第11話 技を取得するには…
一部お下品な表現があります。
「では、私は皆に昔の話を持ってくることにしよう」
イマネアはヘルムンドの提案で皆にお話を聞かせてくれることになった。
で、その見返りはと言えば…。
「やっぱりこれなのか…」
がっくりとうなだれる私の前には、期待に満ち溢れたイマネアの姿が。
我が孤児院は字の勉強の後はお昼寝タイムだが、この時間はマザー・イオニアが他の孤児院の院長と運営についての会議をする時間なので、私達はマザーのいない間に訓練をするのである。
ヘルムンドはこのこともお小遣いの事も知っているようだが、いつもそらとぼけてくれるので良しとする。
子供達は手に木の枝でできた少々お粗末な木剣を持ち、剣の稽古や体力作りに励む。
もちろん私も今後のために体力づくりである。
だが、本日はイマネアの希望通りに例のアマゾネスの技を教えねばならないらしい。
「12歳以上の子供がいればなぁ…」
すでに12歳以上の子供はあれをマスターしているので、かわりに教えてくれるのだけれど、今は仕事の時間なのでここにはいない。
帰ってくるのは夕方過ぎなので、彼等に教えを乞うならば夜のお稽古時間なのだが、その時に来てとは言えないし…。
となると、私が直接教えることになるのだが。
「・・・・ちなみにイマネアとフィセルさんとどっちが覚えるの早い?」
チラリと二人を見上げて尋ねると、イマネアは胸を張る。
「もちろんっ」
「私ですね」
間髪入れず、イマネアの言葉に続くセリフを防ぐ形でフィセルが告げた。
あ、イマネアが撃沈した。
「じゃあ、ネアは私を抱っこしてください」
フィセルに技をかけるにしても、背が足りない。
イマネアはしょんぼりしながらも両手で私の脇の下辺りを持ってひょいっと持ち上げると、なぜかそのまま上下に振った。
「うををををを。何をするか!」
酔いかけたのでべしべしイマネアの腕を叩けば、彼女は我に返ったように動きを止め、首を傾げた。
「食べているのか?」
「それ、よく言われるけど、食べてますよ。ほら、ちゃんと支えて」
「お、おぉ、すまない」
では、さっそく。
私はそのままフィセルの首筋へと手を伸ばす。
大人の男性に触れるなんて何年ぶりだろう? あ、ヘルムンドは別ね、もちろんブリオッシュさんや町のおっさん達も除外。
ピタッと右手を首筋へ、左手はフィセルの肩に置いた。
んで、ここからが本番。
アマゾネスの本業は狩り。時には動く獣を多く気絶させるほどの気迫を周囲に飛ばすことがあるのだが、さすがにそれは物騒なので、こうやって対象を絞り、流し込む。
すると…。
「!」
フィセルは真っ青になってその場に膝を着いた。
「な、何をしたんだルゼ殿!」
イマネアは私を降ろし、フィセルの状態を確認しはじめる。
フィセルは真っ青で動けないものの、意識はあって、そろそろと手を動かし、大丈夫だとでも言いたげにイマネアに掌を向けた。
「気迫とか、殺気とか、いろいろ言われてるけど、要するに相手の恐怖を呼び出す技です」
「恐怖?」
「相手を上回る気迫を向けることで、どうやら死に直面した時のような、動けなくなる感覚になるようです」
蛇に睨まれた蛙というのが丁度いいだろうか?
「だが、そんな気迫を6歳の子供がどうやって」
フィセルに青い顔で見上げられ、私は腰に手を当て、胸を張った。
これは聞かれるだろうと思っていたので、答えは用意してあるともさ!
「それは!」
「「それは?」」
フィセルとイマネアがごくりと喉を鳴らして答えを待つ。
「わらひがまひぇるひらいひゃから~(私が負けず嫌いだから~)」
よし、言えた!
私は気迫疲れに襲われ、そのままばったりと後ろに倒れた。
「い、今なんといったのだ!? あの技はどうやって得るのだ!?」
慌てるイマネアの姿を見て、のんびりと腹筋や足上げをしていた子供達が答える。
「それねぇ、いつまでも出ない朝のうん〇との戦いで手に入れられるんだって~」
「べ、便秘か! 便秘になればいいのか!」
そんなわけないだろう!
それはブリオッシュの技入手方法だー!
しかし、誤解は私が目覚め、彼女達が便秘になれぬと泣きつくまで、解けることはなかった…。
ブリオッシュの技入手方法…
ブリさん「あれはな…、腹が詰まって、はち切れるんじゃないかという恐怖と戦うことで手に入れることができるんだ」
子供達「「「へぇぇぇぇ~」」」
ルゼ 「それだとアマゾネスは全員便秘か!!?」
その日から、ルゼはなんとなくお腹周りの筋力アップに努めたそうな…