第28話 オリビアVSブリオッシュ
「それでも貴様等は騎士の端くれかぁ!」
小顔で細身、栗色の髪に灰色の瞳の美女、現在18歳。
騎士団の前に女性達が現れた時、一番注目を浴びたのは彼女、オリビアである。
その彼女が少々疲れてきたベアトリスとカレン、それにぽっちゃり系の二人を下がらせ、怒声を響かせながら騎士達を一瞬で叩きのめす姿は…ドン引きである。
あ、いや、称賛に値すると言った方がいいのだろうか…。
元騎士団長アンセル・レノックス。我が騎士は、若い頃『鬼の騎士団長』として有名だった。
実力もさることながら、騎士に一定のレベルを設け、それに満たない者は容赦なく見習いに降下させていた。
そのアンセル再びである。
「すごいな…。ルゼ以上なんじゃ」
ブリオッシュは感心しきりである。柔軟に事実を受け止められる姿は、さすが私と同じ孤児院の出だなぁ、と思う。
そう、あれは私が2歳の時。
私はあまりに幼児暮らしが暇で暇で、退屈しのぎにと思わず魔法をいくつもぶっ放したのだ。もちろん攻撃系でなく、補助系ばかりだが。
おもちゃが宙を飛び、幻の妖精があちこち飛び交い、神聖言語の魔法陣がいくつも出てきて子供達がパニックになったものの、私が自分でやったと素直に白状すると、子供の柔軟さでそれを受け入れてくれたことがあった。
中には不思議がって追究してきた者もいたが、その子には、うちの一族は血の中に知識が受け継がれるんだよー、なんて小説のようなことを言ったら、その日から憧れの視線を向けられた。
その憧れがあまりにしつこく、「じゃあ教えてあげるよ」と言って始めたのが孤児院教育の始まりである。
以来、何やっても(私の顔以外では)あまり驚かれない。
あの時マザーがいなくて良かったよ、と今更ながらに思う。マザーに知られていたらきっと大騒ぎ…。
うん? マザーなら意外と大丈夫だったかな?
おっと思考が剃れた。
「オリビアは剣だけなら私より強いよ」
ブリオッシュの呟きに答えると、ブリオッシュが興味深げにこちらをちらりと見つめてくる。
「剣以外なら?」
「私の方が強いですとも」
胸を張ると、ブリオッシュは「へえ」と感心しながら、視線は再びオリビアの方へ釘付けである。
元々稽古が好きで、ここまで強くなったブリオッシュだ。きっと参加したくてうずうずしているのだろう。
先ほどから足が小刻みに動いたり、騎士が防がねばならない場面で指が動いている。
6歳からしばらく神殿籠りで、孤児院の皆やブリオッシュの稽古をしていないが、特訓は続けているのだろう。ピクリと動く指が、いいタイミングで動いている。
どれぐらい強くなっているのか気になるなぁ…。
「ブリオッシュ、許可する。当たってみろ」
カイザーもブリオッシュの動きに気が付いていたのか、それとも私のブリオッシュを見る視線に気が付いたのか、腕を組み、オリビアに向かって顎で行けとばかりに示した。
ブリオッシュの目がきらりと輝く。
「はい!」
だが、ブリオッシュは剣を抜かずに突進していった。
「お、ブリ野郎! 女の子に怪我させんなよ~!」
「剣の試合だろうが! 剣を抜け、剣を!」
「身ぐるみはいだれ!」
突然今まで黙っていた方面から、山賊か盗賊か? と言った騎士としてはお上品でない口調の応援が飛ぶ。
これにはカイザーの額にびしっと青筋がたった。
「言葉に気を付けんか!」
腹の底から発せられた声は周りの空気をビリビリと震わせ、威圧をを伴って男達に向かう。
さすがは騎士団長。汚い応援を飛ばした男達を一瞬で黙らせた。
「申し訳ない巫女様。まだまだ教育不足なもので」
「あ、う~ん、ひょっとして一般からの?」
尋ねれば、カイザーはコクリと肯いた。
騎士の中にもブリオッシュのように一般人から上がってくる者がいる。
もちろんその多くが並みの騎士よりも実践経験を積んだ冒険者や傭兵だったりするのだが、そんな彼等が徒党を組むと、騎士とは名がついても、ほとんど山賊のような集団になるのである。
中には騎士よりも騎士らしい人もいるけれど、やはりくだけた付き合いが好きな彼等の中にいると、それも次第に崩れていく。
そして、大抵彼等はこりない性格なため、再び応援が始まった。
「そこだブリ! 負けるなブリ! 今だブリ!」
「アホブリ!」
「踏み込みが甘いっていつも言ってるだろうがブリ!」
「ぶはっっ」
いかん、新語というか、どこかの一族の会話みたいに、ブリが語尾につくことで笑える応援になっていて、思わず吹き出してしまった。
顔がにやけるのを必死に抑えながらブリオッシュの戦いぶりを見れば、いまだに彼は剣を抜かずになぜか武術で戦っている。
「ブリさんは相変わらず剣より武術の方が得意ですか?」
「あぁ、剣も強いのだがな。あの身体能力は我が隊の中でも1・2を争う」
カイザーが認めるならば腕が上がっているようだ。
安心しながらうんうんと頷き見ていると、オリビアが汚い応援にキレたようだ。
ブリオッシュの繰りだす蹴りを剣を鞘に収めた後掴み、そのまま彼の力を利用して回転させ、軽々とぶん投げた。
「ぬあああああ!」
「こっち飛んでくんじゃねぇよ!」
「ぎゃあああ!」
オリビアはブリオッシュの体を応援とヤジが飛んでくる方向へピンポイントで投げ飛ばしたようだ。
悲鳴が響き渡った後、しんと静まり返った。
「お前達に明日などくれてやらん」
「「オリビア様カッコイイ~!」」
オリビアは少女達に向かってにこりと微笑み、ちょっとふっくらした少女達が身をくねらせながら歓声を上げた。
天然誑しですかオリビアさん。
何というか…おかしな噂が立ちそうな行動は慎んでもらいたい…。
すっかり自分が女性だと忘れているオリビアに呆れる私は、思わず遠い目をしてしまった。
「取り敢えず、普通の訓練始めましょうよカイザーさん」
私が提案すると、カイザーはちらりと目を回すブリオッシュと、その下敷きになった男達を見て、ふかぁくため息をついた。
「仰せのままに」
ようやく、普通の合同訓練開始です。




