~第一章~
こちらはコラボ作品でございます。
【ストーリー:福島いるか】
【原案・編集:如月俊一】
載せるのはいるかがやっているので編集後に追加したりすることもあったりなかったりwwww(内緒ですけど……w
これはとある少女の物語。
少女が住む『平和な世界』の裏側――逆世界には『争いの絶えぬ世界』があった。
逆世界は『モンスターが支配する国』と『軍事力が発達している国』で出来ている
闇の力で支配しようとする国―【ログディア】
モンスターの好きにはさせないと戦う軍事国―【ハンデュート】
そしてそんな世界などあることすら知らない平和な世界へ、逆世界は静かに侵食を始める―…。
「はぁ~毎日毎日学校来るのめんどくさいなぁ……。」
とぼやいているのは主人公の萩野 灯。
灯は、どこにでもいる平凡な女子高校生。
そう…本当に平凡な女子高校生だったのだ、この日までは……
学校の委員会活動で帰るのが遅くなり、辺りはすっかり夜の闇が包んでいた。
灯は普段夜道を一人で歩くことなどなく、少し怯えながら家路を急いでいると後ろから肩を“トントン”と誰かに叩かれた。
恐る恐る振り返ってみるとそこには、
「ひっ…!」
灯よりも倍の背丈をした化け物が立っていた。
あまりの恐怖心に灯は声も出せず、目を逸らせないまま震えることしか出来なかった。
今、声を少しでも出せば、目を大きく逸らせば、敵に背後を見せれば、その瞬間自分は確実に殺されてしまう……そう思ったからだ。
(誰か…助けて…助けて…!)
心の中で幾度となく繰り返す様に助けを呼ぶと、化け物の後ろから刀を振り下ろす焦げ茶の髪色をした少年が見えた。
人間の大きさなど遥かに越しているというのに彼は驚異的な跳躍力だけで化け物の頭よりも高い位置に飛び上がりそのまま刀を怪物に向かって振り下ろした。
すると、ぐしゃりと肉が刀により無残にも切り裂かれる音が聞こえると同時に化け物の背中からは血飛沫があがった。
そして、化け物はうめき声をあげた後ゆっくりと方向を変え少年のほうを向いた。
すると少年がニヤリと笑いながらこう言った。
「オレが相手してやるよ」
彼は口の端をくっとあげながら余裕の表情で立ちながら化け物に、もっと広い場所に行こうと提案を出したが、もちろんそんな言葉を化け物が分かるはずもなく、背中を切られた化け物は彼に向かって突進してきた!
向かってきた化け物に対して呆れた表情を見せ、ため息を漏らしつつも彼の瞳は輝き、不敵な笑みを浮かべながら刀を構えた。
そして、灯が気づいたときには化け物から大量の血が噴出しゆっくりとこちらに倒れこんできた。
しかし、地に着く前にその化け物はぼろぼろと崩れ跡形もなく消えてしまった。
(今…何が起こったの?…早すぎて… 見えなかった)
灯はこの状況を飲み込めず地面にへたり込むと、化け物が消えた場所で脱力したまま天を仰ぎ返り血を浴びている彼を灯は見つめていた。
彼は、ふと灯の視線に気づくと今まで発していた殺気を消し、愛らしい笑みを浮かべた。
そのあまりのギャップに灯は別の意味で力を抜けた。
「だいじょーぶ? 怖かったよね」
先ほどの鋭いような声付きとはまったく違う優しい声……。
目の前からいなくなってもいないのにまるで本当に別人になったようだった。
しかし、彼が全身に浴びている血の染みが、彼が先ほど化け物と戦っていた人間と同一人物であることを証明していた。
「っ…あ、あのっ…」
「あ、ごめん。オレ血生臭いよね。 ありゃー女の子の前なのにこれじゃ第一印象最悪だ~」
全身血まみれの彼は灯への印象が悪いことを気にして困ったかのように後ろ髪を掻きながら立ち去ろうとした彼を灯は呼び止めた。
「待 って…!い、今のは一体…?!」
「……。んー…」
灯はどうしても気になった、見たこともない“あの化け物”のことが……。
灯が質問すると彼はすこし考えたあと手を叩き両手を広げ灯に向けた。
「あっ!はい!夢です!これは夢です!」
「ふざけないでください!!」
まるで小学生の相手でもするかのような彼の素振りに灯は声を荒げた。
「ごめんごめんそんな怒んないでよー」
(絶対悪いと思ってないな、この人……)
「さっきのは【ロスト】って言ってね…。 こっちではなんて呼ぶのかな?…よくわかんないけど…とにかくキミには関係ない『オレたちの敵』ってことだよ!迷惑かけちゃったね。まぁ夜道は気を付けて~」
「待っ…!」
気づいたときには彼は灯の目の前からいなくなっていた。
残ったのは夜の静寂と自分だけで本当に夢を見ていたかと思わせるような出来事だった。
彼は一体何者だったのか……
そして彼が言っていた“ロスト”あの化け物はなんなのか……
今まで生きてきてこんな生き物に出会ったことなんて一つもないのになぜ急に……?
