第24話 入城!
「初めまして小さな巫女様」
柔らかくにこりと微笑み、私の前に膝を折って語りかけてくれたのはリアルメイド。
あ、いや…。リュークの時もメイドを見た時は、
ひゃっほぅ! メイドだぜぃ! しかも私付き! メイドハーレム!
なんてはしゃいだこともあったけど、今の気分として言うならば…。
メイドさん、髪さらっさら、胸でっか! 私、あれに抱きしめられたら窒息するんじゃ…いや、絶対するよ。
という、ちょっとオッサンめいた気分でした。
あ、一言でじゃなかったね。
なんだか、あれよあれよという間に孤児院の虚弱少女が巫女様になることに決まってしまい、私はただひたすら呆然とするのみだ。
皆の教育まだ終わってないのに、とか、私がいなくなったら誰が朝皆を起こすの、など、そう言ったどうでもいいことばかりが頭の中を巡り…。
「取り敢えず、お肉を処理しよう…」
なんとなくぽつりと呟けば、オリビアがスッと私の横に立った。
「お肉でしたら子供達に肉屋を呼ぶよう伝えましたので、今頃処理しておりますよ」
「え? じゃあ、お肉パーティーは?」
「これをお待たせするわけにはまいりませんでしょう」
オリビアが目で示すのは、目の前にある黒塗りの馬車と、私の前で控えるメイドさん。それから馬車を取り囲むように護衛する騎士達の姿だ。
パレード、これはパレードというモノではないのかね、オリビアさんっ。
視線をオリビアに向ければ、彼女は静かに笑みを湛える。
「(慣れておいででしょう。今更格好悪い真似はなさいませんように)」
表情がそう訴えていた。
しかし、そう言うオリビアの目も死んだ魚のような目である。
きっと心の奥底で、私と同じく思っているに違いない。
竜王って、派手好きの変人か? と。
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結局、お肉は後で届けてもらうことになり泣く泣く馬車に乗り込んだ。
オリビアは意地でも離れませんと言った様子であったため、共に来ることを許可された。
皆との別れと言えば…、孤児院では、子供達に引き取り手ができれば養子縁組などもあるので、私もそれに似た感じで送られることになったのだが、なぜか皆いつもと違って浮かない顔をしていた。
「生きてろよ…」
「死なないようにね」
「洗面器で溺れる前に床に倒れろよ」
「ゾンビと間違われて斬られないようにね」
死亡フラグ!? これは死亡フラグなのか!?
結局のところ、誰も優しく送り出してはくれなかったりする…。
マザー? マザーは…。
「ルゼ、陛下のお側で間違っても鼻血を噴いては駄目よ。不敬罪で斬られてしまうから」
などと青い顔で一番恐ろしいことを言ってくれた。
ならば、こんな時こそヘル爺だ! と思うだろう。
彼は…、優しいと言えば優しかったよ…。
「1年分の健康ドリンクスペシャルだ。スペシャルだから腐らないし、味もスペシャルだ。健康のために飲めよ!」
優しい最後通告だった…。
1年分のドリンクは、メイドさんが後で肉と共に運ぶよう御者に言っておいてくれるらしい。
でも、その気遣いはいりません!
頭の中でドナドナドナドナと暗~い音楽がエンドレスで流れて行く。
一体竜王という人は何を考えているんだ。
いや、まぁ、軍事級の魔法を使えるおかしな子供を自分のテリトリーにおいて監視する、という意味においては間違った判断だとは思っていないけれど、巫女って、巫女って何?
このままではシャルに喰われる日まで逃げることができないではないかっ!
いや、これはその為のシャルの策略かっ? シャルってそんだけ上の方の人?
悶々としていると、馬車ががたんっと大きく揺れて止まった。
「いろいろお考えのようですが、着きましたよ」
メイドさんがにっこりと微笑む。
早!
どうやら考えすぎていたらしく、馬車から見る景色を楽しむ余裕もないままに、目的地へと馬車は滑り込んだようだ。
馬車の小窓から見える景色に、私は遠い目をする。
見上げれば白い雲、高い空、でかい城。
いやいや…
見上げれば、白い雲! 高い空! でかい城! 上空から人!
諦めよう。ここは城に間違いない…うん。そして窓から人が降ってきたが、見なかったことにする。
「巫女様、さぁ、お手を」
メイドさんに促され、ゆっくりと馬車を降りると、「おぉ」というおじさん達の声が響き、びくりとして顔を上げた瞬間、なぜか、そこに勢ぞろいした人々に逆にびくりと驚かれた。
「な、なに? 私、まだ何にもしてないよ?」
驚いて声を上げれば、小さく「人間か…」と明らかにほっとする声が…。
あぁ…いつものね…いつものね!
すでにやさぐれそうだ。
「ルゼ、よく来たな」
ずらりと並ぶ人々の間からシャルが現れ、颯爽と近寄ると、私を抱き上げる。
さっき窓から人が降ってきたのはおそらくシャルだろう。
ちゃんと出入り口を使って下さい。心臓に悪いから。
そのシャルの顔には極上の笑みが浮かび、思わずお父さ~んと言いたくなったが、やめておこう。きっと彼が傷つくだろう。うん。
「ルゼはこれからしばらく城の敷地内にある神殿で暮らすことになる。身の回りの世話はメイド達がしてくれる。何か困ったことがあれば、ここにいる侍従長、グラハムに言づけてくれれば、できる範囲で解決しよう」
そう言って紹介されたのは、白髪で、青い瞳をした背筋のピンとしたロマンスグレーのおじ様。
こういう隙のない人と言えば…。
チラリとオリビアを見れば、彼女は目をキラキラと輝かせて、グラハムをじっと見つめていた。
彼女は、前世の頃からこういうカチッとした人に憧れる傾向にある。
きっと今はフォーリンラブの真っ最中だろう。
奥さんいるよ、きっと、諦めろー。
「グラハムと申します。初めまして巫女様」
丁寧な一例で挨拶され、私もはっとして、それに応えたきちんとした礼がしたかったのだが、いかんせん抱き上げられているので、略式に礼をするしかない。
グラハムはにこやかに微笑んだ後、首を傾げる。
「ところで、巫女様のそのお顔の腫れと青痣は、ひょっとして『竜体』とでも戦いましたか…?」
「違う」「違います」
私とシャルの声が重なった。
そう言えば…私の顔、ぼっこぼこのお岩さんでした!
痛みだけは、シャルが癒しの魔法で抜き取ってくれたからすっかり忘れてた!
道理でさっきから出迎えた人達が、いつも以上の恐怖の視線を向けるわけだ。
「そうですか、てっきり背中の傷の報復をなさったのかと」
「何の話だ」
よくわからないシャルとグラハムの会話に首を傾げながらも、私はこの日、雰囲気に流されてではあったが、無事に巫女として城内入りを果たしたのであった。
(陛下は美醜の見分けがつかないのかもしれぬっ)
(まだ幼くて…魔物顔の娘を探さねばっ!)
(コレならうちの愛人の子でもイケる!)
出迎えた、臣下達の心の叫び…




