第27話 素敵な訓練の始まり
特定の騎士とだけでなく、騎士団の皆さんと共に剣の特訓がしたい。そう申請したのはもう随分と前である。
騎士団長カイザーオルドブレンに手を引かれながら、いつもと違う道を歩いて移動したため、どこへ行くのかと尋ねれば、本日の朝から別の練兵所で、ようやく騎士団の皆さんと手合せができるらしい。
「陛下が渋っていたとお聞きしましたが」
オリビアが尋ねれば、カイザーはその強面を彼女に向けて頷く。
「我等騎士団も暇ではない。子供のお遊びにならば付き合う気はなかったが、巫女様の剣技は本物であると判断したため、各隊長と共に陛下に直談判させていただいた」
「そうなのですか。良かったですね、ルゼ様」
オリビアはそう言ってカイザーと手をつないで歩く私に満面の笑みを浮かべる。
私はそんな彼女をちょっと遠い目で見つめた。
良かったですね、はこちらのセリフだと思う。騎士団の団員との特訓を一番望んだのはオリビアなのだ。
曰く、
「あれで隊長なのですか!? オルドブレン様の剣技はなかなかのものがありますが、あの隊長格の男達の使えない剣技ときたら! こんな騎士団がルゼ様の周りを護衛しているのかと思うと我慢なりません!」
実戦向きでない、飾り物、お遊戯か! と、剣に関しては一歩も譲れないオリビアが、叩き直したい! と怒り狂ったため、なんとか他の団員達とも特訓できないか、と思った次第である。
随分時間がかかった為、その怒りも少しは収まっているとは思うけれど・・・・。
「良かった…ですね…。とっても強い…人が…いると…いいですが…」
えぇ、心からそう思います。ぜひ強い人が在籍していてくれ…。
でないとうちの恐竜が大暴れする…。それこそ警備の男達を全員ぶっとばすこともやりかねない。
ぜはぜはと息を荒げながら言えば、はっと気が付いたカイザーが私を抱き上げる。
これでも長く歩けるようになったが、やはり少し早足だったり距離が長かったりすると息が上がってしまうのだ。
「失礼した」
「いえいえ」
はふはふ言いながらカイザーの腕によっこいしょとばかりに遠慮なく座りなおすと、肩越しに、なぜか勝気な令嬢カレンの悔しげな表情が・・。
おや?
「私は巫女様やオリビア様ほど剣の腕は強くないのですが、毎日の訓練で、少しでも騎士様を唸らせることができればと思います!」
カレンの隣でわくわくした表情を隠しもしないのは、茶髪に青い瞳のそばかすがチャーミングなベアトリス嬢だ。
彼女の声でカレンから視線はベアトリスへと移った為、ほんのわずかの違和感が吹っ飛んだ。
彼女は両親や兄弟、マナーの先生達でもどうすることもできなかったお転婆令嬢であり、一番の趣味は、今の時代の女性達が嫌悪する乗馬である。
今の時代でかなり型破りとみられる女性だが、私やオリビアには懐かしい感じで、好感度大だ。
話も合い、ティナ以外の5人の中で、一番最初に私達に馴染んだ女性でもある。
体を動かすことの好きな彼女は、毎日の剣の訓練もめきめきと上達している。
カイザーはそんなベアトリスを見て頷いた。
「楽しみです」
と。
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「おぉ、見事にルゼが増えてる」
「どういう意味かなブリさん」
とりあえず下っ端の騎士見習いと手合せしてみましょう。ということで、少女達とまだ少年の域を出ない騎士見習いの手合せが始まったのは数分前。すでに決着がつきそうだ。
騎士団の男達は初め、訓練に女性が参加するということで浮足立っていたが、すぐにその表情を改めた。
今や一部の騎士が蒼褪めている状態である。
大丈夫か…この騎士団…?
オリビアでなくても心配になる。
その手合せ中、私の傍に懐かしのブリオッシュが近づき、ベアトリスが楽しげに騎士を蹴り飛ばしたところで先程の台詞である。
このブリオッシュだが、なんと! 私が6歳の時の月食がきっかけで、兵士から騎士に昇格していたのである。
くっさい魔物を足で蹴って自分の足がクサい! と騒いでいたようなお間抜けさんだったが、あの夜の戦いが偉い人の目に留まって現在は騎士団で揉まれているようなのだ。
それも、カイザーの率いる実力主義の隊に突っ込まれたらしいので、まだまだひよっ子なのだそうだが(カイザー談)。
「俺も昔ルゼに蹴られて吹っ飛ばされたじゃないか」
「相打ちだったけどね」
私と年長組が稽古すると、必ずと言っていいほど相手を倒した時には私も倒れていた。
今は相手が起き上がるまで立っていられるようになったので、勝利を味わえるようにはなっているはずだが。
なんてことを考えていると最初の手合せは終わったようである。
「見習い程度の実力ではダメか」
カイザーは特に驚く様子も無く、次の相手を絞り込んで名前を上げていく。
しかし、立ち上がっているのは女性達の動きに蒼褪めた騎士達ばかりだ。
ひょっとして、これを機会に叩き直そうとかいう魂胆だろうか?
それは別にいいんだけど…、約一名こちら側に燃えている人がいるんだよなぁ。
「ルゼ様…やっちゃっていいですか?」
ぼそりとオリビアが呟き、模擬剣を持つ手に力が籠められるのを横目で確認する。
元・騎士団長様、できれば、昔の鬼団長の心をお鎮め下さい。
「えぇと、もう一段階実力が上がってからにしようか…」
「わかりました。ここまでは見習い達だと思っておきます」
「そうして、ぜひ」
そう言うとオリビアは目を閉じ、試合は見ず、女性達にやられる騎士の声を耳にする度に眉間の皺を寄せていた。
うぅむ、お預けはまずかったかな…。
「次、呼んだ者、前へ!」
再びカイザーが騎士達を呼ぶと、オリビアはカッと目を見開き、「ふふふふふふふ」と恐ろしい笑いをもらしながら手合いの場へと参戦していった。
「死人でないか?」
「あ~。まぁ、慣れてるから大丈夫でしょう」
ブリオッシュのセリフに、私は不安ながらも返したのだった。




