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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
孤児院編
16/97

第16話 射肉祭開始!!

「そこで右! 二歩で左! 斜め前に3歩! そこからこっちへ走ってきて!」


 竜人二人が動きに振り回されながらも、一番複雑な模様をうまく書き終えると、二人はどっかりと私達の前に座って大きく息を吐いた。


「筋肉を使うな、この訓練は」

「一定の場所を同じように反復するわけではないので、結構きついですね」


 でしょうとも。訓練じゃないし。

 

「お疲れ様です。お水どうぞ」


 サーシャがコップにヘルムンドの『体に良い水』を入れ、イマネアとフィセルに一つずつ手渡すと、それを見た子供達がごくりと喉を鳴らす。

 全員喉が渇いているのもあるが、やはりヘル爺の『体に良い水』が飲んで平気なものなのか気になるのだ。


「? 喉が渇いているのなら皆も飲んだらどうだ?」

「いやっ、僕達はさっき飲んだからっ」


 子供の一人が両手を振って拒否すると、周りの子供達もものすごい勢いで首を縦に振る。

 とっても怪しいが、そんな様子に首を傾げながらもイマネアはごくごくと水を飲み干した。

 

 おや? 何ともないのかな?

 チラリと目をやれば、フィセルもごくごくと飲み干したところだ。


「うん、うまいな」


 その一言に、子供達がやっぱり喉が渇いた! と一斉に飛びついた。

 私もサーシャに一杯貰い、ごくごくと飲み干して、皆が「ぷはぁ~っ」と声を上げた瞬間だった。


「「うっ」」


 イマネアとフィセルが口を押えたかと思うと、共に膝を着き、子供達全員が青ざめた。

 これは、まさか、遅効性か!?


 そう思った瞬間、胃の中から湧き上がってくる苦みと臭み、さらには口の中に広がるレモンなど目ではない酸味に、子供達全員が大絶叫し、野原にバタバタと倒れて行った。

 時間にすると、丁度ヘルムンドが字の勉強をするために外に出てくる頃合いだ。


「ぜ…全部計算ずく…?」

「恐るべしヘル爺」

「最後が…酸っぱい」


 私達は、ヘル爺が傍にくるまで、ピクリとも動けず倒れていたのだった。その効果も授業が始まる直前まで…。

 あ…、アリエナイ。

 

「ふむ、少々苦みと酸味が強かったか。しかし、疲労回復に気絶効果はちょうどイイだろう」


 その後、改良を重ねたヘル爺の『体に良い水』は、その名を『竜人殺し』と変え、炎天下で働く男達のスポーツドリンク的役割を果たしたとかなんとか…。



______________



「ヘル爺殿の水は毒薬よりもすごいな!」


 イマネアが褒めてるのかけなしているのかわからない言葉で、ヘルムンドに水の感想を言った後、そのまま上機嫌にくるりと子供達を振り返り、膝を曲げて目線を合わすと、ふいに真剣な表情で告げた。


「よいか子供達。今夜は絶対に外に出てはならんぞ。ここは森に近い。魔物も出てくるやもしれん」

「月食だからね」

「そうだ。サーシャも賢いな」


 サーシャの頭をぐりぐりと撫で、イマネアは皆に絶対に孤児院から出てはならないと何度も告げ、城へと戻って行った。

 その背を見送り、子供達は皆目線を交わして頷き合う。


「あ~、お前ら、何をするつもりか知らんが、夜はマザー・イオニアを何とかせんと外には出れんぞ」


 そう言えばヘルムンドがいたっ! とばかりに全員がびくっと体を震わせる。

 子供達に隠し事は難しいとは知っているけど、ここまであからさまだといっそすがすがしいなぁ。

 

「それなら大丈夫」

 

 サーシャがにっこりと微笑んだ。

 うん、策はすでに皆に行き渡ってるけれど…。

 犠牲にした少女達の視線が、ぶすぶす背中に突き刺さって怖いね…。





 そうして迎えた新月の夜。

 孤児院の祈りの間からは少女達とマザーの祈りの声が響く。

 12歳以上の少女達は、今回マザーを足止めすべく、この新月の夜を無事越えられるよう共に祈りを捧げることになり、まぁ、要するに犠牲になってくれたのだ。


「私達も参加したかったのに!」

「たくさん肉を獲ってきてよね!」


 うん、無事にアマゾネスミニが育っている…と思ったよ。

 恐ろしい。

 頼むから崖から突き落とさないでね。

 ちなみに、小さい子供達も居残り組だ。

 


 野原で剣を持つのは12歳以上の少年達。

 剣は古くなって刃が欠けた物や、錆びた物、新調の際いらなくなった物を貰って再利用している。そのせいか、一部の剣の刀身は、研ぎ過ぎで普通の剣よりも短く細い。

 

「作戦かくにーん。まずは魔法陣。あそこに立ってる木の棒より前に行かないこと。魔法の餌食になります」


 シニヨンが作戦確認を始め、野原に立てた木の棒を指さす。

 距離としては森と孤児院のちょうど中間辺りだ。


「魔法で弱らせた後は皆の出番です。必ず二人一組で戦って下さい。剣を持っていない人は弓矢で攻撃、仲間を撃たない様に注意」

「質問! いつもデカい魔法は使用禁止って言ってたのに今日はイイの?」


 私はエヴァンとヘルムンドからもらった草を燃やし、魔物をおびき寄せ中、煙に巻かれて危うく火の中に倒れかけ、皆に救われながら聞いていた質問に答える。


「魔法探知能力も激減するから大丈夫です…ごふっ、ぐほっ」


「よっしゃ、俺使ってみたかった魔法あるんだ!」

「あ、俺も俺も」


 12歳以下は初の戦闘に少々浮かれ気味だ。

 足を引っ張らない様に注意しておかないとね。


 そうこう言っているうちに、草の臭いにつられたのか、森の方がざわざわと蠢く。

 空の月もその姿を闇の中へと隠し…いざ、戦闘開始。


「来るぞ!」

「「「おう!!」」」


 子供達に気合が入った瞬間、森から飛び出たのは…。


「「「「え?」」」」


 森の入り口を埋め尽くすほどの、


 大量の魔物でした…。



「・・・・・」

「・・・・・」


「・・・・あ、草の量入れ間違えてた」


「「エヴァン!?」」


 悲鳴が上がり、私も魔物の数と種類を変に思って、手の中を確認してみる。

 すると衝撃の事実が!


「おぉ、草の種類が豊富だった」


「「お前もか!!」」


 確認は大事だね、と実感した瞬間だった。

 なにはともあれ、始めから大ピンチ到来であるが、


 射肉祭開幕です! 



ヘル爺特製『竜人殺し』

竜人ですら一瞬で回復すると言われる回復ドリンク。

汗をかいた後、疲れがたまってだるいと感じた時などにお勧めです。


とある建築職人さんに聞いてみました。


「竜人殺し、いかがでしたか?」

「おう、ありゃすげぇ。疲れてぼーっとしている時に飲んだら、一瞬気を失った後、すげぇスッキリしてたよ。ただし、飲んだ場所が二階部分の足場だったから、目が覚めた時には落下してたけどな!」


がっはっはーと笑う職人は、全身打撲になったものの、疲れはとれたようです。


「ヘル爺特製健康飲料水!

 沸き上がる激臭と染み渡る酸味。

 空白から帰還した時、全ての疲労は消え失せる!」


注意:飲む場所には気を付けましょう


以上、王都ルーヴェン新聞社健康部&トゲソフト様でした!

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