剋上に協力しよう」


 背後でオリビアが大きくため息を吐く。


「ルゼ様は無類の猫好きですから…。しかし、よろしいのですか? 2年と言わず10年ぐらいかかるかもしれませんよ?」


 私はコクコクと頷き、オリビアは「食べられても知りませんよ」と小さく囁くが、この時の私は猫をいじめる奴をまとめて川に流すつもりで計画を立てはじめていたので、2年という数字が吹き飛んでいた。


「では決まりだな。ルドが将来のこの国の王だ」

「えぇぇぇぇ!?」


 決定に驚きの声を上げたのは、当の本人であった。

 


 すっかり2年内に逃げ出すという目標を忘れ去った私は、なぜかその2年以内にルドを鍛え上げるに目標を変え、こぶしを握って燃え上がっていた。

 

 必ずや、この少年にこの国を動かすだけの力を譲ろうではないか!



 全ては猫の為に!


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