第25話 教育係です
王城の敷地の奥、人の目に隠されるようにしてひっそりと建つ神殿は、一見石造りの質素な建物だが、その中に用意されている一部屋一部屋の調度品は素人目から見ても品がよく、かなり高そうな品が並ぶ。
どうやらどの部屋にもテーマがあり、色が青で統一されていたり、模様が統一されていたりと面白い。
そして、今日もそのうちの一室、赤の部屋に10歳になる少女が入ることになった。
入城して6年。
王様って変った人なんだなぁとしみじみ思ってしまう。
「新しい行儀見習いの娘でティナと申します」
私の目の前で膝を折るのは、貴族のご令嬢なのだが、少々というか…かなり太り気味である。
この他に、顔にまったく自信が持てない女性に、幼すぎる少女、ティナのように、太りすぎてしまって親も匙を投げるような娘や、中には高慢ちきすぎて手に負えなくなったらしい娘等々、王様の後宮代わりの神殿には、何故か変り種ばかりが集まっている。
後宮とはどういうことか?
メイドの黒猫さん(名前は謎だが、そう呼んでほしいと言うので呼んでいる)によると、巫女というのは、王様の愛人候補らしく、神殿で帝王学、魔法学、神聖語学、マナー、ダンス等を習い、いずれは王に相応しくなるよう自分を磨く場所らしい。
そんな巫女達の集まる場所。それが神殿という名の後宮なのだ。
え? 私? 私はどうやら王様に近しいらしいシャルの勧めで『教師』として呼ばれたようだ。
表向き「巫女」と呼ばれるが、ある日、
「あなたのような孤児が王の妻になれるはずないでしょ! ただの教師よ教師! 勘違いしないでちょうだい!」
とここに来た高慢ちきな令嬢に教えてもらった。
最初は王様の妻になるのか!? と焦った私も、それを聞いて納得した。
シャルも軍事級の魔法は見過ごせないとか、知識や魔力で国を支えてほしいとか言っていたし、そう言うことかーと頷いたのだった、
以来、これはお仕事と思って少女達を受け入れ、教育を施している。
「丁度良かった。今から健康運動の時間です。さぁ! 脂肪を落としに参りましょう」
「し…しぼう?」
「脂肪というのは余分なお肉です! とりあえず、運動不足な令嬢の体にはまず簡単な体操と適度なウォーキング!」
「どちらもルゼ様は途中でばてますけれど」
オリビアに突っ込まれた…。
そうなのだ。毎日の乾布摩擦に、日本では有名な朝の某体操。ウォーキングに、なんちゃって太極拳等々、いろいろ試しているのにもかかわらず、私の体力はほんの少ししか上がっていない。
それでも30分は歩けるようになったので大進歩と言えば大進歩だが、強歩やマラソンなどしようものなら、発熱し、3日は寝込むのである。
で、なぜかそんな時に限ってヘルムンドから差し入れの薬湯茶が届き、さらに寝込むのだ。
「それはそれ、これはこれ、人それぞれ、一番合った健康法が良いと思うわ」
エア荷物を他所へ置く仕草で自分のことを棚に上げると、さっそくとばかりにティナの手を取って歩き出す。
「あ、あの・・」
「動きやすい服は持ってきている?」
私よりも楚々として、さらにゆっくりと動くティナは、足をもつれさせかけ、危うく転びそうになりながらも必死に後をついてくる。
「ダンス用のドレスぐらいならば持ってきてますが」
「乗馬用があると良かったのだけど」
「乗馬!?」
ティナが目を丸くする。
こういう反応ももう何度目か。令嬢の多くは乗馬などはしたないと思っており、乗馬をする時は騎士に乗せてもらい、必ず横座りで乗るものだと認識しているのだ。
この話を聞いた時、私とオリビアは互いに顔を見合わせ、同時に叫んだものだ。
「「いざという時どうするの!?」」
と。
幻の帝国だか、伝説の帝国だか知らないが、リュークの国だって滅んだのに、竜王の国が滅ばないという保証はない。
ならば、女性も常に動けるようにならなければ、貴族だろうがお金を持っていようが…いや、貴族やお金持ちだからこそ、襲われる確率は高く、何もできない者が多い。
ならば、対抗手段を学ぶべきである。
馬に乗り、武術を習い、国の女性の母と成るべく率先して動く女を目指すのだ!
「ということで、ここにいる間に乗馬も覚えてもらいます。良いダイエットにもなるしね~」
「ダイエット?」
「減量です!」
なんにせよ、全ては美しいボディづくりの為でもある。
陛下がいくらぽっちゃり好きでも、私より早く息が上がるような奥様ではまずいですから。
神殿の外に出ると、そこには神殿の前庭が広がる。
広さを表現するなら、学校の体育館並だろうか。
体育館って懐かしいねぇ…。と、浸っている場合ではなかった。
「遅いですわよ!」
案の定叱られた。
前庭には、お揃いの騎士服に身を包んだ女性が5人ほど集まっていた。
2人はティナの様にぽっちゃりしすぎてしまった少女。
1人はまだ5歳と幼すぎるのに預けられてしまった少女。
1人はそばかすだらけの顔をした元気過ぎる少女。お転婆が過ぎてここに入れられた。
そして、最後に目がほんの少しつり上がった気の強そうな少女。
彼女が「遅い」と声をかけた、話題に上がった例の高慢ちきな令嬢、カレンである。
「陛下を振り向かせるための美貌を手に入れるための体操を仕方なくやってあげているというのに、教師たるあなたが遅れるなんてどういうことですのっ」
まぁこんな感じで、彼女は文句を言いながらも、なぜか愛妾プログラムをこなすのだ。
そして…毎朝ここには…、
「ルゼ! また増やしたというのはどういうことだ!?」
シャルが騎士を引き連れやってくるのである・・・・。
さて、今朝もお小言開始かな??