軽くはぐらかされた返答やまだわからないことが多すぎてもやもやしつつも、また化け物が出てきても嫌なので灯は走って家へと帰った。
次の日、灯は学校にいた
昨夜のことは未だ整理が出来ていなかった……。
いきなり現れた化け物……
刀を持った少年……
ゲームやアニメの世界ならまだわかる。
だけどこれは現実の世界、あんなものが存在するはずが……ない。
やはり夢なのだろうか…いいや違う!
私の頭が勝手に夢にしたがっているだけだ!!
そう頭の中で昨日のことを考えながらため息をついた。
「はぁ……これが現実逃避というやつなのね…」
なんて乾いた笑いを吐き ながら教室へと向かっていると後ろから肩をとんとんと叩かれた。
「うわぁ!!」
昨日のこともあり過剰に反応を示し振り返ると、そこには叩いたであろう手をあげたまま固まる。
親友―沢野美空がいた。
「なによーそんなに驚かなくてもいいじゃん。ってかこっちがびっくりしたわ」
「ご…ごめん、考え事してて」
「ふーん。」
「あ、ね…ねぇ美空…聞きたいことあるんだけど…。美空ってこの辺で化け物…見たことある?」
「は?」
親友は足を止めると怪訝な表情を浮かべた
「なによ、化け物って?」
「…い、犬みたいな…?」
「はぁ?それ普通に犬じゃないの?」
「いや違うの!犬みたいな顔なんだけど…目がひとつしかなくて、それに!二足歩行していたし、背だってこんーなに!!」
昨日の化け物を説明するように灯は背伸びをし腕を伸ばし掌を寝かせながら大きさを表した。
そんな親友の姿に美空は哀れな表情でため息をつくと踵を上げ必死で背丈を説明している灯の頭をぽんぽんと叩いてこう言った。
「灯、まだ寝ぼけてんの?」
「違うって!本当に昨日、化け物に襲われたんだって!」
「へぇ~襲われちゃったの~?じゃあ襲われちゃった灯ちゃんはなんでここにいるのかな~?そんな化け物に襲われちゃったらここにいるわけないよね~?」
馬鹿にするように笑いながら親友は正論を述べた
「…それは、助けてもらったから…」
「だれに?」
「知らない…」
「やっぱ寝ぼけてんでしょー!ほら今日は1限から体育だよ?しっかりしろー!」
「痛っ!」
おかしなことをいう親友の灯に美空は喝を入れるように灯の頬を両手の掌で挟んで一発叩いて教室まで走っていってしまった。
「本当…なのに…」
そうぽつりと呟くも届くはずもなく。
灯はまたとぼとぼと教室へと向かうのだった。
教室につくと同時にチャイムが鳴り、担任が入ってきた
「お前らー今日は転校生を紹介するぞー」
先生の合図のあと教室の扉が開いて、そこから男の子が入ってきた
「笹村優哉くんだ。みんな仲良くするようにな」
時期外れの転校生は不機嫌そうに教室中に睨みをきかせた後
「席は萩野の横が丁度空いてるな。」
そう先生に言われ灯の隣へと座った
黒髪で耳に赤い石のピアスを2つしている少年は、席につくなり背もたれにだらんと背を預け携帯を開き誰かにメールをし始めていた。
灯は多少彼の行いに驚きはしたものの、やはり頭の中は昨日の出来事でいっぱいで彼の事はそんなに気にはならなかった。
そしてその日の学校の帰り道、いつものように灯は美空と一緒に帰っていると、美空がいきなり
「ねぇ、灯が襲われたのってどこ?今朝言ってたことが本当ならな~んか興味あるじゃん?モンスターとか、未確認の生物見れるのって!もう一回行ってみない?」
「え、嫌だよ…。また現れたら怖いし」
「なーんだ…やっぱり嘘なんだー!!」
