第17話 バシバシいきます
「ピンチはチャンスと言うし、敵の数は…ざっと100程度。何とかなるでしょう。ていうか、なんとかして」
とりあえず試しに皆に頼んでみた。
こちらの数は約20。そのうち、戦闘経験があるのなんて片手で足りる数だ。
ふむ。射肉祭実行委員長たる私だが、結構絶望的だね。
「何とかなるか! 少しは数を減らして…」
ぶつぶつと呟くのは、今年中には孤児院を巣立ってしまう一番年上のカール君。もちろん戦闘経験もあって頼れる兄さんだが、乱戦経験はないだろう。
今はこのピンチをどう切り抜けるか彼なりに考えを巡らせているらしい。
その間、私とエヴァンは草を燃やしていた火の上に砂をかけ、風によって香りを散らさせた。
普通ならこれで魔物が散らばっていくハズだ。
魔物に司令塔がいなければ…。
「どうかなぁ?」
「…何にも起きないな」
変化なしでした。
どころか、魔物達がゆっくりとこちらに向かってくるのが見えた。
これはヤバい。
「シニヨン! すぐに騎士団を呼びに行って!」
「は?! 僕!? て、ルゼでもなんとかならないくらいヤバいの?」
慌てるシニヨンに、私は皆には見えないよう小さく肯く。
野原を駆けてくる黒い影と呼吸音は、松明を照らす私達には見づらいが、彼等はこちらをすでに捕捉している。しかも、統制が取れた動きをしているので、ちょっとまずいことになりそうである。
魔物の司令塔…。それは、とっても危険な上級の魔物である。
アマゾネス時代に遭遇したのは1回。
リューク時代はかなりの回数討伐に出たから遭遇回数も多いが、あの頃は自分も周りも強かったからよかったのだ。今は自分も周りもあまり強くない。
だからこそ、この国の騎士団に何とか協力してもらわねばならないのだ。
「私が気絶する前によろしく!」
「それって五分以内だよね!?」
冗談だろう!? と言いたげな表情で見つめてくるシニヨン。
確かに5分以内は…無理そうだから…。
「エヴァン、気絶する度に私を叩き起こして!」
「わかった」
そこで真剣に頷かれると、どうやって起こす気なのか気になる所だけれど、今は緊急事態だ、甘んじて受けよう。
「お、俺達も騎士団を呼びに…」
及び腰な年長の子供達が目を泳がせながら聞いてきたが、私は首を横に振って前方に目を据えた。
「魔物を呼び寄せる草の香りとは関係なく、魔物は王都を狙ってきてる。ここで止めないとたくさん町の人が襲われるよ」
轟と冷たい風が吹き、一気に松明の火が消える。
私はその場に足を踏ん張ると、少々低めの声で、緊張する子供達に静かに告げた。
「ここは死守するぞ、小僧共」
ひゅっと息を飲む声がした後、その場の空気が変わる。
子供達が剣を構えたのが暗闇に慣れた目に映った。皆孤児だけど、人を護ろうという心構えは強く育っている。
そして、覚悟を決めた子供達は口々に告げた。
「お前の方がガキだろうが!」
「5分しか持たないちびは下がってろ!」
「ちびに言われちゃおしまいだ!」
私への文句を…。
て、なんでだ!
全員の戦闘意欲を高め、私の戦闘意欲がだだ下がりしたところで、ドドッと魔物が地を蹴る音が響く。
私は左から右へと、宙に線を書くように手を動かすと、ちょうど野原の中央辺りにぽっぽっと白い光が灯っていく。
その光が映し出すのは、うじゃうじゃと出てくる魔物だ。
「数が…」
「大丈夫だ。よく見ろ。あそこにいるのはどこにでもいる下級の魔物だ。俺達でもなんとかなる」
年長のカールが震える子供達の肩を叩いて励まし、全員じっと息をひそめる。
昼に仕掛けた罠は、本来ならば中央近くまで呼び寄せた『お肉がおいしいクマ五郎』を痺れさせるものだったが、少々威力を上げねばならないだろう。
クマ五郎よ…丸焦げにならないで…。
いまだ肉への希望を抱きつつ、魔物の大部分が範囲内に収まったのを見計らって、魔力を一気に練り上げた。
放つ魔法によって体の周りに薄い色のついた風が巻き起こるが、今回私を包み込むのは光。
足元から一気に頭上へと集まり、腕を頭上に向けると、その指の数センチ先に金色の魔法陣が浮かび上がる。
その大きさはは自分がすっぽり入るくらいの大きさだ。
『堕ちろ』
パシッと空気を震わす音がした後、そのまま腕を振りおろせば、魔法陣も前方に移動し、それは昼間地面に描いてもらった魔法陣を浮かび上がらせ、次の瞬間、雷が野原の広範囲に迸った!
「落ちるって言うか、上に飛び出てる感じだよねぇ」
「オチルの意味が違うの!」
揚げ足を取る子供に説明をした後、そのまま自分もがっくりと落ちた。
が、すぐにバシバシと頬に何か当たる感触がして意識が戻ってくる。
「ほら、起きろ!」
エヴァンに頬をバシバシと、結構強めに叩かれて目が覚めた。
「いひゃい…」
「はい、次」
はい、次って、これ結構痛くない!?
自分で言っといてなんだけど、この気絶回復作戦…私のダメージが多くないですか!?
ちょっぴり熱くなった頬をさすりながら、私は第二撃目を構えたのだった。
ルゼ 「敵にもバシバシ…私にもバシバシ…」
エヴァン「何か言った?」
ルゼ 「何でもありまひぇん…。頑張りマス」
エヴァン「頑張れ」