act.002
本を読むことの他に、ギャンブル(スロット)が物凄く好きです。この小説はギャンブルを辞める為の一環として書いてます。目指せ!脱ギャンブル!
「何者だ! 返答によっては痛い目を見るぞ」
敵意むき出しに、その言葉を最初に発したのは3人組の一人、まだあどけなさが抜け切らない女性だった。
白の鎧を身に纏い、片手には槍を携え、白馬に乗っている姿はまさしく・・・。
「さながら白馬の王子様ならぬ白馬の王女様だな」
と聞こえないように呟いたつもりだったが
「なんだと?!」
しっかり聞こえていたらしい。
「無礼者め、名をなのれ!」
槍の矛先をこちらに向け、まくし立てるように彼女は言った。
それに続いて両脇に居た男達も剣を抜くと同時に二人を囲み、いつでも襲いかかれるよう態勢を取っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
慌てて青年は弁明しようと頭をフル回転させた。
「俺達は旅の途中でここ近くにある街に寄ろうとしただけで、決して怪しい物では・・・」
そう青年が言った瞬間、二人を囲む3人の口の端が釣り上がるのを見て、失敗を悟った。
「バカめ! 自ら墓穴を掘るような事をいいおって・・・我が王国とマクサス神聖帝国とが戦時下にあり国境と街を一時封鎖しているのは赤子でも知っている事だ!」
まさか戦争中だと知らなかった青年は驚きの表情を隠せないで居た。
と同時に自分の安直な考えに内心、舌打ちをした。
「うわ~その言葉は無茶苦茶怪しいですよ師匠・・・」と軽蔑の眼差しを弥彦に向けられていた。
女騎士を見上げると勝ち誇った顔でこちらを見下ろし、癪に障るその顔を見てますます苛立ちを覚えたが、目の前の三人は(特に女騎士)は逃がす気は無いという意思が目に見えて感じ取れた。
不安を抱えた弥彦は慌てて女騎士と青年を交互に見て、青年に縋り始めた。
「し、師匠~?」
「安心しろ、大丈『バッカス、ダン引き捉えろ!』・・・」
不安げにこちらを見つめる弥彦を落ち着かせようとしたが、別の言葉に遮られた。
バッカス、ダンと呼ばれた二人の男騎士は馬から降り、無精髭を生やし長身のバッカスが捕縛しようと近づき、右頬に大きな傷跡があるダンが後ろで剣を構え待機していた。
この現状を打破しようと青年はギリギリまで頭を回転させ、仕方無く本来の目的を告げることにした。
「まってくれ!」
その声に騎士達は一斉に驚き、慌てて武器を構えなおした。
青年は両手を上げ敵意が無いことを示しつつ言葉を続けた。
「嘘をついていたのは謝る。だが、オレはある人に会いに来たんだ」
「ある人だと?」
女騎士が問い返した。
「そうだ、アエリア王国現女王にして『創生の魔女』の一人、雫様に」
弥彦も含め、騎士達に動揺の色が一瞬広がった。
「その証拠に、謁見を許される者に与えられる『光の宝玉』も持っている」
青年は慎重に持っていた大きめの袋を地面に下ろし、片手は上げたまま、もう片方の手で袋をあさり目的の物をゆっくり取り出した。
それは12面体にカッティングされた黒い石だった。
「これは今の段階ではただの黒い石だが、特定の場所でこの石を砕いた場合本来の姿に戻る仕掛けになっている。騎士殿ならこの意思の意味をわかってくださるはずですが・・・」
そう言い再度、女騎士を見上げると表情は憤怒に溢れかえっていた。
女騎士が手綱を一気に引き上げ、馬を二本足立ちさせ、
「光の宝玉だと?! 笑わせるな、そんな名前聞いた時も無いわ!」
馬の前足が地面に戻る反動を利用して突然、槍の突きを放ってきた。
それはまさしく、一種の到達点に辿り着いた者だけが放てる神速の突き。
「っ!」
咄嗟に弥彦を抱きかかえ避けたが、足の太ももをかすめ浅い傷を作っていた。
「バッカス、ダン、もう良いこの場で処断するぞ」
怒りをそのまま言葉にし、部下である二人に指示を出した。
それに意義を唱えようとしたのはバッカスだった。
「しかし、あねさん・・・これは・・・」
「うるさい、口答えするのか?」
有無を言わせぬその様にバカッスは黙るしかなかった。
「すまねぇな、あねさんは本当は良い人なんだが、女王様の事になると血が上りやすくてな・・・信仰に近い感情を抱いているんだわ。 しかも如何にも怪しい身なりをしたあんた達が名前を出した時点で・・・」
「そういう事か・・・」
今一納得できない部分もあったが、本当に申し訳無さそうに言うバッカスを見て青年は軽く頭を抱えたくなった。
「そういう事であんちゃん、悪いが死んでもらうぞ。 苦しまないようにするからな・・・」
バッカスがそう言うと、一気に殺気が膨れ上がった。
弥彦は「あわわ!師匠・・・」と慌てふためいて不安げに見つめてきた。
「こうなっては仕方が無い、弥彦さが・・・」
下がって隠れていろ。と言いかけたが、とうの弥彦は青年の言葉を半分だけ聞きすでに離れた場所に避難し始めていた。
青年は離れる弥彦を見て一つ溜息をつき、今にも襲い掛かろうとしている三人を見据えた。
「悪いが、こちらにも行かねばならない理由がある。 ここで死ぬわけにはいかないんだ」
「だろうな・・・」
バッカスが一つ頷き、また一瞬だけいたたまれない表情を浮かべていた。
それを見た青年は「やれやれ・・・」と呟き、戦闘が始まった。
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