「うそじゃないよ!」
「じゃあ信じさせてよ、ねっ?」
美空は灯に笑顔を向けると、もう何も言わせないぞというように灯の手を掴んで引っ張っていった。
それもそうだ、いきなり化け物が現れただの言われても信じるほうがおかしい。
私がそんな冗談をいうような人間じゃないって美空はわかってくれているから、だからこうして証明を求めているんだそう思いながら一歩ずつ昨日の場所まで確かめるようにして歩いた。
(怖いけど、仕方ない…かな。気になるしね。)
美空と灯が辿り着いたのは街頭の少ない小さめの公園。
昨日襲われたのはこの近くの路地だ。
それにここなら昨日よりは広いし、現れても何とか逃げられそうだ……。
(出てこないで、出てこないで)
灯はそう心の中で念じていても親友はどこか楽しそうで目を輝かせて辺りをキョロキョロと見渡していた。
暫くそうしていたが結局なにも現れず日が暮れてしまった。
美空はつまらなさそうに唇を尖らせたあと「帰ろっか…」と残念そうにいった。
(よかった、なにも現れなくて…。もう1度見れば夢じゃないっ て思えると思ったけど、やっぱり怖いしね。)
美空と灯が踵を返し公園から出ようとしたとき後ろからうめき声が聞こえた。
振り返るとそこには昨日の化け物とよく似たモンスターが興奮しているようで肩を上下に荒く揺らしながら口からはヨダレがたくさん出ていた。
「…っ…ほ、ほんとに、でっ…出たっ!」
美空は小さくそう呟くと灯の腕にしがみついた。
灯も同じように美空の手をぎゅっと握った。
化け物は己の尾を伸ばし、それを美空の足に絡みつかせた
「ひっ…!?」
美空が声をあげるよりも先に化け物は美空を引き寄せた
「うわぁ!……やめろ…やめろよ……!!」
あっという間に美空は化け物の元へ
そして左肩に化け物が噛み付いた。
「ぎゃああ ああああ!!」
激痛に美空は叫び声をあげ、そして気を失った。
大人しくなった少女を化け物はあろうことか自分の体内へと取り込みだした
(み、美空の体が化け物と…)
目の前で親友が化け物の体の中へと融合するかのように取り込まれている姿を見つめることしか
出来ず、灯の頭の中は後悔でいっぱいになった
私が化け物の話をしなければ、私が彼女をここに連れてこなければこんなことにはならなかった
「どうしよ…誰か…誰か助けてぇ!」
灯は必死の思いで声を上げた
「はいはーい、呼んだ?」
灯の後ろから軽く弾んだ声色が聞こえた
涙で歪んだ視界で振り返るとそこには
「昨日の…、あれ…笹村くん…?」
灯を助けてくれた焦げ茶色の髪色をした少年と、今日クラスに転校してきた笹村くんが立っていた。そしてその傍らには明るめの茶色の髪の女の子も
「あ?誰だてめぇ」
なんで名前知ってんだとでも言うかのように睨みをきかせる笹村くん
今日、隣の席になったというのに私はそんなに影が薄いのだろうか…?
「ま、そんなのどうでもいいよ。とりあえずそれ、お前の友達か?」
笹村くんが指を指した先には化け物に腹まで取り込まれた親友の姿が
「美空! お願いしますっ、美空を助けてください!」
灯が深く頭をさげると二人は少し話し合いを始めた。
時間がないってのにこの二人は一体なにをやっているんだ
「融合タイプかー、ちょっとやっかいだねぇー」
「めんどくさいっすね。放置します?」
「んー。そうしたいところだけれど放置したほうが面倒じゃない?ほら、そこの子に恨まれそうだし」
「だりぃ……」
(この人たち、人の命をなんだと思ってるのっ?)
