第20話 真実からは目を逸らせ!
「だぁ~れぇ~かぁ~、冷やしたタオルゥゥゥゥ」
「や、その喋り方も怖いから」
シニヨンが言いながらタオルを取り出し、私の顔をごしごしと拭き取る。
とりあえず、まだ倒れてないからこれはこれで進歩である。
「ほっぺがジンジンする」
うん、このジンジンが作用して気を失わずに済んでる気もするけれど、これって大丈夫なジンジンだろうか? 現在頬がいつもの3倍ぐらいになっているように感じるのだけど?
チラリとシニヨンを見ると、彼はさっと目を逸らした。
うぉい!
まぁ、名誉の負傷ということにして、周りを見れば、上級の魔物がいなくなったことで、散り散りになっていく魔物の姿が見える。
このまま放っておいても大丈夫だけれど、ここにいる魔物は孤児院の近くの森に住み着いているのだ。できれば今後の為にも狩っておいて欲しい。
「ブリさ~ん! 全部仕留めてー!」
「無茶言うな! 数多いぞ!」
何のための騎士団だ。
まぁ、ブリオッシュが騎士団を率いているわけではないので、彼と騎士団ができるだけ倒してくれることを祈ろう。
頼んだとばかりにサムズアップすると、そこへカールが駆け寄ってきた。
「ルゼは早く治療に行った方がいいな。顔が…ものすごく…えぇと…健康的?」
なんだろう、その微妙すぎる表現。
「何をもって健康というの?」
「いつもよりふっくら」
ふっくら? え? ふっくらしてるの私? そんなこと言われたのこの人生初だよ~。嬉しいね…。
なんて喜ぶと思ったら大間違いだ! どんだけ腫れてるんだ私の顔!
「顔が戻らなくなる前に冷やしてくる…」
うぅと頬を手で冷やしながら、孤児院に向けてぽてぽて歩き出す。
今立っている場所から孤児院まではそんなに遠くないし、こちら側に魔物はいないからもう大丈夫だ。それに、空の月もそろそろ戻り始めている。
重い足取りで孤児院の入り口近くまで戻ると、ようやくやれやれと息を吐けた。
だが、後でおいしいお肉の確認しないと寝れない…。
孤児院のドアまであと少し…という所で、孤児院の入り口横の茂みから突然黒い影が飛び出した!
魔物だ!
小さな餓鬼のような魔物に飛び掛かられ、共に地面を転がる。
その魔物の爪は私の目を抉らんと伸びてくる。
「ぎゃあああ!」
「ギュアアアア!」
まさか、ここにきてこんな魔物と本気の取っ組み合いってどうよ!
「ぎゃあああ!」
「ギュギュギュギュギュアアア!」
こんだけ叫んでるのだから誰か助けにこんかー!
心も口も叫び声をあげていると、空の月がようやく姿を現す…と思ったのだけど、何やら月にほくろが見えた気が…。
ほくろ?
「ギュアアアアア!」
「うわっ、ちょっ、目がやばいっ」
余計なことに気を取られれば、目のあと数センチ先に迫る餓鬼の爪! そして、プルプル震える筋力のない私の腕!
もはやこれまでかー! と思いつつも目は閉じられず、じっと餓鬼を睨みつければ、その餓鬼の顔が歪み、そのまま私の体の上から飛んで行った。
「大丈夫か!?」
お? 月から落ちてきたほくろ…。
じゃない、月の光を遮っていたからほくろに見えただけの、空から落ちてきた人だ…。
何やら、背の高い男の人が私を見下ろしていた。
「ダレ?」
「そう言うそなたも…誰か判別できぬ顔になっているな。まぁ、臭いでわかるが」
もう指一本動かせない体をふわりと抱き上げられ、スンと鼻を寄せられた。
長い紅の髪は適当な三つ編みで結われ、急いで着たのか、騎士服は随分と着崩された状態。顔立ちはとても整っているが、全体的に…色気むんむんなお兄さんだ。
そんな男性が、私の臭いを確認するようにスンスン鼻を鳴らす姿は…とても残念だ。
にしても、紅い髪と言えば…。
「…ひょっとして…シャル?」
こんな野性的な男の人に知り合いはいないので尋ねれば、何とも悩殺的な笑みを向けられた。
美形の笑みは百億ボルト!
「昇天しそう!」
「それはまずいな。すぐに手当てを」
「いや、それはともかく、シャル、魔物を倒してぇ~。えふぅっ!?」
シャルは私を抱えたままグルッと勢いよく振り返り、目を眇めた。
「何の用だ、娘」
一瞬、遊園地のアトラクションのコーヒーカップの心地を味わった私は、シャルの腕の中で半腐乱死体だ。
もうヨダレが垂れてようが、白目剥いてようが、意識があるだけ進歩進歩。
いやいや…。
見えないと意味ないし、と軽く首を振って焦点を合わせると、私達の目の前には、例の子供が。
少女だというその子供は、こちらに剣の先を向けて立っていた。
「そちらのお方は我が主となるにふさわしき方。あなたが何者かは知らないが、不埒な真似をするならばここで敵とみなす」
・・・どっかで聞いたようなセリフだ。
記憶の片隅の方にあるんだけど…。
あれは確か…リューク時代の我が騎士との…。
うん、ここは聞かなかったことにしよう。そうしよう。絶対いいことないし!
私は魔物の死体を焼き始める騎士達を視界に収めると、今まさに一つの魔物を焼こうとした騎士に向かって力を振り絞り、叫び声をあげた。
「その種類の魔物だけは焼かないで~!」
それだけ言うと、がっくりと力を失った。
色々と大事なイベント見損ねた気がする? いやいや、今はそんなのどうでもいいんです。
どうでもいいんですよ!
『我が騎士』が女の子なんて真実は見たくも聞きたくもありません!
肉よ! どうか無事でいてくれ!
ルゼ「決まった訳じゃないから!」
ルゼ、心の叫び…。




