第21話 騎士でした
最後の方に残酷描写入ります。ご注意ください。
「これを?」
「そうです。血抜きして…」
「多くないか?」
何やら近くでざわざわとうるさく、顔もジンジンと最高潮に熱く思えて目を覚ませば、瞼が腫れぼったいのか、あまり目が大きく開かなかった。
ナゼだ?
とりあえずムクリと体を起こせば、そこは魔物の体液や血臭の立ち込める野原。
柔らかな草のベッドに横たえられていたらしい。
誰だ、こんな幼気な少女を外に寝かせて放っておいたのは!
辺りを見回せば、騎士達が魔物の死骸の片付けに走り回り、その傍をちょこまかと孤児院の子供達がうろついて手伝っている。
危険は…去っているようだ。
よいしょと腕を突っ張って体を起こすと、頭が重い…。
「あぁ、目が覚めましたね。お顔は大丈夫ですか?」
どういう意味だ…。
思わず胡乱な目でおかしな問い方をした例の見知らぬ子どもを睨むと、彼…いや、彼女はクスリと笑いをこぼした。
「お久しぶりですリューク・イル・ゼルディア。我が君。その不機嫌な眼差しはあの頃と全く変わりがりませんね。お顔は…かなり破壊的に変わっておりますが」
えぇ、えぇ、思い出は美化されるものだということをよぉぉく思い出しました。
私の目の前に入る子供に、がっちりと重なるのは、銀糸の髪に灰色の瞳のちょっぴり毒舌だった親友であり、愛しい人であった我が騎士。
間違いなく、あの、我が、騎士、なのかぁぁぁぁっ!?
心が流す滝のような涙を飲みこみ、しばしの放心状態の後、過去のストイックな自分を奮い起こして、なぜか顔が引きつってうまくいかないが、それらしい笑顔を浮かべて見せる。
「我が容姿はともかく、そう言うお前はなんと愛らしい姿なのだろうな。我が騎士アンセル・レノックス」
栗色の短い髪に、あの頃と同じような灰色の瞳。顔は小さく、線も細く、将来は間違いなく美人になるだろう、愛らしい年上の少女が目の前にいる。
ストイックの試練再び!?
またしても私の恋を邪魔するとは、この世界に住まうのは邪神!?
「あぁ、我が君。やはり記憶がおありになるのですね…」
瞳を潤ませ、こちらを覗き込む美少女は、破壊的に可愛らしい。
世の男性が少女の視線にコロッと行くのがわかるような気がするよ。が、今回は女同士なので、可愛い女の子だねぇ、ぐらいにしか感じなかった。
ふ…ユリは回避できるようだ。
それはともかく、そんな愛らしい彼女は、一瞬でその表情を真顔に変えた。
何やら嫌な予感がひしひしと…。
「で、記憶がおありになる貴方様が、ナゼあの派手さしかない魔法を選ばれたのかお聞きしたい」
わずかに低くなった声に私の視線は泳ぎだす。
「いや、それはだな、記憶というものは少しずつ衰えるモノであって…」
じっと見つめられた為、嘘でないと証明するためにそれをじっと見つめ返す。
そうしてしばらく見つめあっていると、どちらからともなくぶっと吹き出した。
我が騎士との恋はまたもや叶うことは無くなったけれど、昔と変わらない友としての愛しさがこみ上げ、抱きしめあった。
前世の記憶を持っている人間は貴重だ。この痛みを分かち合える人がいて素直に嬉しい。
「話は終わったか?」
「あ、シャル」
振り返れば、月明かりと松明の炎に照らされ、先程見た時よりもずっと色っぽいシャルが腕を組んでこちらを見つめていた。
話は…聞かれたかな? 聞かれたよね…、竜の耳は人間よりずっといいし。
彼がどう出るかとドキドキしながら身構えると、シャルは私の横にしゃがみ、一瞬隣の少女を睨んだように見えた。
ん? 気のせいかな?
と思ったが、彼女の方もギラリとシャルを睨んだので、気のせいではないらしい…。
「あ、そう言えば名前を聞いてなかった」
私が思い出したように少女を見やれば、彼女はすぐににっこりと微笑みを浮かべて私を見つめる。
先ほどシャルに向けたものとは大違いだ。
二人は顔見知り? 仲が悪いんだろうか?
「私はオリビアと申します。冒険者を生業として放浪の旅をし、偶然この国であの魔法を見てこちらへ」
「オリビアかぁ~。私はルゼよ。ルゼ・フェアルラータ。この孤児院でお世話になってるの」
「…ルゼ様もご両親が…」
痛ましげな声がかけられる。
えぇ、医療費が捻出できず逃げられました。とは口に出さずににっこり微笑む。
「どこかで生きてます」
「! えぇ、そうですね。きっと」
ぎゅっと手を握られ、熱い視線を送られた。
これは絶対誤解されているぞ?
「! 女同士とはいえ、少々目に余る。ルゼは我が妻となる者。あまり我が目の前で触れてくれるな」
不意にシャルの腕が私の体に回り、ふわりと抱き上げられ、そのまますとんっとシャルの膝の上に納まった。手はオリビアと繋がったままだ。
「女同士だからこそ繋ぐのです。まだ婚約すらしていない者がしゃしゃり出る幕ではございません」
「それはっっ…まだルゼが子供だから危険が及ばぬようにしているだけだ」
「はっ、どうだか。ルゼ様一人守れないような者がルゼ様に相応しいとは思えませんね」
「もちろんルゼは護る」
頭上で何やら戦いが起きた。
それと共に私の体に回ったシャルの腕と、繋いだオリビアの手に力がこもっていく。
絞められる? 絞め…絞める?
「あぁ! 絞めるっ! 肉! 肉どうなった!?」
絞められるで思い出してじたばたと暴れ出すと、オリビアが「あぁ」と呟き、小さな白い炎を手の上に呼び出すと、そのまま森に向けてそれを放った。
小さい光だが、暗闇の中で灯るその光は眩く、森の入り口を映し出し…。
「うぉ」
後片付け中の騎士達が呻いた。
「きっとルゼ様なら例の肉を欲するだろうと思い、血抜きをいたしております」
それは素晴らしい…素晴らしいが…。
森の木には、美味しいお肉のクマ五郎が血抜きのために吊るされ、ぷらんぷらんと揺れていた。
それはいい、それはいいが!
「多すぎます!」
その数数十匹。
ひぃぃぃっと悲鳴を上げて、私は貧血でブラックアウトした。
子供達よ…あれはうまいから、トラウマにはならないでくれ…。




