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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
孤児院編
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第12話 夜の出会い

「ふぬぅ」


 それは眠れぬ夜の事。

 イマネア達と知り合ってから数日、彼等に本格的に武術を教えることになり、参ったなぁと思いつつも結局教えてしまう毎日を過ごし、少し体力がついてきたかもしれないという今日この頃、眠れぬついでに筋トレを実行してみた。


 まぁ、筋肉なんてないに等しい体なので、皆と同じように足上げを実行しても、一ミリとて上がらぬこの現実。

 健康優良児だった優花、肉食恐竜と呼んでも間違いないイリューゼ、最強の名をほしいままにしたリュークであったこの私…ルゼ・フェアルラータ…泣けてくるわ…。


 まぁ、今世では儚い美少女として育って、世の男性達にちやほやされるのが目標だから強くなくてもね。

 と自分に言い聞かせ、しかし、せめて人並みにはなりたい(人間と識別されたい)ので、日々努力は続けているというわけだ。

 

「はふぅぅ」


 結局少しも上がらぬ足に絶望じみたものを感じながら、ふと窓の外を見やれば、月の光が突然消え去り、次いでバサッという鳥の羽音にも似た音が響いた。

 月が雲に覆われたにしては突然過ぎる??


 私の部屋は四隅に2段ベッドが4つあり、その横に机が二つずつ並んでいる12畳程度の部屋だ。

 そこに私を含めて8人が詰め込まれているのだが、私以外は昼間と夜の特訓疲れで、目を覚ますことはめったにない。

 もちろん私の悩ましい筋トレの声でも目は覚ましていない。ということは、今、外の異変に気が付いたのは私だけである。


 そぉっとベッドを抜け出し、壁に背を付け、手近な武器として小さな机のボロボロのペンを掴む。

 こんなものでも先は尖っているので武器になる。

  

 幸い私のベッドは窓側の下の段。動きも少なくてすむし、壁にそって動けば外からは気付かれまい。

 さて…こんな孤児院を狙うのはどんな泥棒か、それとも迷い込んだ魔物か…。


 チラリと窓から外を覗き込み、私は目の前の光景に目を丸くした。


「あえ?」


 目に飛び込んできたのは、真っ暗闇の中に浮かび上がる金色の…目玉?

 目玉は私に気が付いたのか、ぎょろりとその目を動かして明らかに私を見つめていた。


 魔物…カナ?

 全貌は見えないけれど、かなりの巨体だ。


 とりあえず、危険なモノかもしれないので、そーっと窓を開いて相手を驚かせないようにしつつ…隙を見てジャンピング・ペンぶっさし攻撃!


 先手必勝はアマゾネスの基本の極意だ!

 相手を刺激しない? そんな方法はアマゾネスの辞書にはない! リュークの辞書にはあったかもだけど。


『!』


 何のイキモノかは知らないが、それは私の手の中に有る尖ったものに気が付いたのか、驚く速さで身を引いたかと思うと、ジャンピング・ペンぶっさし攻撃を繰りだした私は、当然窓から飛び出した形になるわけで…。


 万有引力の法則? 私はリンゴ…。

 じゃなくて! やはり落ちてるし!


「ひやぁぁぁぁぁぁ~っ」


 落ちながらも私が見たのは、私の攻撃を避けた生き物の姿だ。

 それはあらゆる生物の頂点に立ち、時に人の姿もとれる万能の生物と呼ばれる…竜であった。


 竜なんて久しぶりに見たよ! と、興奮している場合でもなく、地面が目の前!

 余計なことを考えたせいで、華麗に着地はできそうになく、他にできることと言えば、自分に結界を張ってこのまま無様に地面にめり込むか、浮遊の魔法を使うか!


 なんて、そんなこと考える暇が2階部分から落ちた私にあるわけないのよ。

 

 あと少しでものすごい衝撃が! 


 という所で、竜の翼にすくわれるようにして拾われ、その皮のようなトランポリンのような翼の上で、ぽん、ぽん、と軽く跳ねながら体はくるりと回転してちょこりと座る形になった。


「助かった…」


『それは良かった、が…それは抜いてくれ』


 ほっと息を吐いた私に、痺れるような、ぞくぞくとするような甘くて低い声を響かせ、竜は私に何かを頼んだ。

 まぁ、命の恩人ですから、警戒心はもう持ちませんよ。

 素適ボイスに惑わされたわけでは無いと言っておこう!


 竜の視線の先へと目をやれば、弾力のある翼の丁度中央辺りに…。


「ギャー! 刺さってるよ!」


 私が持っていたペンがぶっすりと刺さっていた。

 ぺんぶっさし成功! じゃなくて!

 助けてもらってこの仕打ち! 不可抗力とはいえ申し訳ない!


 歩きにくい翼の上を、這うように出来るだけ急いで進み、ペンを抜き取った。

 血は…毛穴程度だ。後でチクチク痛むかも。


「ごめんなさい」

『気にするな、驚かせたこちらに落ち度がある』


 いい(ひと)だ。 月明かりでわかりにくいが、間近で見れば彼の体色は紅。竜の中では最も獰猛で短気と知られる紅竜だというのに、彼は怒ることも無くそっと私を地面に降ろしてくれた。


『子供は眠っている時間だろう。なぜ起きている?』

 

 ゆっくりとその巨大な頭が私の前に降りてきて、鼻息がぼふーっぼふーっと私の前髪をかきあげる。

 近いっす…。


「眠れなくって…。ひょっとして、精霊の前触れかな」


 この世界では予感めいたものを感じると、精霊の前触れと人は言う。だから、私も皆にならってそう言ったのだが、竜は何が嬉しかったのか、スリスリと鼻先を私の胸に摺り寄せてきた。

 竜の愛情表現は嬉しいけど、初対面にしてはちょっとスキンシップが激しい竜だな…。

 そのまま私はすってんころりと地面に転がった。


『っ、すまん』

「いいよー。それより、えぇと…竜さんはここで何してたの?」


 竜はほんの少し顔を引いて離れると、照れるように横を向き、何やらゴニョゴニョと言葉にならない言葉を放った。


「何?」


 首を傾げれば、竜は再びこちらを向いてガッと口を大きく開き、いよいよ(何がきっかけかはともかく)機嫌を損ねたのかと思えば、竜の声は周りに気を使って小さく響いた。


『散歩だ!』


 絶対違うでしょう、とは言いませんでしたよ。

 そこは大人の配慮で! 


 なんか、変な竜に遭遇しちゃったなぁ…。

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