「わわっ、すっごいこっち睨んでるよー」
「何見てんだ…殺すぞブス!」
「ひっ!!」
(化け物より怖いこの人たち…)
すると笹村くんの後ろに隠れていた少女が顔を覗かせた
「優哉、お願い。助けてあげて」
「直海…」
彼女が笹村くんに縋るようにお願いすると彼の表情、声は優しさを纏った
「目の前に困ってる人がいるなら見捨てちゃだめだよ!絶対、絶対助けてあげて!」
必死な懇願に彼はニッと口の端をあげると
「じゃあお願い聞いてあげる代わりに直ちゃんは何してくれるわけ?」
「え?」
彼女の表情がひくつく
「人にお願いするんだもんなー、もちろんなにか代償してくれるんだよなー?」
笹村くんはニヤニヤと笑いを浮かべながら、泣きそうな彼女の顔を覗きこむ
彼女の顔は俯き真っ赤になっていて
「…する、なんでも…するから…っ、おねがい…っ」
そう小さく呟いた。
それを聞いた笹村くんは嬉しそうにこれまた口の端をあげて
「ぃよっしゃああ!じゃあさっさと片付けるか!」
意気揚々とどこからか取り出した銃を構えだした。
(ふ、不純だ…!)
笹村くんは化け物に近づくと美空が囚われているど真ん中を蹴りあげ、仰向けに倒れた化け物の体にまたがり何発もの銃弾を化け物の顔に乱射した。
人質だった美空はもう一人の男の人が引っ張り出してくれたようだ。
完全に化け物が死ぬと笹村くんはそそくさと上から飛び降り、それと同時に化け物の体がぼろぼろと崩れ消え去った
すると、美空を助けてくれた彼は気を失っている美空の顔の上に掌を翳し、そして触れるか触れないかの位置ですっと額から顎へと掌を流した
その掌には柔らかな光が放たれていた
「これでよし……。」
気づけば美空の肩の傷も跡形もなく消えていた。
彼は美空を公園のベンチに寝かせた後そっと灯に近づいてきた。
そして美空にしたように灯の顔に掌を向ける。
「今から記憶を消すから。そしたらもうこんな怖い思いもしなくて済むからね。」
「えっ」
彼の掌から光が放たれる。少し熱を持ったそれは心地よい暖かさだった
無意識に目を閉じていたらしく、次に瞳を開くと彼らは仕事を終えたように灯たちに背を向け帰ろうとしていた。
そんな彼らに灯は声をかける
「待って…待ってくださいっ、あなたたちは一体なんなの?あの化け物はなんだったの?」
その言葉にびっくりした彼らは進めていた足を止め灯の方へ振り返った。
「なんで記憶が…消えてないんだ…?もしかして苑さんしくじりました?」
笹村くんは焦げ茶色の髪をした彼―苑さんに話しかけるが苑さんは首を横に振った。
「いや…術は成功してた。」
「じゃああの女が特異体質ってやつなんすかね。どうします?記憶残ってると結構厄介ですよ」
「殺します?」
すると、笑顔で笹村くんは苑に聞いた。
あわてて後ろの女の子の直海さんが止めに入った。
すると苑さんは髪をくしゃくしゃと掻きまわしたあと
「しょうがないなー…連れて行くしかないっしょ」
「はぁ!?絶対いやですよ!これ以上荷物が増えたら」
「荷物…?私のことお荷物だと思ってたの?」
「いや、違っ、そういう意味じゃないって!言葉の綾だって!おい直ちゃん!」
つーんと顔を背ける直海さんに笹村くんは焦ったように弁解の言葉を述べる
苑さんは「まーたいつもの夫婦喧嘩が始まった」とケラケラと笑っていた。
「…連れて行くってどういうことですか…?私はただアレがなんだったのか知りたいだけで…」
「知ったところでキミが狙われないという可能性はないよ。短期間で二度も襲われるなんてすごく珍しいことだし、やつらにとってはキミはもうターゲットになってるんじゃないかな」
「…ターゲット…?」
「やつらはああ見えて知能はあるからね。自分たちを脅かす存在は消しにかかってくるんだよ。オレと優哉、直ちゃんは完全にロックオンされてるだろうし。キミももう普通の日常は送れないと思うよ」
淡々と説明する苑さんの言葉はまったく頭に入ってこなかった
理解が出来ない。何故彼はそんなことを笑顔で楽しそうに言うのか
「あ、あたしはどうしたら…」
「だから俺らと一緒に行動しろっつってんだよ。死にたくなかったらな」
「行動って…」
「オレたちと一緒にいれば、オレと優哉があの化け物から守ってあげるよ」
「…… 少し、考えさせてください」
昨日今日で話が進みすぎてわけがわからない
整理も出来ていないのに次から次から新しいものが追加されていくようだ…
「考えるって…死にてぇのかよ。これだから馬鹿は嫌いなんだ」
「優哉!」
けっと毒を吐く笹村くんに直海さんは喝をいれたあと、そっと灯に近づいてきた。
「いろいろあって頭が混乱してるだけだよね?大丈夫だよ。」
彼女はにこりと愛らしい笑みを浮かべたあと、少し頬を染めながら灯を見つめた
「あのね、私…あなたが一緒にいてくれると嬉しいな!あなたが一緒にいれば優哉たちがロストから守ってくれるし、女の子の友達も出来るし!」
女の自分から見ても十分かわいいと思えるほどの美少女だった。
上目遣いがこんなに嫌らしくないなんて…っ!
