act.004
モツ鍋が食いたい季節になってきましたね・・・。いや、キムチ鍋が良いかな!
「二人ともしっかりしろ!今回復の魔法を使う!」
「「・・・ッッッ!」」
声にならない悲鳴を上げ、二人は必死に激痛に耐えていた。
バッカスとダンは気絶しようにも痛みが勝り気絶する事ができず、我を忘れて痛みに耐えていた。
女騎士の両手が白く光り、バッカスとダンに向け手をかざすと二人は白い光に包まれ徐々に止血されつつあった。
そしてようやく流れ出していた血が止まりホッと溜息がでかかった頃、不意に背後から声がかかった。
「おい、戦闘中なのを忘れてないか?」
三人がハッと息を呑み、背後にたたずむ青年を見て己の過ちにようやく気がついたのだった。
「馬鹿だろ?おまえら」
青年がケラケラと笑う。
「何で忘れられるんだよ!」
笑いじゃ留まらず、爆笑の域に達していた。
「止めだやめだ!」
アホらしいとばかりに青年は黒い刀を空中に投げ捨て、刀は空中で霧散し形を消した。
そんな青年の笑う姿を見てバッカスとダンは緊張の糸が切れたのか、ようやく意識を失う事ができた。
不意に意識を失う二人を見て女騎士は慌てたが、静かな寝息を漏らしている二人を見て安堵し、立ち上がって青年を再び正眼に見据えた。
「どうして、襲ってこなかった?」
「元々殺し合いをするつもりはなかったしな」
「バカな?!二人にこんな傷まで負わせて、そんなつもりはなかっただと?!」
「ぁあ・・・第一、お前が最初に突っかかってきたんじゃないか・・・オレは被害者!そしてそこで寝ている二人もお前のせいで怪我をしたんじゃないか?」
「う・・・」
二人なら大丈夫だろうと高をくくっていた為、予想打にしないこの結末は全て自分の責任であると気が付き女騎士は押し黙った。
「それに・・・」
と青年が言葉を発し、続けた。
「三人・・・いや四人か・・・何を勘違いしてるんだ?」
「えっ?」
気の抜けた声が女騎士から発せられたが、それに突っ込む事はせず青年は言葉を続けた。
「いやだから、何でわざわざ『怪我の手当てをしているのか?』と聞いているんだが・・・」
と青年は静かな寝息を立てている二人に指を刺し、それに釣られて女騎士は視線を二人に向け目を疑った。
「どこも怪我をしていないし、失ってもいないだろ?」
「なっ・・・何故!!」
そこには二人が失ったはずの腕や手、脚がしっかりと残っていた・・・。
愕然とする女騎士を尻目に、気の抜けた声が木霊した。
「ししょ~~~やりましたねー!」
「弥彦、無事だったか」
ホッとする青年を見て、弥彦は「もちろんです!」と元気一杯な声で返した。
「でも、本当に凄いですね!ボクにもあの二人の手足がなくなったように見えましたよ!」
興奮が冷めないのか弥彦は鼻息を荒くして青年に言い続けた。
「どんな魔法ですか?ボクにも使えますか?ってか、ボクも師匠みたいになれますか?!」
「おいおい、そんなに続けて聞くな・・・それに最後のはお前の努力次第だといつも言っているだろぅ?」
そう言いつつ青年は弥彦の頭をグリグリと強めに撫で、弥彦を黙らせた。
「な・・・だ・・・」
弥彦に気を取られ、女騎士の言葉を聞き逃した青年は「ん?」と問いかけた。
「なんなんだ・・・一体何が起こったというのだ・・・」
未だ目の前で起きている事が信じられないのか女騎士は言葉を続けた。
「どんな魔法だ・・・いや、そもそも魔法なのか・・・」
「あちゃ~~」と弥彦は女騎士の様子を可哀想な眼差しを向けていた。
―――ゴンッ!
「弥彦・・・」
と拳骨を落し一つ低いトーンの声で弥彦を注意しつつ、女騎士に近寄った。
「どうする?続きをやるか?」
いつでも自分の大切な部下を失う覚悟はできていた。
だが、覚悟はできていても実際それが起こるとパニックになるのがどこの世界でも普通だった。
それが長年自分を支え続けた大切な部下だったら尚更・・・。
だがその焦りはどこの誰ともわからぬ男によって作られ、そして仇を討とうにも失うはずだった部下は健在だった為に恨みの感情は霧散し、なんとも言えない心情が女騎士を支配していた。
「できない・・・もうお前に刃を向ける事は出来ない・・・」
「そうか、なら良い」
青年は弥彦に向き直り「じゃまた街を目指そうか」と言いかけた時に、それは襲い掛かった。
「くっ・・・まだ来るかよ・・・!」
それは先ほどまで戦っていた三人より強大なプレッシャーだった。
そのプレッシャーに感づいたのか弥彦は無意識に青年の袖を掴み、遠くから来るプレッシャーを与え続ける者の姿を見据えていた。
「やれやれ・・・前途多難だな・・・これは・・・」
一つの溜息を漏らし、青年は憂鬱な気分になった。
ご意見、ご感想お待ちしております。