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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
孤児院編
20/97

第20話 真実からは目を逸らせ! 

「だぁ~れぇ~かぁ~、冷やしたタオルゥゥゥゥ」

「や、その喋り方も怖いから」


 シニヨンが言いながらタオルを取り出し、私の顔をごしごしと拭き取る。

 とりあえず、まだ倒れてないからこれはこれで進歩である。


「ほっぺがジンジンする」


 うん、このジンジンが作用して気を失わずに済んでる気もするけれど、これって大丈夫なジンジンだろうか? 現在頬がいつもの3倍ぐらいになっているように感じるのだけど?


 チラリとシニヨンを見ると、彼はさっと目を逸らした。

 うぉい!


 まぁ、名誉の負傷ということにして、周りを見れば、上級の魔物がいなくなったことで、散り散りになっていく魔物の姿が見える。

 このまま放っておいても大丈夫だけれど、ここにいる魔物は孤児院の近くの森に住み着いているのだ。できれば今後の為にも狩っておいて欲しい。


「ブリさ~ん! 全部仕留めてー!」

「無茶言うな! 数多いぞ!」



 何のための騎士団だ。

 まぁ、ブリオッシュが騎士団を率いているわけではないので、彼と騎士団ができるだけ倒してくれることを祈ろう。

 頼んだとばかりにサムズアップすると、そこへカールが駆け寄ってきた。

 

「ルゼは早く治療に行った方がいいな。顔が…ものすごく…えぇと…健康的?」


 なんだろう、その微妙すぎる表現。

 

「何をもって健康というの?」

「いつもよりふっくら」


 ふっくら? え? ふっくらしてるの私? そんなこと言われたのこの人生初だよ~。嬉しいね…。

 なんて喜ぶと思ったら大間違いだ! どんだけ腫れてるんだ私の顔!


「顔が戻らなくなる前に冷やしてくる…」


 うぅと頬を手で冷やしながら、孤児院に向けてぽてぽて歩き出す。

 今立っている場所から孤児院まではそんなに遠くないし、こちら側に魔物はいないからもう大丈夫だ。それに、空の月もそろそろ戻り始めている。


 重い足取りで孤児院の入り口近くまで戻ると、ようやくやれやれと息を吐けた。

 だが、後でおいしいお肉の確認しないと寝れない…。




 孤児院のドアまであと少し…という所で、孤児院の入り口横の茂みから突然黒い影が飛び出した!


 魔物だ!


 小さな餓鬼のような魔物に飛び掛かられ、共に地面を転がる。

 その魔物の爪は私の目を抉らんと伸びてくる。


「ぎゃあああ!」

「ギュアアアア!」


 まさか、ここにきてこんな魔物と本気の取っ組み合いってどうよ!

 

「ぎゃあああ!」

「ギュギュギュギュギュアアア!」


 こんだけ叫んでるのだから誰か助けにこんかー!

 心も口も叫び声をあげていると、空の月がようやく姿を現す…と思ったのだけど、何やら月にほくろが見えた気が…。


 ほくろ? 


「ギュアアアアア!」

「うわっ、ちょっ、目がやばいっ」


 余計なことに気を取られれば、目のあと数センチ先に迫る餓鬼の爪! そして、プルプル震える筋力のない私の腕!

 もはやこれまでかー! と思いつつも目は閉じられず、じっと餓鬼を睨みつければ、その餓鬼の顔が歪み、そのまま私の体の上から飛んで行った。


「大丈夫か!?」


 お? 月から落ちてきたほくろ…。

 じゃない、月の光を遮っていたからほくろに見えただけの、空から落ちてきた人だ…。

 

 何やら、背の高い男の人が私を見下ろしていた。


「ダレ?」

「そう言うそなたも…誰か判別できぬ顔になっているな。まぁ、臭いでわかるが」

 

 もう指一本動かせない体をふわりと抱き上げられ、スンと鼻を寄せられた。

 

 長い紅の髪は適当な三つ編みで結われ、急いで着たのか、騎士服は随分と着崩された状態。顔立ちはとても整っているが、全体的に…色気むんむんなお兄さんだ。

 そんな男性が、私の臭いを確認するようにスンスン鼻を鳴らす姿は…とても残念だ。


 にしても、紅い髪と言えば…。


「…ひょっとして…シャル?」


 こんな野性的な男の人に知り合いはいないので尋ねれば、何とも悩殺的な笑みを向けられた。


 美形の笑みは百億ボルト!


「昇天しそう!」


「それはまずいな。すぐに手当てを」

「いや、それはともかく、シャル、魔物を倒してぇ~。えふぅっ!?」


 シャルは私を抱えたままグルッと勢いよく振り返り、目を眇めた。


「何の用だ、娘」


 一瞬、遊園地のアトラクションのコーヒーカップの心地を味わった私は、シャルの腕の中で半腐乱死体だ。

 もうヨダレが垂れてようが、白目剥いてようが、意識があるだけ進歩進歩。


 いやいや…。

 見えないと意味ないし、と軽く首を振って焦点を合わせると、私達の目の前には、例の子供が。

 少女だというその子供は、こちらに剣の先を向けて立っていた。

 

「そちらのお方は我が主となるにふさわしき方。あなたが何者かは知らないが、不埒な真似をするならばここで敵とみなす」


 ・・・どっかで聞いたようなセリフだ。

 記憶の片隅の方にあるんだけど…。

 あれは確か…リューク時代の我が騎士との…。


 うん、ここは聞かなかったことにしよう。そうしよう。絶対いいことないし!

 

 私は魔物の死体を焼き始める騎士達を視界に収めると、今まさに一つの魔物を焼こうとした騎士に向かって力を振り絞り、叫び声をあげた。


「その種類の魔物だけは焼かないで~!」


 それだけ言うと、がっくりと力を失った。

 色々と大事なイベント見損ねた気がする? いやいや、今はそんなのどうでもいいんです。

 どうでもいいんですよ!


 『我が騎士』が女の子なんて真実は見たくも聞きたくもありません!


 肉よ! どうか無事でいてくれ!

 


ルゼ「決まった訳じゃないから!」


ルゼ、心の叫び…。

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