「………」
「あ、ごめんなさい。ゆっくり考えてくれていいからっ」
直海さんは笑顔が絶えない人だなと思う。ずっと笑ってる
「おいこら直海、俺だけじゃ満足できないのかよ」
笹村くんが直海さんの頭の上に腕を乗せ後ろからのしかかる
「そういうわけじゃないけど…やっぱり同性のお友達欲しいし…」
「いらねーだろ?お前は俺だけいればいーの」
「もうっ、そんなのやだってばっ」
「目の前で…いちゃつかないでください…」
「うっせブス」
「ご……めんなさいっ!!」
灯がそう呟くと笹村くんは暴言を、直海さんは謝罪を口にした
「とりあえずもう日も暮れてるし今日は帰ったほうがいいよ。」
「……」
「納得してない顔だね。いいよ、説明してあげる。だけどそれは明日ね。明日、学校で」
苑さんはそういうとにこっと笑った
「学校って…」
「オレ、今日優哉と一緒に転校してきたんだよ」
「えっ、でも」
転校生は笹村くんただ一人…だったはず
「ああ、オレ2年生なのよー。先輩でーす」
せ、先輩!?…笹村くんより年下に見えるんだけどなあ…。ていうか笹村くんが大人っぽいというか、苑さんが子供っぽいというか…
「じゃ、家まで送ってあげるよ」
「え!?いいですよ、そんなの」
「また襲われるかもよー?」
「お願いします」
こうして私、萩野灯の平凡な日常は終わりを告げる――…。
次の日、いつものように学校へと向かう
灯の隣に笹村くんが座り、ホームルームが始まった。
「今日も転校生がいるぞー」
「えーまたですか?」とざわめく生徒たち
そして隣からため息が聞こえる
先生の合図で教室の扉が開き
「初めまして、雪丘直海です。よろしくお願いします!」
笹村くんの彼女さんが転校してきたのである
私が口を開けた状態で固まっていると、彼女は気付いたのか先生に見えないように小脇で小さく手を振った
「それじゃあ、雪丘の席は…山口、山口の隣で」
「はい」
「おい山口、席替われ」
先生が指定したとほぼ同時に横にいた笹村くんが消えていて、気付いたときには山口くんの前にいた
「えっ、なんだよ急に…そんなの困るよ」
「うるせぇ替われ」
「だから困まるって!!」
「替われ」
「無理だよ・・・・・・。」
「替われるよ…な?」
「・・・・・・はい」
哀れ…山口くん…
こうして笹村くんの我侭により、山口くんは私の隣の席へと移動になった
休み時間になると同時に転校生、雪丘さんの周りにどっと人が集まる
笹村君の時には一切なかったのに …
いろんな方向から質問攻めをされている雪丘さんは少し困った顔を浮かべながらも、楽しそうに答えていた。
笹村くんはなんだか納得がいかなさそうな顔をしていたけれど、きっと彼女に邪魔しないように言われたのであろう。
ちゃんと大人しくしていた。
昼休みになる頃には彼女の周りは落ち着いてきて、笹村くんと仲良くお喋りをしていた。
彼女は楽しそうにくすくすと笑うと笹村くんは子供のように唇を尖らせて拗ねていた。
人当たりのいい雪丘さんでも、笹村くんの前では本当に嬉しそうな顔をする。笹村くんも普段は無愛想なのに雪丘さんの前だと、子供みたいに拗ねたり笑ったり…
なんだか見ていてとてもうらやましい二人組みだった。
「ねぇ! 」
遠めで二人を眺めていたらその視線に気付いたのか、雪丘さんが声をかけてきた。
こっちにおいでと手を振られ私はそそくさと近づく
「ずっとお話したかったんだ!お名前、教えてくれる?」
「え…あ、私は萩野灯」
「素敵な名前ね!灯って呼んでいい?」
「うん、あなたも素敵な名前だよ」
「あなたじゃなくて、直海って呼んでよ」
直海は屈折の無い笑顔を見せながらとても楽しそうに話してくれる
「知ってると思うけど、こっちが笹村優哉」
横にいる笹村くんを掌で紹介をすると、
