第30話 考え出すと…エンドレス
さて、本当に実力主義の連中ならば、こちらが強さを見せれば大丈夫とは思うけれど、実力云々無しで、ただ気に入らないということであれば、さて、どうしたものか…。
「ではレンと巫女様で」
カイザーが試合の組み合わせを告げるのを私はぼんやりしながら遮った。
「あ、全員でいいです」
「は?」
「全員相手します」
カイザーが目を丸くする中、私は練兵場の一番広い場所へと移動し、その場で腕を組んで考え込む。
女性は気にくわない、遊んでいるのが目障り、とかいうことであれば、叩きのめしたら余計に激昂するだろうか?
ここはシャルのような上の方の人を引っ張って来てもらって考えるべきか。
何にもしてないのに謝るのは嫌だし…。
「ルゼ様。言って下されば私がやりますのに」
オリビアはこちらを心配そうに見つめた後、「馬鹿にしてんのか!」と大騒ぎするレンと、その後ろでじっと構えているだけの騎士達を見やり、首を傾げた。
「後ろの騎士達は少し違いますね」
「うん。あの子の意見を認めているわけではないけど、止めることもしなかったよね」
「それは…よろしくないですね」
「そう。よろしくない。んだけど…どうしようかなぁ?」
やり過ぎは逆効果かなぁ、と呟きながら考え込んでいると、薄汚れた騎士達5人が私の前に立って模擬剣を手に構えた。
3人は不参加で、5人かかってくるらしい。
「巫女様は随分とお強いらしいから、こちらは5人で相手させてもらうよ。そこの女騎士もやるんだろ?」
「レン! 口を慎めと言っているだろう!」
カイザーがレンの肩を掴むと、彼はそれを強く振り払い、薄汚れた騎士の中でもこの戦いに参加しない3人がカイザーを宥めながら後ろにさがっていく。
「加わりますか?」
オリビアはこちらを窺ってくる。だが、私は首を横に振った。
「危なくなったら参加してね」
「承知いたしました。…あの、ちゃんと敵を見て下さいよ? ずっとうわの空ですと…」
「大丈夫、大じょーぶ」
うんうんと頷き、私はその場でやはりどれくらい手加減するかと悩み始める。その姿を、オリビアは不安そうに見つめながら離れて行った。
「始め!」
カイザーの声が響き渡り、走り込んでいた騎士達もこちらにチラチラと視線を寄越してくるが、カイザーの睨みで止まることは無く走り続けている。
少女達はカイザーの後ろ辺りに座り、見学組だ。
そんな中、私は剣を手にするわけでもなく、ただひたすらにうんうん唸りながら腕を組んで立ち、周りを5人の騎士に囲まれていた。
「いざとなれば私が出よう」
離れた場所では、カイザーが己の剣の柄に手をかけて身構えていたが、オリビアがその手に手を重ねて首を横に振った。
「できれば動かないでください。たぶん、というか、確実にルゼ様は上の空です」
オリビアは5人がじりじりと包囲網を狭めている状況を見やりながら溜息を吐く。
上の空だからなんだというのか、とカイザーがオリビアを見下ろせば、オリビアは何故か走り込みを続ける騎士達を見やり、憐れんだ瞳で見つめた後、もう一度首を横に振った。
「ルゼ様の悪い癖で、戦闘状態で上の空ですと、動いている者全てを標的にする危険がありまして」
「は?」
カイザーは意味が分からないとばかりにオリビアを見下ろすが、オリビアはカイザーの手から自分の手を離すと、遠い目で走り込みを続ける騎士達を見つめ、説明する。
「以前、その手で敵も全滅させたけれど、味方も全滅しかけたことがございます」
「いや…、まったくもって意味が分からんが…」
「ちなみに妙なところでフェミニストですので、女性にだけは被害はありません」
どういうことか説明してくれととカイザーが尋ねようとした時、ドォォンッと鼓膜を震わす巨大な音がして…、
何故か…、
周りを走る騎士達がそのまま全員スライディングして気絶した。
「なっ!」
目を丸くするカイザーに、オリビアは再び大きくため息をついて肩を竦める。「言ったでしょう?」と言いたげである。
「うおっ! ルゼ、ひょっとして今考え事中か!?」
周りの騎士達の多くが倒れた中、驚く声が響き渡ってそちらに目を向ければ、無事な者達もいた。
「おや、無事な方もいますね。えぇと、先程私と戦った方のようですが」
ブリオッシュは無事である。
何故かと言えば、彼の胸にはルゼが作ったお守りがかけられており、それが今回発動して、動く者を標的とする雷の魔法を防いだからだ。
ちなみに、その範囲はそこそこ広く、彼の周りを走っていた4・5名も難を逃れ、周りでスライディング気絶した仲間達を助け起こしている。
「ブリオッシュ! こちらへ来い!」
カイザーが声をかけると、ブリオッシュは自らに魔法避けの結界を張り巡らして走ってくる。その視線は突っ立ってブツブツ言っている私に向き、動きを警戒しているのだが、もちろん考え事中の私は気が付いていない。
「オリビアが言うには巫女様は考え事すると無差別になるらしいが…」
ブリオッシュは無事に二人の元に辿り着くと、オリビアを見下ろしてにっこりと爽やかに微笑んだ。
「あんたも経験あるんだな」
「えぇ」
オリビアは頷く。
ブリオッシュはルゼの今の状態を報告せよというカイザーの無言の視線を受け取ると、これまた溜息を吐きながら呆れたように報告した。
「ホントに時々ですけどね、魔法の教え方を考えながら稽古をつけてきたときとか…。魔法の出力は最低限で、広範囲エンドレスで魔法が降ってきます」
「エンドレス?」
「エンドレスです」
コクコクと頷くブリオッシュに、カイザーは迸る稲妻と、ぼんやり空を見上げ始めた私を見て、少々蒼褪めるのだった。




