第33話 そこには彼等が…
「副長のご命令通りお嬢さんを連れてきましたよ。うあっ、と…シャル?」
にょきっと執務室を覗き込んだ金糸の髪に青い瞳の青年は、部屋の扉を潜るなり、一歩後ろへ下がった。
「何故下がる。ルゼを早く渡せ」
「何か怒ってないか? え? またうちの隊長が怒らせた?」
「怒ってないから、ルゼを渡せと言ってるだろうが」
執務室の入り口でのシャルと青年の攻防に、青年の後ろをついてきたオリビアがため息をついて素早く青年から気絶する私を引き取った。
「喧嘩するなら私が運びます。ルゼ様はお疲れなのですから静かに…」
オリビアは、私を軽々と横抱きすると、顔を上げ、なぜかあんぐりと口を開け、そのまま私をぼとっと落した。
「何してるんだお前はっっ」
間一髪、シャルが私をキャッチしたので事なきを得たが、間に合わなければ私の目覚めは最悪なものになっていたのは間違いない。
周りがうるさいのと、小さな落下で、首にガクリと衝撃を受けて私は目を覚ましたが…。
今、グキッと首が鳴りましたよ? これ、筋がやばい気がする…。
どの道、最悪な目覚めだった。
「お疲れ様ランセル~。一緒にオヤツ食べる? この黒猫ちゃんが用意してくれたんだよ」
何やら部屋の雰囲気にそぐわない軽~い声がするのだが、首が動かず見えないっっ。
ふぬぅっと気合を入れるが、どうやってもやはり首が動かず、次の瞬間ふんわりと体が起こされ、私はシャルの腕に座る形で納まった。
さすがは竜。私は12歳にしてはかなり小さいが、それでもこれほど軽々と腕に座らせて移動できるのは竜の筋力あってのことだろう。
「気分はどうだ?」
至近距離でかなりの色気を醸し出すシャルに見つめられ、ちょっぴり頬を染めながらにっこり微笑む。
「平気。何にもしてないもの」
「え?」
シャルの肩越しに、金髪に青い瞳の少年があんぐりと口を開けている。
今の「え?」は何に対してだろう…。首を傾げたかったが、やはり首は動かなかった。
そして、視界の片隅に呆然と立ち尽くすオリビアが見て取れた。何やら固まっているようだが…?
「オリビア? どうしたの?」
オリビアはプルプルと震えながら私の後ろの方角を指し示している。
だが! この首で後ろは向けないのだよ!
仕方がないのでシャルの背中をポンポンと叩いて合図すると、シャルは私を連れて執務室の椅子に腰かけてくれた。それはいいのだが…。
ナゼ私はシャルの膝に座る羽目に?
あ、いやいや、それはどっちでも良くて、いまだに固まっているオリビアの気になるモノを…と、体を正面に向ければ、目の前にはキラキラと目を輝かせる少年時代のリュークが…。
あれ?
「うわ…兎みたい。可愛い! シャルずるい! 僕もお嫁さん欲しい!」
「見るな、減る」
「心せまっ!」
私もふるふると震えながら指を持ち上げ、少年を指さす。
私…がいまのセリフを言ったのではないから、この少年は私の姿ではなくて…、リュークの少年時代でもなくて、今生きている子供ということになるけれど…。
「ランセル、ご苦労だった」
「暇だったんで別にいいですよ副長」
ソファに近づいてきたのは先程シャルの肩越しに見た青年で、彼はどうやら目の前のリュークそっくりの少年の、その後ろにいる青年の命令で私を連れてきてくれたらしい。
動かぬ首を何とか動かしてその姿を確認した私の首は、驚きと無理したあまり、グキリッと嫌な音を立てて固まった!
「ういぃ」
思わず痛みで呻くが、目は驚きで見開き、彼に釘付けだ。
黒髪に灰色の瞳をした青年は、私が見つめているのに気が付いたのか、私がどれほどおかしな顔をしていようともピクリとも表情に出さず、胸に手を当てて一礼し、そのまま無表情で告げた。
「初めまして巫女様。私はこちらのルドヴィーク・オブライエン率いる子猫隊副長、ナハルジーク・オブライエンと申します」
子猫隊!? 騎士団の隊の名前が子猫隊!?
いや、それよりも!
私は両の頬に手を置き、オリビアと同時に叫び声をあげた。
「「アンセル・レノックス!?」」
そう、目の前には幼い少年時代のリュークと、リュークと出会った頃の我が騎士、アンセル・レノックスが存在していたのだった。
私とオリビアは共に叫んだ後、そのまましばらく硬直し、気が付いた時には私の首も治療され、目の前には美味しそうな昼食が並べられ、なぜかシャルの膝の上で「あ~ん」をさせられる瞬間だった…。
はっ! いつの間にっっ。