「おいこら、なにが『こっち』だ。俺はモノか」
差し出された彼女の手首を掴み、もう片方の手は胸に…
「ひぁ…!?///ちょ、ちょっとやめてよ!」
「んじゃ謝れよ」
「ご、ごめんって///そんなつもりじゃなかったの…!離して…!///」
「んー?」
謝った彼女なんてそっちのけ、彼は実に楽しそうに彼女の胸を服の上から揉み上げ首筋にキスをしていた。
一気に恥ずかしくなった灯は「こ、購買にいかなきゃ」と言い訳をつけてその場から走り去った。
直海の助けを求める声も聞こえたが、そんなことよりも羞恥が勝って購買部へと全力で止まることなく走った。
購買部へと向かう曲がり角で、全力疾走していた私は
「あだっ!?」
誰かと激突してしまい、その激痛に私は気を失ってしまった。
灯が目を覚ますと、木々の柔らかな緑色が見えた
学園の裏庭のモミの木の下にいるとわかったのは目が覚めてから数分後
寝かされていた体を起こすと隣で木に凭れ口に焼きそばパンを含む苑さんがいることに気付いた
「あ、起きたー?おはよー」
口の端にソースがついている
「…えっと、苑…さんですよね?」
「そー。佐久間苑だよ」
「きみは?」
と焼きそばパンを一口
「萩野灯です…」
「灯ちゃんかー、可愛い名前だねっ」
「はぁ……。」
「あ、これあげる」
そう手渡されたのは、ラップで包まれた焼きそばパン
おそらく購買部で買ったものだろう。
「オレのせいで買えなかったでしょ ?」
「あっ…」
そっか私、購買に行く途中でこの人とぶつかって…
「でも、苑さんの分は…」
「あーだいじょぶだいじょぶ。5つ買ってるから。」
5つも…焼きそばパンを…?
彼の片隅にはおそらく焼きそばパンが入ってあるであろう紙袋があった
そのよこにはビニール袋いっぱいのみかんが…
「みかん…好きなんですか?」
「うん!だいすき!」
「…」
子供みたいに瞳を輝かせて苑さんは言った。
なんだか本当に子供みたいで私はクスリと笑ってしまった
「灯ちゃん、昨日も言ったけど今日から行動はなるべく一緒にしたほうがいいと思うんだ。ロストは建物の中には入ってこれないから家の前まで送って あげるよ」
「でも、悪いですし…」
「灯ちゃんは死にたいの?」
「なにいってるんですか!?死にたくないですよ!」
「だったら一緒にいることだね。悪いとか考え出したらキリが無い」
彼は少し真面目な顔をしてみかんの皮を剥き出す
「それに、オレの手で守れるものは……守っておきたいし。」
その言葉にはなぜか重みを感じた。
私にではなく他の誰かに言っているように灯は感じた。
「?」
「じゃあ放課後、クラスまで迎えにいくよ。優哉たちと同じクラスなんでしょ?」
「あ、でも今日はちょっと…」
「ん?」
「委員会があって…遅くなると思うんですよ…」
「んじゃ、待っとくね」
「そんな…悪っ!!」
「そんなの悪いからいいです」と言いかけた私の口に苑さんはみかんを放り投げた。
「それ禁止ね」
なんて優しい笑顔を向けながら。
口の中には甘くてすこし酸っぱいみかんの味が広がっていた。
次の授業を知らせる予鈴が学園内に鳴り響く
「あっ…授業始まっちゃう…」
結局パン食べれなかった…
私そんなに眠ってたのかな…
予鈴を聞いて立ち上がる私とは裏腹に彼はまた新たな焼きそばパンを口に含んでいた
「苑さん、あの、授業始まりますよ?」
「うん、だいじょーぶ。灯ちゃんは遅れちゃうから早くいきな~」
「…、パンありがとうございました!」
お礼を告げ私は駆け足で教室へと向かった。なんだか今日は走ってばっかだなぁ…
「灯ちゃん は元気だな~」
なんてオレ、佐久間苑は口に焼きそばパンを含みながら走り行く彼女の後姿を見つめた
「で、直ちゃんの傍にいなくていいの?」
