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虚弱巫女の健康日誌  作者: のな
孤児院編
10/97

第10話 6歳に負けた…

「時間切れだ!」


 孤児院の薬師ヘルムンド、通称ヘル爺さんの声にばちっと目を覚ますと、そこには茶色い髪に緑色の瞳をした竜人の綺麗な顔があった。


「・・・・・雄だ」

「は?」


 思わずアマゾネスの頃の雄雌のくくりで呟いてしまったが、今、私の目の前には、青年と少年を併せ持ったかのような年代の男性がいた。


 気絶している間、夢の中で見た男は私に愛を囁き、胸に抱き、その甘くさわやかな香りを立ち上らせて私をうっとりとさせたが、その彼がいまここに!?

 これは、これは…私に今すぐ恋に落ちよという天の采配か!


 すんすんすんと鼻を鳴らしてこっそり匂いを確認する。

 あれ? …何か…夢の中で香った匂いと違うような?? 

 まぁ、あれは夢だったし、現実と違っても不思議ではないか・・。


「「「ぐああああああっ」」」


 恋の予感に花を咲かせて幸せ気分に浸っていたというのに、なぜか響く子供の断末魔のような叫び。

 思わず半眼になってそちらへと目をやり、私はぎくりと硬直した。


「へ…ヘル爺」


 目の前にはにんまりと微笑む金髪に青い目、髭もじゃの、老人にはまだ見えない老人薬師ヘルムンドが立ち、その背後では、シニヨン、エヴァン、サーシャが喉を押さえて(うずくま)り、(うめ)いていた。


 ということは、だ。…これはお仕置きの予感!

 ひょっとして私達は勉強の時間に間に合わなかったのか!?


 目を泳がすと、ヘルムンドは私の心を読み取ったかのようにコクリと肯いた。


「いやぁぁぁぁぁっ」

「わっ、こらっ、暴れるなっ」


 我等孤児院の12歳未満の子供達は、お小遣いを稼ぎに行くが、その後はヘルムンドによる字の勉強がある。そのため、皆時間に余裕を持って孤児院に戻るようにしているのだ。それができなかった者は、きつーいお仕置きを受ける。

 そして、今現在それは私に課せられようとしている…。

 

「さぁ、口を開けろルゼ」


 迫りくるヘルムンドの手には丸い丸薬が一つ。

 ヘル爺特製、地獄の苦玉…。

 あれは駄目だ、あれを口にすると、あまりの苦さに必ず皆昇天する。


「た、タスケテっっ」


 とりあえず私をお姫様抱っこしていたらしい男の首に腕を回してすがりついた。

 …懐かしの男性の感触。

 役得だ~。


「ご老人、彼女はつい先ほどまで意識を失うほどの体調不良だったのだ、刺激になるモノは…」


 どうやら傍にはイマネアがいるらしく、必死に取り成してくれる。

 

「まぁいい。そう言えば、お前さん達は誰だ?」


 お、どうやらヘルムンドの気は削がれたらしく、私はほっとして男の首から腕を離し、正面を向いた。

 が、それもヘル爺の作戦だった!


 正面を向いた瞬間に口をこじ開けられ、口の中に丸薬を放り込まれたのだ。


「お・・・おぉぉぉぉっ」

「・・・相変わらず地獄の底の死霊のような声だなぁ」


 爺さんめ!

 私は恨み言を心の中で吐き、滝のような涙を流し、今度はサーシャ、シニヨン、エヴァンと共に濁流の川を流れる夢(?)を見たのだった。




__________________



「口の中が苦い…」

「うるさいぞっ。しっかり書き取らんか」


 ヘルムンドに叱られつつ、無事夢の中の川から生還した私達は、いまだ涙と鼻を流しつつ、現在孤児院の庭先で草の上に座って小さな黒板を手に文字の練習中だ。

 

 この間にイマネアはヘルムンドに自己紹介と挨拶をし、私は聞き耳を立ててイマネアに紹介されたお目付け役という男の名前を知った。

 彼の名はフィセル。家名は伏せられたが、彼もイマネアと同じ竜人(アンフィス)で、イマネアよりは年上だが、まだまだ若いそうだ。

 100歳くらいだろうか。見た目は20代前半だ。

 

「アンフィスってなーにー?」


 サーシャと同じような質問が子供達から飛ぶ。


「アンフィスって言うのは竜と人の合いの子なのよ」


 えへんと胸を張るサーシャの言葉に、他の子供達から「おぉ」と声が上がる。

 サーシャも先程知ったばかりなんだけどね。


「竜により近い竜人は1万年を生きると言うが…」

「我々はおそらく2000年ほどでしょう。我が祖父は8000年近く生きているそうですが」


 ヘルムンドの問いにイマネアは答える。 


 8000年前というと、私がアマゾネスだった頃かな。

 あの頃は空にたくさんの竜が飛んでいて、よく友人達と一緒になって竜を叩き落として遊んでたなぁ。

 いつも落とした竜とものすごい喧嘩になったけど…。


 生物の頂点に挑むなんて、つくづく無謀な種族だったとしみじみとして頷く。

 だが、その無謀さのおかげで竜人や竜と婚姻を結んだアマゾネスもいるにはいる。

 まぁ、多くが襲いかかる形で勝手に婿にしてしまったのだが…。


「この子らは3000年前に実在したと言われる幻の帝国の話が好きでな。その頃の話があったらぜひ聞かせてやってほしい」


「ぬあっ」


 驚いた私の手からチョーク代わりの白い粉石がすっとんで行った。


「何をしとるんだ」

「えへへへへ」


 ヘルムンドに石を拾ってもらって笑みを浮かべると、イマネアが大きく目を見開き、その後ろのフィセルが微笑を向けてきた。

 なんだ??


「ルゼ殿は実は(・・)かわいいのだな」

よくみると(・・・・・)兎のようですね」


 ・・・・・・・・これは、褒められてるのか?

 

「サーシャの方が可愛いよっっ。ほら、見てみてー」


 兎と言われたせいか、髪をツインテールの様にして掴んだサーシャは、その場でぴょんこぴょんこと兎のように跳ねて見せた。


「可愛いですね」


 フィセルはにっこりと微笑んでその姿を褒め、サーシャもにっこり微笑んで、二人はしばらく見つめあった。


 …あれ? 私、6歳児に負けてるのか!?


「のぉぉぉぉんっ!」


 いかーん! とばかりに叫び声をあげると、隣の少年達がびくっと飛び上がる。


「うおっ、いきなり叫ぶなよ」

「ルゼって、マンドラゴラみたいだよな~」


 少年達は無邪気に笑った。

 

 オノレ、がきんちょ…。


 兎から一転、私は不気味植物に降格したようだ…。

  

ルゼもまだ6歳です…。

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