act.006
カップ焼きソバをお湯と一緒に排水溝に流した時の悲しみは異常・・・。
―――プリズムアーク。
それはこの世界の名前と同時に、世界最大の都市の名前でもあった。
その都市はアエリア王国の首都とて機能し日々賑わいを見せ、都市の周囲を十メートルからなる高い城壁が囲み、東西南北四つの巨大な門がそびえていた。
日々活気を見せる都市だが、観光名所としても有名であった。
都市の上空に浮遊する八つの城。
都市の中心に浮遊する一番大きな城を王城とし、それを取り囲み守護するかのように浮遊するそれぞれ赤、 橙、 黄、 緑、 青、 藍、そして紫のオーラを放つ七つの城があった。
その七つの城を管理するのが世界にその名を轟かせる《七騎士》。
それぞれが王国の軍事や政治に精通し、重要なポストを収めていた。
その一角を収めているのが、今、隣を気丈な姿で馬に揺られているマリア・アークスだった。
そしてその七つの城に囲まれた王城は白色の輝きを放っていた。
「マリアさんは『白』の所属では無いのですか?」
と青年は隣を一緒に馬に跨って歩くマリアに尋ねた。
「マリアと呼び捨てで構いませんよ?」
気にした様子もなくそう言うマリアを見て青年は
「えーっと・・・ま、マリア?」
と軽く語尾がうわずってしまい、それを聞いていた弥彦が「師匠・・・プププ・・・」と笑いを堪えるのに必死そうだった。
「はい、私は本来『藍』の所属なのですが、女王陛下に認められ新設したばかりの部隊の騎士団長として配属される事が決まりました」
「へぇ~じゃそれで『白』の名を使っているんですね」
「そうですね。現在、引継ぎ作業や新しい部隊員の訓練で色々と追われていましてね」
「あはは、でも最高名誉な分頑張らないとですね」
「ええ、とても充実しています。来週には正式に『藍』を後任の者に任せ『白』に異動が完了します」
顔を少し赤くして照れ隠ししながら笑うマリアを見て、青年は「綺麗だなァ~」と聞こえないように呟いた。
「そうですねぇ~」
と弥彦にはしっかり聞こえていたらしい・・・。
「しかし、随分お詳しいご様子。何度か来られた時があるのですか?」
「ええ、昔一度だけこの街に来た時があります」
「そうですか、では随分街の様子が変わって驚かれているのでは?」
青年はその問いに一つ頷き、遠い昔に思いを馳せた。
それから世間話をしつつ街の様子を眺め、ようやく待ちに待った言葉がマリアから発せられた。
「そろそろ王城の入り口に着きます」
その一声で青年や弥彦、そして他の騎士達も身を正した。
「女王陛下のご客人をお連れした。門を開けてくれないか?」
マリアが門番に一声かけると門番は「は、直ちに!」と勢いよく敬礼し「門をあけろーーー!」と大声で叫んだ。
―――ゴゴゴッ。
鈍く渋い音を立てながら、最初に通った門より少し大きめの門がゆっくりと開き始めた。
そして門が半分くらいまで開いたとき、青年と弥彦は声を漏らした。
「「あ・・・」」
門の奥に目を凝らして見ると、そこには一人の女性が立っていた。
決して華やかではない衣装。
それは女性の放つオーラによって見劣りするだけの話だった。
どこかあどけなさの残る顔。
それは彼女が青年との約束を守っているという証拠。
「待ちかねましたよ・・・お久しぶりですね、灯馬・・・」
その声を聞いた青年は慌てて馬を降り、腰から折れるように頭を下げて
「お久しぶりです、雫叔母さん」
青年は頭を上げ、久しぶりに再会する人物に最高の笑顔を見せた。
それに釣られてか、雫叔母さんと呼ばれた女性も最高の笑顔を見せたのであった。
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