寄り掛かっているモミの木の裏側から人の気配がして、その気配の主に苑は声をかけた。
「授業中は構えませんからね。つまんないんで。それに建物の中なら安全ですから」
「ふ~ん」
彼は本当に直ちゃんのことばかりなんだな~。
「でもね、ロストは入ってこれなくても…アイツらなら入ってこれるよ…?」
「……」
そういうと優哉は黙ってしまった。
相変わらず、優哉はアイツらのことが許せないらしい。
(まっお前だけじゃないけど・・・・・・)
授業が始まり静まり返った裏庭にぞろぞろと生徒たちが集まってくる
それはオレたちを取り囲むかのように
「おいおい授業受けろよてめーら」
「あはは☆オレらが言えることじゃないじゃーんっ」
冗談交じりに生徒たちに言うが返事が返ってくるわけもない
だって彼らはロストに操られているのだから
「んじゃま、気を失わせますか」
「はいよー」
器である生徒たちを傷つけないようにオレたちは峰打ちで意識をなくす
すると倒れた生徒の口から魂のようなものが出て行くのが見えた
「なんだ…あれ」
「なんすか?」
優哉には見えないらしいソレは一方に集まり次第に形を成していく
幽霊のように薄いソレはきっと魔力のない人間には見えないのだ、そうオレは解釈した。
ということは物理攻撃が効かないタイプか。
「困ったな…」
オレはともかく優哉は物理タイプ。この戦闘には向いていない。それに相手の姿すら見えていないのだから
そのときだ 一瞬、雲が太陽を隠した
暗くなった裏庭でやつの姿がはっきりと見えた
それは優哉にも見えたらしく、彼はすっと銃を握りしめた
「見えた?」
「はい」
太陽が顔を覗かせるとソレはまたうっすらと実体の無い存在へと還っていく
どうやらソレは影にはいると実体を持つらしい
「優哉、ついてこい」
オレはそう告ぐと校舎の影となっている場所へと向かった
言った通り優哉はオレについてくると、もちろんソレもオレたちを追いかけてきた。
校舎の裏側で、全体が影になっているところにたどり着くと実体をもったソレはオレたちにとって恰好の餌食となった
「さっさと片付けてやるよっ!」
「おい、ちょっと待て優哉!」
昔のくせなのか、いつものように彼はソレへと特攻をかける
彼は今は銃使いだというのに
ロストへ確実に技を決めながら優哉はソレの背中へと駆け上がる
そして背中から後頭部を撃ったときだった
優哉の後ろからもう一体のロストが現れたのだ
彼もそれには気付いたようで咄嗟に避けるが間に合わなかったようで頬に切り傷を作った
「くそっ…!」
優哉が体勢を立て直しやつへ向かいなおしたとき、ソレの額に突き刺さるように刀があった
その刀はオレが投げたものだ
「お前はもう刀使いじゃないんだ、むやみに突っ込むな」
ロストが消えると同時に刺さっていた刀が音を立てて地面に落ちた
優哉は刀を目で見つめたあと、それを拾い上げ刀を見つめながら「そうですね」と呟いた
「でも苑さん、投げないでくださいよ。俺の大事な相棒なんすから」
「だって~投げたほうが早いかなって~」
そう、オレたちはあの日
二人でヤツラをぶっ壊すと誓った日
お互いの武器を交換したのだ
「さて、授業でようか~」
「え 、今からっすか?」
と雑談しながら校舎の裏側から校舎の表の入口へ通じる裏道に向かおうとした苑達の前に人が道を塞ぐように現れた。
苑が足元から徐々に顔を上げていき道を塞ぐ人影を見てみるとその人影はまるで戦う気のないふざけた格好したピエロの二人組が苑と優哉の道を塞ぎそして、不気味に笑っていた………。
コラボ作品ですがまだまだ続きます。
のでどうぞご愛好の元ご覧くださいませ~。
作者名は気にしないでください如月の所にも置くつもりなので・・・・・。